怪物と宝物
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やっぱり彼女は、アリーシャは、麦わらの一味全員から愛されているんだと思う。
何せ、彼女の無事を皆に報告しようと扉を開けたら、医務室の前に居たのはウソップだけではなかったから。ロビンにブルック、フランキーも、ゾロやサンジ、勿論ルフィ船長も揃っていた。
「え、皆さん、どうして……こんなところで、勢揃いを……?」
「アリー! 無事で良かったあっ!!」
「きゃあッ、な、ナミさん?」
おれの腕の中にいるアリーシャへ、一番に飛び付いたのはナミだった。あの大嵐の中、必死に指揮をとりながらも的確なアリーの救出作戦を考えてくれた彼女。数少ない同性の仲間であるし、出会った頃から妹みたいに可愛がっていたから、あの時も本当は、ナミ自身すぐに彼女を助けに行きたかったんだろうな。
そんなナミに「こんな時に独り占めなんてずるいわよ」と強く睨みを効かせて怒られた為、おれは渋々、アリーを彼女のそばへと降ろした。途端、ナミの柔らかそうな胸の中へむぎゅうううと閉じ込められるアリーシャ。
「な、ナミさ、く、くるし、」
「もうっ、本ッ当に心配したんだから……こんなにたくさん傷ついて、顔に痕とか、残らないと良いけど……」
「大丈夫だ、おれが全部綺麗に治してみせる」
おれが自分の胸をどんっと叩いて言えば、少し涙目だったナミは「チョッパーが居るんだから要らない心配だったわね!」と明るく笑い返してくれた。
ここで突然、おれの両腕をがっしりと掴まえて離さない男が二人現れる。
「おいおいチョッパー、男ならそこは『例え傷が残ったとしても、おれがお前を嫁に貰ってやるから安心しろォ……キリッ……』ぐらい決めて言う所だろ〜?」
「わわっ、ウソップ!?」
「アリーちゃんが心配だから朝飯は医務室で食べると言ってから、長いこと出てこねえと思ったら、まさかプリンセスホールドでご登場とは。チョッパーこの野郎、ふたりきりの医務室で一体ナニをしていたんだ、ナニを」
「なっ、サンジまで!?」
医務室での出来事を根掘り葉掘り探りながら、ニヤニヤと面白がるようにおれの頬をツンツン突いてくるウソップ。な、なんか、サンジに至っては喜んでるのか怒ってるのかよくわからない表情だし、もう何なんだよ怖い!
おれはすぐさま普段の人獣姿に戻り、小さくなることで、恐ろしい男二人の間から逃げ出した。
それから素早くロビンの足元に逃げて、細く長いふくらはぎにサッと身を隠す。しかし隠れる方向が「逆じゃないかしら?」とロビンに冷静な忠告をされ、おれはゆっくりジリジリと動き、今度こそ身を隠した。
そんなバタバタと騒がしい中で、ようやくナミの熱い抱擁から解放されたアリーの元に、ルフィが歩み寄っていくのが見えた。
「あ、ルフィさん、帽子……ありがとうございました」
「おう! すっかり元気になったみてえで良かったな、これからもっとたくさん面白い冒険が待ってんだ。寝てたら勿体ねえぞ?」
「はいっ、サンジさんの美味しいご飯も食べ損ねてしまいますもんね」
「だな!」
にししっと笑いながら、アリーシャに貸していた麦わら帽子を深く被り直すルフィ船長。ふと思い出したように「あっ!」と声を上げた。
「そうだ! アリーにもあれ見せてやんねーと!!」
あれ、とは? 何だろう、と首を傾げるアリーシャ。しかし彼女以外、おれを含めた麦わらの一味全員が、船長の差す「あれ」を理解していた。
ルフィにぐいぐい手を引かれて何処かへ連れて行かれるアリーシャ、その後を皆で追って辿り着いた先はアクアリウムバーであった。
普段は新鮮な海の生き物たちを眺めたり、ゾロやロビンたちがお酒を飲んだりして楽しむ、皆の憩いの場だけれど、今だけは「あれ」に埋め尽くされて、まるで倉庫のような姿になっている。
「なっ、なんですか、この──金銀財宝は!?」
アリーが驚くのも無理はない。目の前にこれだけ山のような宝石に金貨、装飾品、宝箱がいくつも積まれていたら、誰だってビックリだ。おれには目がチカチカして痛いくらいである。これらは全て、アウールのガレオン船から奪ってきたものだった。
「にしし、すんげーだろ!? これだけありゃあ、サニー号ぐらいデッケェ肉が食えそうだ! お前のおかげだなあ、アリー!」
「えっ、わたし……?」
明らかに戸惑うアリーシャの背中を、御構い無しにバシバシと叩いて喜ぶルフィ。そんな船長の後ろで、ブルックが陽気に笑う。
「ヨホホホホ、あの鳥マスクさんは随分とお宝を溜め込む方のようでして。これでも、解放した奴隷の皆さんから少〜しだけ分けて頂いた、ほんの一部なんですよ」
ナミが悪い顔でぼそりと「……お礼なんだから、半分ぐらい貰ってきて良かったんじゃないの?」なんてブルックに耳打ちしていたが、ブルックは頭蓋骨をカタカタ震わせて「あれを半分も乗せたらライオンちゃんが沈んでしまいますヨ〜」とまた笑った。そんなにあのガレオン船にはお宝が乗っていたのか、すっごいなあ。
実は、奪った(というより元奴隷の乗組員たちに譲ってもらった)ものは、これだけじゃない。あと二週間は贅沢が出来るほどの食料や、相当の高級品だと聞いたお酒もたくさん、更にはサニー号の燃料にもなるコーラ樽まであるのだ。おかげで食料庫も他の格納庫もパンパンではちきれそうな状況。「実は長い船旅が続いて食料不足を心配していたから助かる」と、これに関してはサンジが一番喜んでいた。
いつの間にかアリーシャの隣に並んでいたロビンが、彼女の額に宿る赤い宝石、長めの前髪に隠されているそれを、優しく撫でながら語り出した。
「カーバンクルという幻獣は姿こそ不明瞭で語られる伝説も少ないけれど、必ず共通してシンボルになっているのが、この額の赤い宝石──。この宝石を手に入れた者は富と名声を得る、そう言われているわ」
現状をいまいち理解できずにポカンとしているアリーシャを、ロビンは「可愛い」なんて言ってフフッと微笑んだ。
「こうして、災難の後に得られる大きな幸運も、あなたの特別な能力かもしれないわね。アリー」
ロビンの言葉にナミがウンウンと頷いて、また小柄な彼女を目一杯に抱き締める。
「ふふっ、やっぱり! アリーは何かと私たちに幸運を運んでくれるもの、カーバンクルの伝説は本当に本当なんだわ♡」
「そ、そんな、わたし……」
アリーシャは終始おろおろと戸惑っており、自分にそんな能力は無いとでも言いたそうだった。
きっとナミやロビンも皆も、彼女に幸運を授ける能力があろうともなかろうとも、どちらでもいいんだ。今回の件で、どうか彼女が気に病むことの無いように、そう言った優しさが含まれている気がする。
「でも、皆さんにそう思ってもらえるなら、わたしも、嬉しいです」
彼女も皆の優しさに気付いたのだろうか、ナミの腕の中で花が咲くようにぱあっと笑ってくれた。
しかし正直なところ、カーバンクルの伝説の真相も、夢のような宝の山も、おれにとってはどうでもよくて。
今この瞬間、彼女がおれのそばで笑ってくれていることが、何よりも──嬉しかったんだ。
「──アリーシャ、おかえり」
彼女の足元へ近寄って、その赤い宝石みたいな瞳を見上げながら、おれはニッと歯を見せて笑った。アリーシャは一瞬驚いたようだけど、すぐ一緒になって笑ってくれる。
ナミの腕の中からスルリと抜け出してその場へ屈み込むと、彼女はおれの身体をぎゅっと抱き締めてくれた。嗚呼、あったかい、生きてるひとの体温だ。
「ただいま、チョッパー!」
エヘヘ。ふふふ。なんて甘く笑い合うおれたちが、皆にニヤニヤからかわれるまで、あと数秒──。
2019.08.27
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