撫子ちゃんと烏葉さんの話
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可愛い花には毒がある
この日はとても天気の良い日で、カフェのテラス席でまったりするには丁度いい昼過ぎだった。
テーブルの下では相棒のシャリタツがスヤスヤとお昼寝をしており、私はモーモーミルクティー片手に、お気に入りの雑誌をぱらぱらとめくっていた。そんな時。
「おぉ! ナデシコちゃんやないか」
「あら……? カラスバさんじゃありませんか」
真っ黒なスーツと丸眼鏡、はんなりとしたジョウト弁で、朗らかに微笑みかけてくれるその人は、この町で有名なサビ組のトップであるカラスバさんだった。
「昨日ぶりですね」
「こうして毎日会えるなんて嬉しいなあ。同じ席、座ってもええかな?」
「勿論です、どうぞ」
おおきに、と言って、私の座っていたテラス席の、すぐ向かいに腰掛けるカラスバさん。
彼と偶然出会うのは、これで5日目。いや、6日目だ。不思議な縁もあるものだと思う。
「お飲み物は?」
「うーんと、モココーヒーにするわ」
「ここのベリーパイ美味しいですよ」
「ほな、それも貰おか」
すんませーん、と近くの店員さんを呼んで、丁寧に注文をした後、彼はニコニコして私を見つめる。
「今日のナデシコちゃんもかわええなあ、髪の毛まとめてはるのもよう似合うてるよ、ロズレイドのお花みたいやねえ」
「まあ、ありがとうございます。ちょっと時間をかけてセットしたので、そう言ってもらえると嬉しいですね」
「ちょっと待って、まさかお世辞やと思ってる? 本気やからね、オレはいつでもナデシコちゃんのこと、かわええと思ってるから」
「あらあら、カラスバさんったら。あんまり褒められると照れてしまいます」
ぽふぽふ熱くなる頬を両手で押さえながら、私は彼と目を合わせられなくなってしまう。しかし、そんな姿も彼は「かわええなあ」と言ってくれるから、ますます困ってしまう。
「……ナデシコちゃん。大事な話、してもええかな。良かったら、オレとお付き合い──」
「スシィ!」
そんな時である。
私の相棒、そったすがたのシャリタツが、いきなり私の膝の上にぴょんと登ってきて、カラスバさんの言葉を遮ったではないか。
「スシスシ! オレノスシ! オヌシ、スメシ!!」
いったい何を言っているのかはわからないが、とにかくカラスバさんに対して何か怒っている様子であった。
「しまった、ナデシコちゃんには頭の良いボディーガードがおるんやったなあ」
「スーシー!」
「シャリタツったら、どうしちゃったんですか?」
怒るシャリタツの頭をよしよしと撫でてやれば、相棒は満足げな顔でニコニコ笑ってくれる。ふふ、よかった。
(まさか、自分が目の前の人間にストーカーされとるなんて、微塵も思ってへんのやろなあ)
「……カラスバさん? そんなに見つめられると恥ずかしいです」
「ふふ、すまんすまん、やっぱりナデシコちゃんはかわええなあと思うてな」
「もう、カラスバさんったら!」
頬の熱が引かなくて、手で自分の顔をパタパタとあおぐけど、あまり意味はない。カラスバさんは嬉しそうに笑っている。
彼のかわええ攻撃に困っていると、テーブルの上で伏せていたスマホロトムが、ビビビと大きな音を鳴らした。驚いて画面をひっくり返す。
「まあ、デウロちゃんからの緊急連絡だわ! 大型の異次元ミアレがまた出現したみたい、行きましょうシャリタツ!」
「スメーシ!」
「そりゃ大変や。ほんなら、オレも一緒に……」
「いえいえ、カラスバさんは毎日お忙しいでしょう? 少しくらいカフェでゆっくりして行ってください、ベリーパイもまだ残ってますし」
いや、でも、そうもだついて立ちあがろうとするカラスバさんを、肩に手を添えて押さえる。
そうして彼のこめかみに、ちゅっ、と口付けを落とした。
「ふふっ、ではカラスバさん、また明日」
顔をみるみる赤く染めていく彼に、ぱちんとウインクをして、私はその場を後にするのだった。
「ッ〜〜はぁ、ずるい娘さんに引っかかったわ!」
私をそんな鈍感な子だと思ったら、モーモーミルクティーより甘いですよ、カラスバさん♡
2026.08.09公開
