このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ほぼほぼウェポン

 随分と面倒なことだが、仕様なら仕方がない。
「かっこ仮を取ればいいか? ウェポン」
 ウェポン(仮)はものすごく嫌そうな顔をした。私としてはさっさと逃げたいところなのである。彼女の望む名前を考えている暇はない。
「その設定は後で変えられないのか? こちらとしては早くここから逃げ出したい。逃げ出した後、きっと君の気に入る名前を考える」
 ウェポン(仮)は不満そうだったが、「絶対ですよ」としぶしぶ了承してくれた。
「ではウェポン。ここから出る手助けをしてくれ」
「わかりました。では反陽子爆弾になります」
「それは待て。いや、いろいろ待て」
 私は勝手に、ウェポンが戦ってくれるものだと勘違いしてた。ウェポンに改めて聞くと、彼女は私の思うままの武器に、体の一部を変えるのだそうだ。今までの主は反陽子爆弾なるものに彼女を変身させ、木っ端微塵にしていたらしい。爆発した後はその破片同士がお互いに引き寄せられ、再びウェポンの形に戻るのだそうだ。考えただけでゾッとした。
「そういう考えただけで痛そうなのはやめよう」
「お兄さん、クーデター起こしといてそれはないんじゃないですか」
「だから失敗してるだろう」
「なるほど」
 聞けば、飛び道具系も痛々しい内容だった。体の一部を矢なり弾なりに変えて吹き飛ばすという。そんな姿はあまり見たくない。
「とりあえず、試しに棍棒あたりにしておこう。防具にもなれるなら盾付きで」
「わあ、すっごく初期装備感」
 一瞬のうちに、ウェポンは右手を木の棍棒、左手を木の盾に変身させた。別に鋼鉄の棍棒でも私はいいと思うのだが。
「お兄さんの想像力が足りないんですよ。私の意思じゃなくて、お兄さんの考えが大事なんですよ」
なるほど、少し難しいらしい。その辺のコツはおいおい覚えていくとしよう。
 私は武器商人の残したトランクを開ける。中身は空ではなかった。私が昔使っていた武器が入っていた。何の変哲もない包丁である。
「お兄さん、それで料理でもするんですか?」
「いや、これが私の武器なんだ」
「お兄さんがここにいる理由が、ほんとによくわかりますね」
 ウェポンは呆れながら、棍棒を牢獄のドアに叩きつける。鋼鉄のドアはびくともしない。
「お兄さん、棍棒ダメだよこれ」
「まあ、木の棍棒だからね。とりあえず、ここは私がリハビリも兼ねてやろうか」
「私を変身させた意味は」
「何事も練習って必要だしね」
 私は包丁を構え、思い切り叩きつけた。鋼鉄のドアがひしゃげた。やはり身体が鈍っている。以前なら、こんな扉すぐに開けることができたのに。
 何度か叩くと、人が一人通れるほどの隙間が空いた。私はそこから外へ出た。ウェポンも後に続く。廊下もまた、寒々しい空気の場所だ。辺りを見回してみたが、看守は近くにいないようだった。
2/9ページ
スキ