800字SSまとめ

 

  【やきもち】



 先輩と後輩の、まるで兄妹のように仲睦まじい姿は、それはもう、大変微笑ましくてよろしいと思うけれど。
「うんうん、監督生ちゃん可愛い! すっごく似合ってるよ、やっぱりオレってセンスあるよねえ♪」
「えへへ、ありがとうございます。ケイト先輩!」
 ──それにしては、あまりにも距離が近いし、お互いに気安過ぎるのではないか。

 とある、なんでもない日のパーティー会場での事だ。
 ボクの座る女王の椅子からは少し離れた席で、何やら酷く楽しげに笑い合う監督生とケイトの姿に、ボクは何故だか無性に苛立っていた。
「フフッ、随分と面白い顔になってるぞ? 大丈夫か、リドル」
 副寮長のトレイはそんなボクを傍で見下ろして、腹立つぐらいニヤニヤ笑っている。
「ふん、今のボクが愉快そうに見えるのかい、キミは。であれば早急に、そのメガネを新調するんだね」
「ははっ、辛辣だなあ」
 相変わらずニヤついた笑みを崩さない幼馴染みに、ボクはまたムッと口を尖らせた。
 ふと、監督生がこちらを向く。その頭に飾ったワインレッドのリボンが、ふんわりと揺れた。彼女は何だか妙に緊張した面持ちで、こちらへ歩み寄ってくる。
「あ、あの、リドル先輩っ」
 頬をほんのりと桃色に染め上げながら、座るボクをじっと見下ろした彼女。
「実はこれ、先輩の髪と同じ色の、リボンなんですけど、」
 え、と我ながら間の抜けた声が落ちる。
「……変じゃない、ですか?」
 もじもじと両手を絡めながら、俯きがちにはにかむ彼女を見て、ボクは。
 嗚呼、なんだ。あの無邪気な笑顔の意味も、褒められて喜んでいた理由も、全部。ボクを想ってのことだったのかと、理解した。
 恥ずかしさに指先まで赤くしてしまった、彼女の手をギュッと握り締める。
「もちろん、とても良く似合っているよ。素敵だ。この世でいちばん可愛らしい、ボクだけのアリスだね」
 先程までの些細な苛立ちなんて、まるで、紅茶へ落とした角砂糖のように溶けていく。
 女王の傍で、帽子屋と三月ウサギは満足げに笑っていた──。





2020.12.15公開
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