800字SSまとめ

 

  【お揃い】



 ぼくの後輩は可笑しなやつだ。
「ハーツラビュルのメイクって、勝手に他のマーク描いたりしたら、駄目ですかね」
 おやおや、早速もう変な事を言い出したぞ。しかし、デュース・スペード君の表情は真剣そのものだ。
 彼は立派な優等生を目指してる癖に、突然さっきのような可笑しなコトを言い始めるし、何か事件があればすぐさま拳で解決しようとするような、ハーツラビュル寮にはお似合いの愉快な新1年生である。
「どうしたのさ、急に。ぼくはそのスペード似合ってると思うけれど、それはもうハートの女王と王様のようにピッタリお似合いだよ」
 彼の名前もスペードだし、リドル寮長の選んでくれたマークに、いったい何の不満があるのやら。
「もちろんっ、僕も気に入ってます! ……けど、先輩のスートメイクは、ハートマークじゃないですか」
「そうだね、可愛いぼくにはピッタリだ」
「はい。よく、似合ってます。しかも、エースのヤツと、お揃いで……」
 ああ、そういえば、彼と同じ新1年生であるエース・トラッポラ君とも、最近そんな話をした覚えがある。でも、そんなことを言ったら、ハーツラビュル寮生はお揃いのヤツだらけになってしまうけれど。
「仲良しの証みたいで、羨ましくて、」
 ……なるほど? しゅん、と萎びたキャベツみたいに何故だか落ち込んでしまった後輩を見て、ぼくは「やれやれ」と溜息を落とした。仕方ないなあ。
 ぼくはマジカルペンを取り出して、ひょいっ、と軽く振ってみせる。自分の右頬のスートメイクを一瞬で描き変えた。ハートから、スペードに。
「ほら、満足かい?」
 パッとすぐさま顔をあげた彼は、ぼくの頬を飾るスペードマークを見た途端、その瞳をキラキラと輝かせた。
「は、はい、嬉しいッす! へへ、ありがとうございます。これで俺──じゃねえ、僕と先輩はマブですね!!」
 そんなことを言って心の底から嬉しそうに、ニカッと陽だまりみたいな眩しい笑顔なんて見せるから。
「……ほんと、変なヤツ」
 まったく、もう、可愛い後輩だよ。





2020.12.17公開
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