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ほぼほぼウェポン

 顔なじみの武器商人が、廃業するという。最後だからと、かなりの大盤振る舞いをしたそうだ。
 生憎、私は命を賭けて起こしたクーデターに失敗し、牢獄にいた。陽の差さぬ牢獄は寒く冷たい。出入り口は鋼鉄のドアが一つ。窓も格子もない、のっぺりとしたドアだった。
 私は、両手両足を背中で縛られ、硬い床に転がされていた。喉は潰されて声も出ない。明日あたり、目を潰される予定なのだと、ドアの向こうで漏れて聞こえる、看守たちの噂話で聞いた。
 こんな状態であったので、その武器商人の最後の商いには参加できそうにもなかった。クーデターを起こす前から、いろいろと世話になった武器商人だったから、最後に会えないのが本当に残念だった。
 そう思っていたら、ひょいと武器商人が私に会いに来た。もちろんここは、会いに来ようと思って来られるような場所ではない。重罪人を押し込めた場所で、警備も厳重なはずであった。だが、私はさして驚かなかった。理由を聞かれたら困ってしまうが、彼はそういう人なのだ。深く考えても仕方がない。
「お客さん、調子はどうですかい?」
 私は苦笑した。調子もなにも、声すら出ない。武器商人は、私の声が出ないのをさして気にもせず、そのまま話を続けた。
「お客さんが知っているかどうかはわかりやせんが、この度、廃業することになりまして。娘がこんな危険な仕事は辞めて、隠居しろって言うんですよ。まあ、あっしも年ですしね。たまには娘の言うことを聞くのもいいかと思いまして」
 武器商人は持っていた古びたトランクを開け、首輪を取り出した。それは、何の変哲もない、ただの皮の首輪に見えた。
「それで、最後に売れ残ったのがコイツでね。世話になったお客さんへ、特別に譲ろうと思ったんです」
 武器商人は私の首に、その皮の首輪を巻きつけた。一瞬、息ができないほどに締め付けられたが、すぐに楽になった。そして、あることに気づいて目を見開く。
 声が出る。試しに何か喋ろうとしてみた。それは声というよりは動物の鳴き声のようなものだったが、それでも喉から音が出たのだ。私は武器商人に何か話そうとしたが、結局唸り声にしかならなかった。一体これは何なのかと、目で武器商人に問いかけるが、武器商人は無視して話を続けた。
「これはある武器を呼び出す首輪なんですよ。で、その武器なんですがね。まあ、武器には間違いないんです。ただ、不完全な武器なんですよ。だから今まで誰にも売らずにいたんです。でも廃業するとなれば、これも処分しなくちゃあいけません。捨ててもいいんですが、ちと忍びない。それで、お得意様のお客さんへお譲りすることにしたんです。まあ、売り物にならなくたって、ほぼほぼ他の武器と似たようなもんです。必要になったら名前を呼べばいい。『ウェポン』と呼べば、いつでもその武器が現れます」
 武器商人は、言うだけ言った後、ついでにトランクもあげましょう、とその場にトランクを置いて去っていった。
 呼べば現れる武器とは、なんともおとぎ話のような話であった。だが、戦う力が得られるのならば構わない。今は縋る藁すらないのだから。私は何度か声を出す練習をした後、掠れた声で呟いた。
「ウェポン」
 次の瞬間、私の目の前にパッと少女が現れた。何の前触れもなく、本当に、パッと。流石にこれには驚いた。
 少女は、十代半ばぐらいの年頃で、青白い髪は肩先で揃えられている。白と青を基調にしたワンピースを着ていた。人間の姿形をしているが、皮膚は修正液のように白く、瞳だけが濃い青をだったので、まるで目玉だけ空中に浮いているような顔だった。
 武器と呼ぶにはあまりにも可愛らしく、人間らしい少女である。少女はワンピースの両裾をちょいと摘んで、私にお辞儀した。
「初めまして。ウェポンかっこ仮です」
「かっこ仮?」
 ウェポン(仮)は照れくさそうに微笑んだ。身体の色さえ人間に近いものであれば、相当な美少女に違いなかった。
「まだ初期設定のままなんです。お兄さんが私の持ち主なのですよね」
 お兄さん、という呼び方が少し気になった。これも「初期設定」とやらなのだろうか。
「君が武器なら、そういうことになる」
「良かったわ。今度は間違わなくて」
 間違えたことがあるのだろうか。間違われた先にしてみたら、大変なことだろう。
 ウェポン(仮)は私の拘束を解いてくれた。長いこと拘束されていたので、身体はかなり痛かった。屈伸をしたり腕を伸ばしたりして、ストレッチをする。髪にも埃がたくさんついている。私は、自分の短く刈り上げた髪を、何度かパタパタと叩いた。ウェポン(仮)はその間、じっと私を見ていた。少しだけ気恥ずかしい。
「さて、ここから逃げ出そうと思うんだがね。周りは敵だらけだ。君ならどうする?」
「逃げる前に、初期設定が欲しいですね。いちいちかっこ仮まで言わないと、反応できない設定なんです」
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