ほぼほぼウェポン
少し時間がかかりすぎていたようだ。看守に見つかってしまった。しかし、これは好都合である。魔法系の武器であるという少年の使い方を勉強できる。
看守は二人いた。こちらに銃口を向け、今にも撃ちそうである。
「少年。彼らの動きを止めたまえ。ただし、命は奪うな。私がこの施設を出たら魔法を解いてくれ」
少年は両手を看守共に翳した。その手から魔力が放たれ、看守たちの動きが止まる。息はできているようだ。私は看守の一人に近づいた。
「もう追わないでくれたまえ。私はおおよそ武器と思われるものを二つも手に入れた。ここは大人しく逃がすのが命のためだ」
私はウェポンと少年を連れ、牢獄を後にした。
ウェポンの額の地図で確認すると、屋上までは近くのドアを開ければいいようだ。あそこで看守がいたということは、なんとなく屋上にはあの彼がいそうであるが、ここまで来たら仕方がない。私は屋上へのドアを開けた。
案の定、ドメイルが立っていた。意外だったのは、アルシールもいたことである。腹心の部下だとしたら、ドメイルの趣味を疑う。
私は誰にも聞こえないぐらいの小声でウェポンと少年に指示を出す。
「貴様の目的は何だ」
ドメイルは銃すら持っていなかった。だが高圧的で、堂々としている。これに臆してしまっては意味がない。私は薄ら笑いを浮かべながら対峙する。
「君たちは何度私に同じ質問をするのかね。私がするのはただ一つ。この国を奪うことさ」
初めてドメイルが表情を崩した。小馬鹿にするように笑っている。
「随分とご大層な目的だな。白々しい。貴様はわざと失敗するクーデターを起こしたのだろう。単身で城に乗り込んでクーデターなど、正気の沙汰ではない」
そう。私はクーデターを起こした。単身で、包丁一振りで、国王のいる玉座まで行ったのだ。当然すぐに捕らえられ、投獄された。それにはやんごとなき理由があるのだが、今は置いておこう。ここは虚勢を張るのが一番だ。
「包丁一振りでも、国王の喉元まで行った。次は掻き切るところまで行けるだろうさ」
「随分と勇ましいが、お前の目的は本当に国家転覆か?」
含みのある言い方だった。私は黙って、ドメイルの次の言葉を待つ。
「貴様はその武器を取りに来た。違うか?」
ドメイルは私の後ろにいた少年を指した。思いもよらない発言だった。
「それを外に持ち出される訳にはいかぬ。そして、その娘もこちらへ引き渡してもらう。その代わり、貴様は特別に見逃してやろう」
どうやらこの牢獄は、この武器――少年を保管する役目があったようだ。ドメイルはウェポンに対して随分と警戒していたが、他の看守たちは全く気にしていなかったことを見ると、ドメイルにのみ与えられた任務なのかもしれない。
私は、ドメイルの提案に乗るつもりは全くない。そもそも乗ろうが乗らまいが、どうせ私を殺しにかかってくる。私は少年に目配せし、ドメイルとアルシールに向かって魔法を打ち出させようとした。先程と同じ魔法だ。これで少しは楽に――。
急に身体が動かなくなった。いやもう、明らかに原因は少年だろう。この魔法が私に当てられたということは、とどのつまりそういうことである。
ドメイルは悠々と私の横を通り過ぎていった。少年に近づいていっているようだ。身体を動かせないので、ウェポンはどうしているのか全く見えない。
「これは元々私が預かっている武器だ。この場では私の言うことを一番にくように設定されている」
主、いたじゃないか。ウェポンの推論が外れたな。もう仕方ないとか言っている場合じゃないけど。
ドメイルが少年に何らかの指示を出しているのが聞こえた。ああもう、万事休すだ。物語ならこの辺りで助けが来るのに。誰か、なんとかしてくれ。
何かが斬られる音がした。これは人を斬った音だろう。刹那、私にかけられた魔法が解けた。急いで音の方を振り返ると、ウェポンが少年の胸に剣を突き刺している。ドメイルは驚きなのか怒りなのかわからない顔で、わなわなと震え、ウェポンへ拳を振り上げた。私はその腕に向かって走り、包丁で斬りつけた。ドメイルは血の出た腕を抑える。そこへ、私はアルシールに体当たりをされ、吹っ飛んだ。あの優男にこんな力があるとは。とんだ伏兵だ。
アルシールは、そのままドメイルの後ろへとそそくさと隠れた。いや、そこで隠れたら何の意味もないだろう。前言撤回。ドメイルは今すぐそいつを解雇した方がいいいと思うぞ。
ウェポンは少年から剣を抜き、私の方へ駆け寄った。少年からは血が流れていなかった。何か透明の液体がサラサラと流れ出ているだけである。あれが武器の血なのだろうか。
看守は二人いた。こちらに銃口を向け、今にも撃ちそうである。
「少年。彼らの動きを止めたまえ。ただし、命は奪うな。私がこの施設を出たら魔法を解いてくれ」
少年は両手を看守共に翳した。その手から魔力が放たれ、看守たちの動きが止まる。息はできているようだ。私は看守の一人に近づいた。
「もう追わないでくれたまえ。私はおおよそ武器と思われるものを二つも手に入れた。ここは大人しく逃がすのが命のためだ」
私はウェポンと少年を連れ、牢獄を後にした。
ウェポンの額の地図で確認すると、屋上までは近くのドアを開ければいいようだ。あそこで看守がいたということは、なんとなく屋上にはあの彼がいそうであるが、ここまで来たら仕方がない。私は屋上へのドアを開けた。
案の定、ドメイルが立っていた。意外だったのは、アルシールもいたことである。腹心の部下だとしたら、ドメイルの趣味を疑う。
私は誰にも聞こえないぐらいの小声でウェポンと少年に指示を出す。
「貴様の目的は何だ」
ドメイルは銃すら持っていなかった。だが高圧的で、堂々としている。これに臆してしまっては意味がない。私は薄ら笑いを浮かべながら対峙する。
「君たちは何度私に同じ質問をするのかね。私がするのはただ一つ。この国を奪うことさ」
初めてドメイルが表情を崩した。小馬鹿にするように笑っている。
「随分とご大層な目的だな。白々しい。貴様はわざと失敗するクーデターを起こしたのだろう。単身で城に乗り込んでクーデターなど、正気の沙汰ではない」
そう。私はクーデターを起こした。単身で、包丁一振りで、国王のいる玉座まで行ったのだ。当然すぐに捕らえられ、投獄された。それにはやんごとなき理由があるのだが、今は置いておこう。ここは虚勢を張るのが一番だ。
「包丁一振りでも、国王の喉元まで行った。次は掻き切るところまで行けるだろうさ」
「随分と勇ましいが、お前の目的は本当に国家転覆か?」
含みのある言い方だった。私は黙って、ドメイルの次の言葉を待つ。
「貴様はその武器を取りに来た。違うか?」
ドメイルは私の後ろにいた少年を指した。思いもよらない発言だった。
「それを外に持ち出される訳にはいかぬ。そして、その娘もこちらへ引き渡してもらう。その代わり、貴様は特別に見逃してやろう」
どうやらこの牢獄は、この武器――少年を保管する役目があったようだ。ドメイルはウェポンに対して随分と警戒していたが、他の看守たちは全く気にしていなかったことを見ると、ドメイルにのみ与えられた任務なのかもしれない。
私は、ドメイルの提案に乗るつもりは全くない。そもそも乗ろうが乗らまいが、どうせ私を殺しにかかってくる。私は少年に目配せし、ドメイルとアルシールに向かって魔法を打ち出させようとした。先程と同じ魔法だ。これで少しは楽に――。
急に身体が動かなくなった。いやもう、明らかに原因は少年だろう。この魔法が私に当てられたということは、とどのつまりそういうことである。
ドメイルは悠々と私の横を通り過ぎていった。少年に近づいていっているようだ。身体を動かせないので、ウェポンはどうしているのか全く見えない。
「これは元々私が預かっている武器だ。この場では私の言うことを一番にくように設定されている」
主、いたじゃないか。ウェポンの推論が外れたな。もう仕方ないとか言っている場合じゃないけど。
ドメイルが少年に何らかの指示を出しているのが聞こえた。ああもう、万事休すだ。物語ならこの辺りで助けが来るのに。誰か、なんとかしてくれ。
何かが斬られる音がした。これは人を斬った音だろう。刹那、私にかけられた魔法が解けた。急いで音の方を振り返ると、ウェポンが少年の胸に剣を突き刺している。ドメイルは驚きなのか怒りなのかわからない顔で、わなわなと震え、ウェポンへ拳を振り上げた。私はその腕に向かって走り、包丁で斬りつけた。ドメイルは血の出た腕を抑える。そこへ、私はアルシールに体当たりをされ、吹っ飛んだ。あの優男にこんな力があるとは。とんだ伏兵だ。
アルシールは、そのままドメイルの後ろへとそそくさと隠れた。いや、そこで隠れたら何の意味もないだろう。前言撤回。ドメイルは今すぐそいつを解雇した方がいいいと思うぞ。
ウェポンは少年から剣を抜き、私の方へ駆け寄った。少年からは血が流れていなかった。何か透明の液体がサラサラと流れ出ているだけである。あれが武器の血なのだろうか。