ほぼほぼウェポン
「きっと僕たちを探しに行ったから、いなくなってしまったのだろう」
そんな馬鹿な、と私は思ったが、アルシールはそのまま部屋へと入っていった。私は部屋に入る直前、アルシールにも聞こえないぐらいの小声で、ウェポンへと指示を出した。
部屋にはいると、数十人の看守がこちらへ銃を向けていた。ある程度の罠は予想していたが、人数が多すぎる。
私は包丁を床に置き、両手を挙げる。看守に銃で指示され、ウェポンも仏頂面で両手を挙げた。一方のアルシールは、看守の中でも一番偉そうな男――おそらく看守長であろう――の横に、腰を低くして向かった。アルシールはやはり罠だったようだ。看守長との関係は謎だが、おそらく私たちとコンタクトを取らせ、この罠へと誘い込む役を請け負ったのだろう。
確か、あの看守長は事前調査で調べていた。名前は、ドメイルとかいう名前だったはずだ。
ウェポンは苦虫を噛み潰したような顔をして、アルシールへ叫んだ。
「騙したな! この変態!」
「全くお人好しですねえ。私が看守側の人間だと気づかなかったのですか?」
アルシールが下卑た笑いを浮かべる。これだけで何らかの事案が発生しそうだ。
何の目的なのかはわからないが、看守側はこのアルシールを味方としてこの場に置いているようだった。あの迫真の変態演技が嘘だとは思えないので、囚人は囚人なのだろう。いや、囚人であってほしい。
とにかく、詳しい事情は全くわからないが、私たちの敵であることは確かである。
「勝手に喋るな」
ドメイルが、アルシールの頭を勢い良く殴った。一発で気絶するほどに。彼は床に崩れ落ちた。ウェポンが嬉しそうにニヤニヤしてそれを見ていた。
「おい。その娘は何だ」
ドメイルは極めて高圧的に問いかけてきた。
「武器商人から頂いた武器です」
私は正直に答えた。一瞬の間の後、看守たちが笑いだした。確かに、ウェポンの見た目は武器ではない。嘘を吐くこともできたが、どうにもここで嘘を吐くのは良くない気がした。ひどく直感的に。
「黙れ」
ドメイルが一喝すると、しんと静かになる。
「それが武器であるというのなら、無効化せよ」
ドメイルの言葉に、看守たちは戸惑いながらもウェポンに銃口を向けた。私はウェポンに目配せをする。ウェポンは頷いた。
ウェポンは大きく息を吸ったかと思うと、思い切り噴き出した。鼻の穴から、真っ白な蒸気が吹き出し、あっという間に辺りが見えなくなる。私はウェポンを抱えてその場から逃げ出した。
しばらく走り、周りに人がいないのを確かめてから、ウェポンを降ろした。かなり息が上がってしまっている。ずっと投獄されていただけあって、かなり体力が落ちているようだ。ウェポンはいつの間にか私の包丁を拾っていた。
ウェポンはなんだか複雑な顔をしている。
「スモークって武器ですかね」
「君が出せたということは、ほぼほぼ武器ってことだろう」
部屋に入る前、私はウェポンに「煙幕が出せるような感じの、スモークマシンになれ。できれば見た目変えず」と無茶な指示をしていた。ウェポンは自信がなさそうではあったが、私の意思を汲んでくれたらしい。おそらく、彼女自身も罠であるとは感じていたのだろう。特に騒ぎもせず指示に従ってくれた。まさか、鼻息がスモークになるとは思わなかったが。
ウェポンにとって、「武器」の範囲はひどく曖昧なようだ。しかも、本人もわかっていない。確かに、武器商人の言うように、「武器」としては不完全なのかもしれない。まあ、ほぼほぼ武器って思っていればいいか。
私はウェポンから包丁を受け取り、刃こぼれがないかチェックする。この包丁はクーデター前に友人から譲り受けたものだ。大切にしたい。
「ついでに、地図とか出せたりしないかな。武器用の地図」
そんな馬鹿な、と私は思ったが、アルシールはそのまま部屋へと入っていった。私は部屋に入る直前、アルシールにも聞こえないぐらいの小声で、ウェポンへと指示を出した。
部屋にはいると、数十人の看守がこちらへ銃を向けていた。ある程度の罠は予想していたが、人数が多すぎる。
私は包丁を床に置き、両手を挙げる。看守に銃で指示され、ウェポンも仏頂面で両手を挙げた。一方のアルシールは、看守の中でも一番偉そうな男――おそらく看守長であろう――の横に、腰を低くして向かった。アルシールはやはり罠だったようだ。看守長との関係は謎だが、おそらく私たちとコンタクトを取らせ、この罠へと誘い込む役を請け負ったのだろう。
確か、あの看守長は事前調査で調べていた。名前は、ドメイルとかいう名前だったはずだ。
ウェポンは苦虫を噛み潰したような顔をして、アルシールへ叫んだ。
「騙したな! この変態!」
「全くお人好しですねえ。私が看守側の人間だと気づかなかったのですか?」
アルシールが下卑た笑いを浮かべる。これだけで何らかの事案が発生しそうだ。
何の目的なのかはわからないが、看守側はこのアルシールを味方としてこの場に置いているようだった。あの迫真の変態演技が嘘だとは思えないので、囚人は囚人なのだろう。いや、囚人であってほしい。
とにかく、詳しい事情は全くわからないが、私たちの敵であることは確かである。
「勝手に喋るな」
ドメイルが、アルシールの頭を勢い良く殴った。一発で気絶するほどに。彼は床に崩れ落ちた。ウェポンが嬉しそうにニヤニヤしてそれを見ていた。
「おい。その娘は何だ」
ドメイルは極めて高圧的に問いかけてきた。
「武器商人から頂いた武器です」
私は正直に答えた。一瞬の間の後、看守たちが笑いだした。確かに、ウェポンの見た目は武器ではない。嘘を吐くこともできたが、どうにもここで嘘を吐くのは良くない気がした。ひどく直感的に。
「黙れ」
ドメイルが一喝すると、しんと静かになる。
「それが武器であるというのなら、無効化せよ」
ドメイルの言葉に、看守たちは戸惑いながらもウェポンに銃口を向けた。私はウェポンに目配せをする。ウェポンは頷いた。
ウェポンは大きく息を吸ったかと思うと、思い切り噴き出した。鼻の穴から、真っ白な蒸気が吹き出し、あっという間に辺りが見えなくなる。私はウェポンを抱えてその場から逃げ出した。
しばらく走り、周りに人がいないのを確かめてから、ウェポンを降ろした。かなり息が上がってしまっている。ずっと投獄されていただけあって、かなり体力が落ちているようだ。ウェポンはいつの間にか私の包丁を拾っていた。
ウェポンはなんだか複雑な顔をしている。
「スモークって武器ですかね」
「君が出せたということは、ほぼほぼ武器ってことだろう」
部屋に入る前、私はウェポンに「煙幕が出せるような感じの、スモークマシンになれ。できれば見た目変えず」と無茶な指示をしていた。ウェポンは自信がなさそうではあったが、私の意思を汲んでくれたらしい。おそらく、彼女自身も罠であるとは感じていたのだろう。特に騒ぎもせず指示に従ってくれた。まさか、鼻息がスモークになるとは思わなかったが。
ウェポンにとって、「武器」の範囲はひどく曖昧なようだ。しかも、本人もわかっていない。確かに、武器商人の言うように、「武器」としては不完全なのかもしれない。まあ、ほぼほぼ武器って思っていればいいか。
私はウェポンから包丁を受け取り、刃こぼれがないかチェックする。この包丁はクーデター前に友人から譲り受けたものだ。大切にしたい。
「ついでに、地図とか出せたりしないかな。武器用の地図」