800字SSまとめ

 

  【手を繋ぐ】



 ミドルスクールの頃、一度だけ異性と付き合った事はあっても、実は手を繋いで歩いたりなんて経験はなかった。なんか恥ずかしくて、避けてしまったのだ。
 今だって、正直、めっちゃ恥ずかしい! 心臓がどきんどきん早鐘を打って、緊張のあまり彼女と目を合わせられないから、ついそっぽを向いてしまうし、手にまでじんわりと汗の滲んでいる気がする。
 それでもオレは、彼女のひとまわり小さな手に触れたいと、思うから。
「あの、さ……手、繋いでもいい?」
 目の前の雛鳥みたいに小柄で愛らしい少女は、えっ、と震えた声を落とした。ちらりと目線を向ければ、彼女は色変え魔法をかけられた薔薇のように真っ赤な顔で、驚きに目を丸くしている。でも、すぐにその瞳を嬉しそうに細めて微笑み返してくれた。
「も、もちろん、です!」
 ふたりの初デートだから、彼女も相当緊張していたのだろう、了承をくれたその声は裏返る。そうして差し出したオレの右手を、自分の右手でそっと握り締めた。
「……これだと、ただの握手になってね?」
「あっ! そ、そっか、ごめん」
 慌ててパッと手を離して、今度はちゃんと左手で繋ぎ直してくれた。えへへ、と赤い顔のままではにかむ彼女が可愛くて、可愛くて。
 思わず、ふはっと声を我慢出来ずに笑ってしまった。彼女は恥ずかしそうに頬を膨らませてしまうけど、そんな少し怒った表情も愛らしいから。
「お前ってほんと、面白いよね。ふふッ」
「もお、そんなに笑わないで……」
「ごめん、ごめん。……じゃあ、行きますか」
「うんっ、遊園地なんて、初めて行くから、すごく楽しみ!」
「え、マジで?」
「昨日、アトラクションも調べてきたの。ジェットコースターとか、メリーゴーランドとか、たくさん、色んなの乗りたいな」
「良いじゃん、何なら全種制覇でも目指そうぜ」
「わあっ、賛成!」
 ギュッと握り締めた華奢な手から、はしゃぐ彼女の楽しそうな感情が全部伝わってくる気がして、堪らなく嬉しい。
 ああ、もう、今日はずっとこの手を離したくないなあ、とか馬鹿みたいに浮かれた事を思うのだった。





2020.12.19公開
16/61ページ