言葉にのせて

―それは俺が中学に入学し、数ヶ月経ったある日の出来事―


日直当番だった俺は、下校時間がとっくに過ぎた校舎に取り残されていた。そして、気が付いた時には日がすっかり落ちてしまっていたのだ。

日誌は先生に出したし、忘れ物も無し!
教室の窓閉めで、消灯っと。これでよし。

全ての確認を終え、廊下をパタパタと駆けて行く。
下駄箱から靴を取り出し外に出ようとした時、冷たいものが頬に触れた。

「…っ、雨だ。」

空を見上げると、どんよりとした重たい雲から雨が降りだした。

でも大丈夫、備えあれば憂いなしってね。
確か鞄の中に…
自分の鞄の中に手を突っ込み、お目当ての物を探し出す。

持っててラッキー♪
って、母さんが入れてくれたんだけどね。
ありがとう母さん!!

心の中で気の利く母親に感謝する綱吉だった。
傘を広げ校舎から出ようとした時、グラウンドの方から誰かがこちらに向かって走って来た。

「参ったぜ雨かよ。ついてないのな…」

「あっ」

「?…ぁ」

つばのある帽子を深く被っていた為初めは誰だか分からなかったが、走って来た青年は雨避けにしていた帽子を取り水を払う。
その人物が誰だか分かった瞬間、つい
声が出てしまった。
その声に勿論こちらに目を向けた彼も、少し何かを考えた後に「ぁ。」と声を洩らした。

綱吉は傘を畳み、声を掛ける。
「山本くん…だよね?」

「ああ、お前同じクラスの沢田だろ?」

「え、知ってるの…?」

自分は彼を知っていたが、まさか向こうが自分を知っているとは思わなかった。
驚きの表情を見せると、彼は綱吉の反応に一瞬驚いたが、直ぐに笑顔で言った。

「同じクラスなんだから、当たり前だろ?」


それもそうかな?と思った綱吉は、そんな質問をした事が急に恥ずかしくなり顔を赤面させた。

「ぁ、なっ名前!!///」

「ん?」

赤い面を隠す為に俯いた綱吉は、急にアワアワと彼に話し掛けた。

「沢田じゃなくて、ツナでいいよ?俺の周りの人はそう呼んでくれるから。」

それを聞いて、また一瞬驚いた山本だがまたすぐにニカッと笑顔で返した。
「分かった、よろしくなツナ。じゃぁ俺も"くん"とかいらねーぜ?呼び捨てで構わないからさ」

綱吉は下に俯けていた顔を勢いよく上げ、満面の笑みで微笑んだ。

「ありがとう//よろしくね!山本。ぁ、傘…良かったら一緒に帰らない?確か同じ方向だよね。」

控えめに差し出された手には、さっきの折りたたみ傘があった。

「いいのか?ツナ濡れちまうぜ?」

「俺の家、ここからそんなに遠くないから大丈夫だよ。」

そう言い二人は、小さめの傘に入り家へと向かった。


「へぇ、山本って野球部なんだ」

「ああ ちょっと部室の片付けを残ってやってたんだけどな、終わって外出てみたら雨降ってて焦ったぜ;」

「俺も母さんが傘入れてくれなかったら、今頃ずぶ濡れだよ。」

「ハハッ、そーだな。最初は最悪って思ったけど、ツナと相合い傘できるなんて実はツイてるかも♪」

「!///」
えッ…?

そんなセリフを冗談っぽく言う山本は天然?それとも、お調子者なのだろうか。

その後他愛もない会話を繰り返しながら帰り、自分の家に着いたツナは山本にそのまま傘を貸した。

「ありがとなツナ。」

「いいよ、気を付けて帰ってね。」

「おう、じゃあまた明日な」

山本は手を、ひらひらと振って帰っていった。

今日はいい夢が見れそうだ!と、新しく出来た友達の事を思った。


2/9ページ
スキ