800字SSまとめ

 

  【さみしがり】



 私の恋人くんは、ちょっぴり寂しがりやさんだ。
 毎日必ずスマートフォン越しのメッセージを送り合うことは欠かさないし、時々落ち込んだり疲れてしまった彼から、夜遅くに電話が掛かってきたりもする。それがつい、長電話になって寝不足になることも多い。
 少しでも離れている間の寂しさを紛らわしたいから、という理由で、お揃いの持ち物やペアルックのお洋服なんかもよく好む。特に、ふたりで一緒に買ったスマホケースはお気に入りだ。
 久しぶりに会えた時なんて、顔を合わせた途端、苦しいくらいにギュッと抱き締められて。しばらくの間、彼が満足するまで離してもらえなくなってしまうのだ。
「はああ〜っ、ひと月振りの甘くて良い匂いがする〜」
「やだ、けーくんったら、変態さんみたい」
「だいすきな恋人限定の変態なんで、許してください。3年生になった途端、お互い色々と忙しくなっちゃってさ、ぜんッぜん、会えないんだもん……。寂しかった、すごく」
「私も、寂しかったよ」
「ほんとう?」
「本当。だから今日のデートを、とっても楽しみにしてたの。ほら、そろそろ約束してた水族館、行こう?」
「んー……もうちょっと待って、いま充電中だから」
「ふふ、もう、なにそれ」
 クラスメイトや同じ寮の後輩たちには「彼氏君ちょっと重くない?」だの「いまどきペアルックとか恥ずかしい」だの、好き勝手に言われがちではあるけれど──。
 私はね、彼のそんなところを特別、可愛くて仕方ないと思うから。私と共有出来る物や時間を、めいっぱい大切にしてくれるケイト君が、世界でいちばん大好き。
 だから、私は彼の望むがままに。謎の充電とやらが完了するまで、その背をさすってみたり頭を撫でたりなんかして、お利口さんに待ってしまう。周囲の冷めた意見なんて、微塵も気にはならなかった。
 惚れた弱み? ううん、違います。
 だって、実は私も。彼とお揃いの──寂しがりやさん、なので。
「ね、けーくん」
「うん?」
「久しぶりのちゅーは、してくれないの?」
「しますッ!!」





2020.12.16公開
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