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またたび森のおねこさま

柊一郎とミケのやり取りを見たおねこさまは首を傾げた。
「柊一郎は、猫が嫌いじゃなかったのか?」
おねこさまに聞かれて、柊一郎はミケを見た。ミケも柊一郎を見た。ミケは柊一郎とおねこさまを交互に見て、大声で笑った。
「コイツが猫嫌い? おねこさま、それ、どこで聞いたんですかィ。まあ、猫好きとは言いませんがねェ、俺、結構大事にされてますよォ」
「何、ミケは柊一郎の家にいるのかっ?」
「ええ、おねこさまが探してるって言ってたんで、転がり込んで、それで今日連れてきたんですよォ」
おねこさまは目を丸くした。柊一郎とミケは再び目を合わせて、お互いに首を傾げた。
何故おねこさまは、柊一郎を猫嫌いだと思ったのだろうか。今まで柊一郎は猫嫌いだと一度も言ったことはないし、父親のように猫を追い払ったりしたこともない。猫の間で、何か悪い噂でも流れているのだろうかと、柊一郎は心配になり、それをごまかすようにミケの頭をそっと撫でた。
「なんだって、コイツが猫嫌いなんて勘違いしたんですかィ?」
「だって、あれから隼太郎はいつも冷たかったんじゃ」
隼太郎というのは、柊一郎の父親の名前である。猫嫌いの男の名前を、まさか猫の集会で聞くとは思わず、柊一郎はミケを撫でる手をピタリと止めた。
「なあ。あれからって言ってたけど、一体、何のことなんだ?」
「む? なんじゃ、知らんのか?」
おねこさまは少し考えこんだかと思うと、立ち上がり、「ちょっと待っておれ」と言って猫の群れへと歩いて行った。
猫たちは樽の酒を呑んでは明るく踊りだし、わいわいと酒宴を始めている。ミケはそれを眺めながら、また酒をチビリとやった。
「何なんだ、一体」
「さァ。俺も、おねこさまがお前を探してるって言うから連れてきたけどよォ」
「もしかして、俺の家に転がり込んできたのも、そのせいなのか」
「そりゃァそうさ。おねこさまは俺らの守り神みてェなモンだからな。そんな人が探してるっていうんなら、俺は例え火の中でも向かっていくさァ」
ミケは胸を張って、どんとその胸を叩いた。
「本音は?」
「うまくしたらよォ、あの樽の酒、樽ごと分けてもらえねェかと思ってな」
ミケはベロンと口の周りを舐めた。どうやら、相当にいい酒らしい。
「あの酒はよォ、三日月の夜に、おねこさまが気に入ったヤツしか呑ませて貰えねェんだ。俺はァ、あの酒が一番好きだなァ、うまいんだよ」
ミケが杯を嘗めると、カラカラと音がした。杯の上にはもう、酒が無かった。
「俺は、おかわりにいくぞォ」
「飲み過ぎるなよ。お前を抱えては帰れないから」
「あいよォ」
ミケはふらふらとした足取りで、樽の方へと向かっていった。
それと入れ替わるように、おねこさまが一匹の猫――先程マツに「アツ」と呼ばれていた猫を抱えてきた。アツは他の猫に比べてあまり酔っていないようだった。柊一郎の顔を見て、ハッと息を飲む。
「柊一郎。この猫は知っているか?」
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