800字SSまとめ

 

  【共感のキューブシュガー】



 密かに想いを寄せる女性から、ぽん、と手に乗せられたものは、上等そうな角砂糖がよっつ。透明な袋に赤いリボンでラッピングされていた。
「共感のキューブシュガー、ですって。運動前の糖質補給には効果的らしいよ。サム君から貰ったの。たくさんあるから、クローバー君にもお裾分け、ね」
 好きなひとからの贈り物は何だって嬉しい。けれど、その口から俺以外の男の名前が出て来たものだから。じわ、と胸の奥で黒い泥の滲む感覚に襲われた。
「ありがとう、ございます。……サムさんと、仲が良いんですね」
「ふふ、そうね。サム君とは同い年だから、なんだかお友達みたいな感覚になっちゃうの。だから、ついつい、お話も弾んでしまって──」
 ああ、馬鹿だな、俺は。
 聞かなければ良いのに、楽しそうに"同じ年の友人"のことを語るそのひとから、目を離せない。少女のような朗らかな表情をさせる要因が自分以外であることを、許せなくて、憎たらしくて、気分が悪いのに、嗚呼。
「──それでね、クローバー君のお手製ケーキがとっても美味しかったんだよ、って話をしたら、サム君が是非ウチの店でも扱いたい、なんて──……あら? クローバー君、どうしたの、具合でも悪い?」
 自分が今どんな顔で彼女を見つめているのか、わからない。彼女が不安気に眉を寄せて心配するような、苦しそうな顔でもしていたのか。
「いや、大丈夫。少し面倒な用事があったことを、思い出して……失礼しますね」
 このまま彼女の前に居たら、自分が何を仕出かすか、激しい感情のままに彼女を抱き潰したり、秘めた想いを曝け出してしまいそうで、恐ろしくなって、俺はこの場から逃げ出してしまった。

 ──寮の自室へ逃げ帰った俺は、安物の紅茶を淹れて、そこに貰った角砂糖をひとつ、ふたつ、沈めて溶かした。
 俺も、彼女と同じ年に産まれたかった、なんて叶わぬ願いを思う。ほんとうに、馬鹿な考えだ。
 俺のこんな醜い感情も、砂糖みたいに溶けて消えてしまえば良いのに、な。





2020.12.08公開
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