お茶目な怪談王と幽霊さんの話
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帝國図書館特務警備員・夜勤担当怪談「雪女」より招魂された存在
作者の妻"小泉節子"の記憶を持つ
温厚で上品な、雪のように美しい女性
自在に雪を操り、宙に浮く事も出来る
熱い食べ物や暑い場所が苦手
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としょかんのゆーれいさん
「ユーレイサン、デスか?」
「うん! この帝國図書館にはね、やさしい幽霊さんがいるんだよ」
狐のぬいぐるみをガオーッと掲げて語る新美南吉の言葉に、先日招魂されたばかりの小泉八雲は紫水晶の如き瞳をぱちくりさせて驚いた後、すぐその目をキラキラと輝かせた。
「図書館に住み着くユーレイサン……! とても興味深い、お話デスね。もっと詳しく教えてくだサイ!」
「いいよ、ヘルン先生は特別だから、教えてあげる」
南吉はご機嫌にそう言うと、ソファーに腰掛ける八雲の膝へちょこんと乗っかって、話し出した。
──それは、まだ庭の木々が真っ赤な紅葉を身に纏っていた頃の話。
ぼく、その日、ごんと喧嘩しちゃったんだ。……うん、そう、今もぼくといっしょにいる、子狐のごんだよ。ごんったら、拗ねて図書館のどこかへ隠れちゃったんだ。
ごんー、ごんー。どこにいるの。さっきはごめんね、はやく出てきておくれよう!
ぼくは一生懸命ごんを探したんだけど、全然見つからなくて。気が付いたら、図書館の中も、外のお庭も、真っ暗になっていたんだ。閉館時間はとっくに過ぎていて、誰もいない、ひとりぼっち。まだ秋なのに、冬のように、凄く寒かったのを覚えてる。心細くて、何だか怖くなって、ああ、どうしよう、って困っていたら……
「こんばんは」
急に、後ろから女の人の声で挨拶されたの。びっくりして「わあ!」って声が出ちゃった。
慌てて振り返ると、真っ白で綺麗なお姉さんが居たんだ。知らないひと。着てるお洋服も肌も白くて、床まで届きそうな長い髪だけが黒くて、まるで"雪女"みたいなひと。ここの職員さんでも、かといって利用客のひとでもなさそうな雰囲気だった。
お姉さんの手に、ごんが抱かれていることに気が付いて、ぼくはまた「あっ」と声を上げたんだ。そうしたら、お姉さんは優しく笑ったの。腕の中のごんに向かって。
「ごんくん、よかったですね。お友達、見つかりましたよ」
「え……お姉さん、どうして」
「図書館の中で迷子になっていたので、いっしょにあなたのことを探しておりました。ごんくんもよく反省しているそうです、とても寂しがっていましたよ」
「そうだったの……? うう、ごめんね、ごん。ぼくも寂しかった!」
ごんとはすぐ仲直りしたよ。勝手におやつのお饅頭食べてごめんなさいって、ぼくもたくさん怒ってごめんねって。ふたりで謝り合った。
そのあとお姉さんはぼくの手をとって、図書館の玄関まで送ってくれた。お姉さんのやさしい手の感触、よく覚えているんだ。だって、手袋越しでもわかるくらい、雪を握った時のように冷たかったから。
玄関先に辿り着くと、門の向こうで、今から帰ろうとしている司書さんとオダサクさんを見つけたんだ。ふたりもぼくに気付いて、いっしょに帰ろうと、向こうから声をかけてくれた。ああ、良かった、これでちゃんと寮まで帰れる。
やっと安心して、ここまで送ってくれた白いお姉さんにお礼を言おうと振り返ったら、
「あれ……?」
あの真っ白なひとは、どこにも、居なくなっていたんだ。
帰り道の途中、司書にその話をしてみたところ、どうやらこの帝國図書館には数年前から"幽霊がいる"という噂が絶えず囁かれていることを聞いた。
こちらに害を加えることはなく、寧ろ困っていれば手助けをしてくれるという、不思議な優しい幽霊の噂である──。
南吉の話を聞いた八雲は、フム、と意味深に顎に片手を添えて頷く。
「うーん、どうもインパクトにかけマスね。あまり怖くありマセン」
「怖くないよお! だってあのお姉さんは、とっても優しい幽霊さんだもん。もしかして、ぼくとごんの話、信じてないの?」
「そういうワケじゃないデスよー?」
ただ怪談としてはイマイチ……などと真面目な顔で苦言を溢す八雲に、南吉は不機嫌そうに頬を膨らませた。
「幽霊さんは怖くないけど、本当に居るんだから! ぼくたち以外にも、幽霊さんを見たってひとが居るんだよ」
「ほほう……?」
中原中也が寒い冬の夜、廊下で泥酔して倒れていた筈が誰かに助けられ、気付いたら休憩所の暖炉近くのソファーで毛布に包まって心地良く寝ていた、という話。朧げな記憶の中、白く美しい女を見た気がする、と発言している。これだけ聞くと、単なる酔っ払いの戯言にしか思えないが、実は同日、彼を介抱する白い女の姿を、素面の太宰治が見ている。
また別の日。島崎藤村も、今度は何の取材目的であったか知らないが深夜に図書館へ忍び込んだところ、雪のように真っ白な女性に呼び止められ、叱られたそうだ。図書館の玄関先まで見送られると、女性は姿を消してしまった。しかし彼は懲りずに、今度はその女性に取材をしたいと、国木田独歩と共に近々計画しているそうだ。
この図書館に優しい幽霊が居る、という噂はもうすっかり有名な話である。職員たちの中でも、うっかり失くした財布を幽霊さんが見つけてくれたとか、遅くまで仕事をしていると労わりの言葉をかけてくれるとか、そんな親切な怪奇現象を体験している者も結構多いらしい。
夜にしか現れないこの不思議な存在は、いつの間にか図書館の雪女とまで呼ばれ、親しまれていた。……が、その"雪女"は決まって、こちらがお礼を言う前に、どこかへ姿を消してしまうのである。
「ンフフ、ナルホド、人好きなお節介焼きのユーレイサン。でも、少し恥ずかしがり屋サン、なのデスね。チットモ怖くないの残念デスけど、面白いの予感しマス! ワタシも、是非いちどお目にかかりたい、デス!」
「うん! ぼくも、また幽霊さんに会いたいな。会って、きちんとお礼がしたいし、仲良くなりたいんだ。ねえ、ヘルン先生、今夜いっしょに幽霊さんを探しに行こうよ!」
「オー、名案デス! 夜の図書館で、キモダメシ、デスね」
「うん、こっそり肝試しだよ。みんなには内緒だからね!」
「はい、ナイショ、ナイショ〜」
ふたりは口の前に人差し指を立てると、揃ってシーッなんて言いながら笑い合った。
それにしても、全く恐ろしくはないが実に不思議な話だ、と八雲は小さな友人にバレぬよう苦笑する。
「"雪女"……デスか」
転生されて以来、少しずつ蘇ってきた記憶の中、彼は自分の書いた怪談のひとつを思い返していた。
***
さて、その日の真夜中。
小泉八雲と新見南吉は約束通り、こっそり、ふたりだけで誰も居ない真っ暗な図書館に忍び込んでいた。
空は曇り、月明かりすら差し込まぬ廊下を、持参した懐中電灯の光だけを頼りに歩いていく。ふたりの足音以外は何も聞こえない。当然、空調も切られているから蒸し暑い。しかし気のせいではあろうが、窓の向こうや曲がり角の影に、何か得体の知れぬ存在の気配がするようで妙に恐ろしかった。肝試しの雰囲気として、既に十分の環境である。
ユーレイサーン、ユーレイサンやー、なんて時折声をかけながら、楽しそうに暗闇の中を歩く八雲の後ろで、南吉は彼の羽織りにぴったり張り付いてふるふる怯えていた。
「ヘルン先生……ぼく、やっぱりこわいよう……ごんもこわいって……」
「おや、ユーレイサンは怖くない、優しい方なのでしょう? 大丈夫デスよー」
「幽霊さんは平気……。でも、夜、特に零時を過ぎた頃は、侵蝕者の力が強まる時間帯だから、気を付けて、って……司書さんに言われていたのを思い出して……」
「ンー、それはそれは」
緊急の事態、または特務司書の同伴がない限り、深夜の館内書架の利用を控えるよう言われていたのは、そういう真っ当な理由があった。まあ、侵蝕者が本の外にまで現れたり、逆に本の中へ人を引き摺り込む、などという現実世界へ直接的に害を与える現象は、今の所起こっていないのが幸いか。しかし、それもいずれ起こらないとは限らない話だ。更に言えば、転生文豪たちの魂は彼らの持つ"本"に宿っており、侵蝕者は"本"の世界を穢す存在。そうなれば司書たちは心配して彼らに注意をするだろうし、その話を聞いて多少、不安にはなる。
開架図書の部屋へ入る一歩手前で立ち止まり、八雲は安心させるような優しい手つきで、南吉の頭をよしよしと撫でた。「キモダメシはここまでにして、帰りましょうか」と声を掛けるも、南吉は少し悩んで、弱々しく首を振る。「……やだ。幽霊さんに会いたいもん」と。
それでは覚悟を決めて、ふたりは開架部屋に足を踏み入れ、書架の間をゆっくりゆっくり歩き出す。一階をぐるりと回り、二階にも上がって、幽霊さーん、とふたりで小さく声をかけながら探し歩いた。
「うーん、特に変わったところはありマセンねー。いつも通りの、平和な図書館デス」
「そうだね……幽霊さんも見当たらないし、変にびくびくして、損しちゃったかも……」
大きな友人の後ろで、えへへ、と照れ臭そうに笑う南吉。八雲は少し残念そうであるが、軽く肝試しの雰囲気を味わうには十分かと思い直し、広い部屋の奥まで辿り着いてから後ろを振り返った。
「……南吉クン?」
いない。
「南吉クン、どこデス、どこかへ隠れているのデスか」
つい先程まで、南吉は確かに八雲と会話をしていて、その羽織りを心細げに掴んでいた筈なのに。悪戯で何処かに身を隠したのかと思いたいが、生憎、右も左も背の高い本棚が聳えており、近くに隠れられるような場所はない。あちこちへ懐中電灯の光を当てるも、本の題名が照らされるばかりで、何者の気配もしない。
南吉クン、彼の名を呼ぶ八雲の声に、焦りが混じる。……そうだ、もしや自分を驚かせようと、一瞬の隙を見て、先に一階へ降りて行ったのではなかろうか? きっとそうに違いない、そうであってほしい。急いで二階を見て回った後、彼は一階へ駆け下りた。しかし、声を張り上げながら探し回るも、子狐を背負った小さな姿は見当たらない。
持参した懐中時計を見る。時計の針は既に天辺を通り過ぎていた。まさか、本当に侵蝕者が……。確証のない不安に襲われ、嫌な汗が彼の頬を伝った。悪戯にしては少々やり過ぎであるし、もう十分だ。どこかに身を隠しているなら、早く出てきてほしい。
もう一度、二階を探して見るべきだろうか、と階段の近くへ戻ってきた八雲は、急な寒気にぶるりと身を震わせた。空調は切られている筈だが、可笑しい。ここへ入った当初の蒸し暑さがまるで思い出せない。白が降り積もる雪山へ足を踏み入れてしまった、そんな錯覚を覚える程に寒かった。試しに吐き出した息は、白い。
突然ひんやりと、首に何か水滴が当たったような冷たい違和感に、ビクリ肩を震わせて驚く。慌てて上を向いたが、何も異常は見えない。そもそも一階で雨漏りとは考えにくいし、窓の外へ目を向けても雨が降っている気配はない。そう不審がっていると、次は額にひんやりの違和感。今度は上を向かなかった。代わりに、小雨の日、空からの雫を確認する時のように、掌を天井へ向けた。
「……雪?」
彼の掌に舞い落ちたのは、雫ではない儚く白い氷の結晶、雪であった。だがそれはすぐに、手の熱で、すぅ、と溶けて消えてしまった。
「こんばんは」
背後から、優しい女の声がした。彼は小さな友人から聞いた話を思い出しながら、勢いに任せバッと振り返る。
そこには確かに、数々の噂話と一切違わぬ、雪のように白く美しい女が立って──いや、浮いていた。言葉通りの意味である。彼女の足は床についていない。
ふわり、ふわり、長い黒髪を揺らしながら、彼より数十センチ高い位置からこちらを見下ろす女は、不思議と嬉しそうに笑っていたが、急に慌ててその表情を引き締める。
「あ、間違えました。えっと……ぅ、う〜ら〜め〜し〜やぁ〜……」
女は豊かな胸の前に上げた両手をだらんとさせて、精一杯眉を吊り上げて恐ろしい顔をして見せながら、急にベタな幽霊の定番台詞を言った。オマケは、ひゅ〜どろどろ〜、という、彼女の声による効果音付きである。……もしや、これで彼を驚かせようとしているつもりなのだろうか。
しかし八雲はお目当ての怖くない"雪女"を前にしても、しばらく何の反応も出来なかった。ただ茫然と、その女の日本美人らしい整った顔をじっと見上げたまま、凍ったように動かなくなってしまっていた。
「もう、幽霊さんったら全然だめ!」
「わああっ、南吉くん、まだ出てきちゃいけませんよお」
そこへ、階段下の物置からどたどたと出て来た新美南吉。やはり突然姿を消したのは、八雲を驚かせようと身を隠していただけだったのか。慌てる白い女の足元へ駆け寄ると、下から彼女の手をぐいぐい引っ張って、何やら酷く怒っている。幽霊らしき女は申し訳なさそうに、ストンと床へ降りてきた。
「幽霊さんが雪女らしくヘルン先生を驚かせた後、ぼくがごんといっしょに後ろからわあーって突撃する、完璧な二段構えでびっくりさせる計画だったのに! 普通に挨拶しちゃったら、何にも怖くないよう、もおー!!」
「あうう、ごめんなさい、南吉くん、ごんくん。だけど、やっぱりこんな悪戯、良くないと思います……」
「むう。だって、こうでもしなくちゃ、幽霊さん、ずっと影でこそこそしてるばかりだったでしょ。そんなんじゃ、いつまで経ってもヘルン先生と仲良くなれないよ!?」
「ううー」
会話の内容から察するに、どうやら、この幽霊と南吉は以前から親しい友人関係であったようだ。一度だけではなく、何度もよく交流していたのだろう。八雲を驚かせる為の南吉による巧みな演技で、すっかり騙されていたらしい。悪戯好きな子狐に化かされてしまった、というところか。
わあわあ騒ぐふたりを目の前に、しばらく惚けていた八雲が、ようやく動きを見せた。感情の見えない真顔で、じり、じりり、とふたりのそばへ歩み寄っていく。
「あ、あわわ……ヘルン先生、もしかして、すごく、怒ってる……?」
彼に怒られると思った南吉は今度こそ本当に怯えて、白い女の背後に隠れてしまう。ぎゅうっと女の細い腰にしがみついた。が、南吉の想像しているような怒りなど、彼は微塵も抱いていない。
八雲は女のすぐ目の前に立ちはだかると、両手で包み込むように彼女の冷たい頬へ触れた。今度は彼に、紫水晶の瞳でうっとり見下ろされて、女の頬がぽわっと薄く桜色に染まる。雪女の瞳の藍玉を見つめて、ああ、やはり、なんて言葉を溢した。そして、心底喜びに満ち溢れた笑みを浮かべて、彼はこう言う。
「──ママさん」
また今生も、ワタシの元へ現れて下さったのデスね。ママさん、小さい可愛いママさん。少し姿が変わっていても、ワタシにはわかりマス。嗚呼──
八雲はぼろぼろと大粒の涙を流しながら、目一杯、白い女の柔らかな身体を抱き締めた。幽霊とは思えない確かな人の感触と存在を感じられた。彼がしばらく惚けていたのは、今腕の中にいる女の顔が、生前連れ添った女と同じ顔をしていたからだろう。彼女を見た瞬間、色々な記憶が蘇り、思考が停止して、動けない程の衝撃だったのだろう。
「ヘルン、先生……私は……ちがう、ちがうのです、先生……」
女は泣き付く彼に戸惑い、悲しそうに顔を歪めて首を振る。
「私は、錬金術師の手により、あなたの作品から招魂された"雪女"という登場人物……あなたの、ママさんでは、ございません……」
あなたの作品の数々は、あなたのママさんと二人三脚で書かれたものばかりですから、私にも彼女と同じ記憶がございます。けれど、違うのです、先生。私はただ、図書館と皆さんの安全な生活を見守る、怖くない幽霊さんです。
白い女は泣きそうに声を震わせながら、懸命な笑顔を作ってそう答えるが、八雲は聞かない。いいえ、いいえ、とこちらも否定の首を振る。
「ワタシがアナタを見間違えるはず、ありマセン。また、会えてうれしい、デス……ママさん」
「っ、ですから、私は……」
ますます両腕の力を強める八雲に、女はまた否定をしようとするも、その言葉は背後の小さな友人の呼び掛けで、遮られた。
「幽霊さん」
南吉は彼女の後ろで静かに言った。
「幽霊さんも、ずっと先生に会いたかったんでしょう?」
女はもう、堪えきれなかった。
「うッ、あぁ……先生、ヘルン先生!私、ずっと、あなたを待ってて……私も、あなたにお会い出来て、嬉しゅうございます……!」
声を上げるほどに泣きながら、女も彼を強く抱き締め返した。美しい顔をぐちゃぐちゃに歪めても、嬉しくてどうしようもなくて、泣いている。
真夜中の図書館に、作者の転生を待ち続けた雪女の、ただ泣きじゃくる声だけが響いていた。
***
お互いの認識に多少擦れ違いが起こってしまったものの、ようやく再会を果たした、転生文豪の小泉八雲と、彼の作品を基にして生まれた雪女。あの日以来、ふたりは度々仲良く交流を深めて──というより、雪女のそばに八雲がしつこいくらいにぴったり着いて回って、離れなくなっていた。
夜の図書館で警備員代わりをしている彼女は、日が昇っている間は姿を現さないので、日が沈み始める夕暮れ頃、八雲は決まって彼女の姿を探し始める。ママさん、ママさーん、と彼がご機嫌に呼び掛ければ、雪女は渋々と言った体を装って恥ずかしそうに、本棚の上からひょっこり顔を出すのだ。ふわり、と彼の目の前に降りて来てくれる。
「ママさん、コンバンハ!」
「ヘルン先生……ですから、私はママさんではないと、いつも言っています通り……」
「もぉー、そのお話はなんぼ聞き飽きマシター。ワタシの本は、ママさんのおかげで生まれましたの本です。つまり、作品の中にママさんの魂も宿っていて当然、ワタシの本から生まれたアナタはワタシのママさんに間違いないのデス!」
「それは……確かに、私の中には当時の記憶も鮮明に残っていて、顔もよく似ているのでございましょうけれど、でも……って、ひゃわあ!」
何の前触れもなく、突然ぎゅうっと抱き締めてくる八雲の積極的過ぎるスキンシップに、雪女のか弱い悲鳴が上がる。
「ンフフ、ママさんはひんやりしていて気持ちいいデースねー。今日は太陽、とても暑かったので、ずっとママさんをギューしたかったデスよー」
「わ、わっ、私は、暑くて、溶けてしまいそうでございます……! 離してくださいませっ」
「モチロン、お断りしマース」
「へ、ヘルン先生〜!!」
そんなふたりが仲睦まじく戯れる姿を、今日もこっそり、本棚の影に隠れて見守る愛らしい子狐がいっぴき。……いや、にひき。
「えへへ、ふたりが仲良しになってくれて、ぼくたちも嬉しいね、ごん。悪戯、大成功〜♪」
彼らを再会に導いた悪戯好きの子狐は、ヌイグルミのお友達と顔を見合わせて、にこにこと満足そうに笑っているのだった。
2017.06.18公開
2018.04.07加筆修正