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ほぼほぼウェポン

「もうなんでもアリですね」
 そう言いつつ、ウェポンはおでこを素早く擦った。擦って少し赤くなった痕に、うっすらと図形のようなものが見えた。ものすごく小さいが、それは地図のようである。
「出るものだね、地図」
「これが限界みたいですけど」
「なに、立派立派。十分に読める」
 私はその地図を見ながら歩きだした。地図は小さく、多少読みにくいがおおよそ正しいようである。たまに牢獄の数が異なっている程度で。
 あの部屋で私たちを捕らえるつもりだったからだろうか。看守の姿は見えなかった。だが、騒ぎは広まっているようで、囚人たちが暴れていた。流石に扉が開けられるようなことはないようである。何人かの囚人がこちらに気づき、ここから出せと叫んでいる。
「お兄さん、どうするんです?」
「そりゃあ助けるさ。ウェポンがね」
「棍棒じゃ無理ですよ」
 かといって、包丁で複数の扉を叩くのは効率が悪すぎる。そこで、ウェポンの両腕を「何でも切れる剣」に変身させてみた。これまた、ふわっとした命令だったのにも関わらず、ウェポンの腕は綺麗な刃を持つ剣と化した。
 私はウェポンに命じて、鋼鉄のドアを次々に切り刻んでいく。ウェポンの正体を知らない囚人たちは驚いたり、怯えたりしたが、それもごく短い間のことで、すぐに外へと飛び出していった。すぐに混乱が起きる。ここにいるのは一般人じゃない。折り紙つきの悪者たちばかりだ。例え逃げているときだって、肩がぶつかれば喧嘩を始めるような脳筋も多い。場はすぐに大混乱となった。
「全部開けますか?」
「いや、進行方向だけでいい。彼らは目くらましになってもらおう」
 私はウェポンの額にある地図を確認した。
「このまま出口へ向かっても捕まるだけだ。この混乱に乗じて、上へ逃げる」
「上って、屋上ですか」
「そうだ。彼らと同じ方向に向かっても意味がないし、そもそもそれ自体がリスクだ」
「でも、上に出口はないですよね」
「まあ、そこは任せてくれたまえ」
 特に案はないが、なんとなくうまくいく気がする。こういうときの勘は大体当たる、はず。
 私たちは出口へ向かう囚人たちに背を向けて、屋上へ向かった。その間にあった牢獄のドアも全て切り刻み、囚人たちを解放していった。
 屋上まであと少しというところで、私はある牢獄の前で足を止めた。
「お兄さん、どうしました?」
「いや、あれは一体どういうことかと思ってね」
 その中にいたのはウェポンと同じ年頃の子どもであった。この牢獄には重罪人しかいない。このような子どもが何をしたというのだろうか。それも、私よりも厳重に拘束されている。これまで解放してきた囚人たちは、どれも手が拘束されている程度であり、自分の足で逃げ出せる者ばかりであった。それに対し、この子どもは体中に呪符が貼り付けられて、頭しか露出していない状態だった。中性的な顔立ちで、男女のどちらかなのかは判断がつかない。
 私は牢獄の中に足を踏み入れた。子どもは虚ろな目で、こちらを見る。
「君は、ここで何を?」
「……」
 反応がなかった。
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