鬼灯ちゃんと玉葱くんの話
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ラテラルタウンは、古代の芸術を中心に栄えてきた山間の町。巨大なディグダの石像を通り過ぎて、ここまで来るのは久しぶりだ。
カントー四天王チャレンジやジムリーダー研修などで私の方が忙しくて、ここ数年は"彼"と会えていない。
ジムスタジアムに繋がる階段を登る、足のテンポがずんずんと上がった。はやく、はやく、キミに会いたい。モンスターボールの中に居る相棒たちも期待に揺れ動いている。
ジムスタジアムの自動ドアを潜り抜けた、その瞬間──。
「「「きゃーーー!オニオンさまぁーーー!!」」」
甲高い黄色の声に歓迎され、ビックリして目を白黒させてしまった。お、オニオン、さま?? 何が起こってるの?
エントランスの天井から吊るされたモニターを見てみる。ちょうどオニオンが誰かと練習試合をしているところだった。相手は、なんとキバナさんだ。
「「「キバナさまーーー!!」」」
また別の集団が黄色い声をあげる。どうやら、女性ファンが異様に盛り上がっているようだ。
確かに、キバナさんはガラル地方において屈指の実力を誇る、ナックルシティのトップジムリーダー。ジムチャレンジでは8つ目、最後のジムリーダーになる。キャッチコピーはドラゴンストーム。その抜群のスタイルや整った顔立ちが、女性ファンには人気だと聞いたことはあった。
しかし、あのオニオンにも黄色い歓声があがっていることに、私は失礼ながらも驚いている。ゴーストポケモンの使い手としてはトップレベル、その実力を私はよく知っている。けれど、仮面をつけて素顔を隠しているし、どちらかと言えば年配の、おじいさんおばあさんのファンが多かった筈だ。孫を見守るような気持ちなのだろう。
いつの間に、こんな女性ファンが付いていたのだろう……。しかも、サマ付けだなんて。何でだろう、なんだかモヤモヤする。ムカムカする。
私がもだもだと悩んでいる間に、モニターの向こうでは勝負がついたみたいだ。どうやらキバナさんの勝利に終わったらしい。
「キバナさまってほんとかっこいい〜!」
「オニオンさまも負けてないわ!」
「どっちも素敵よね〜!」
黄色い歓声の主たちは口々に感想を述べながら、ジムスタジアムを出て行った。私はポカンとしたまま、エントランスで立ち尽くす。
しばらくして、ジムリーダー専用の待合室から、オニオンが出てきた。私はハッと我に返って、彼の元へと駆け出す。
「オニオンっ、久しぶり!」
彼がワアッと仮面を落っことしそうなくらい驚いてくれて、私は嬉しくなった。
「えっ、あ、ホズキさん!? いつからガラル地方に、わあ、ほんと、ほんとうに、久しぶりで、」
「ふふ、落ち着いてよオニオン」
「だって、ボク、すごく嬉しくて……! 教えてくれたら、迎えに行ったのに」
「驚かせたかったんだもん。ほんとうに、久しぶり」
果たして何年振りだろうか。お互いに感動して、両手を出して握り合う。ぎゅっと握った手が、なんだか前より大きくなっている気がした。いや、気のせいじゃ、ない?
「オニオン、背伸びた?」
「あっ、はい。ここ最近で、かなり、伸びました」
言われてみれば視線がだいぶ高い。私より十センチくらい大きいだろうか。昔は同じ背丈だったのに。なんて言うか、ずるい。オニオンばっかり格好良くなっちゃって。これは女性ファンが付くのも納得だった。
「ホズキさん? どう、しました?」
私が少しムスッとしている事に気付いたのだろう。オニオンは心配そうに私の顔を覗き込んでくる。顔と顔の距離が近くなって、急に頬が熱くなった。パッと繋いでいた手を離して、数歩後退りする。
「な、なんでもない!」
彼が仮面の奥で悲しい顔をしたような気もするけど、反射的に逃げてしまった。気まずい沈黙。
そんな静けさを破ったのは、私たちより遥かに背の高い人の影だった。
「久しぶりに会ったってのに、何を暗い顔してんだ。らしくねえぞ、おふたりさん」
──キバナさんだ! ひらひらと振られた大きな両手が、今度は私とオニオンの頭を掴んで、わっしわっしと撫で回される。照れ臭いけど嬉しい。
「お久しぶりです、キバナさん!」
「よお、久しぶりだな! ホズキ、またいっそう美人さんになったんじゃねえか?」
「えへへ、ありがとうございます!」
男前なキバナさんに褒められると、ついつい自信がついて自惚れてしまう。
ふとオニオンの方を見ると、仮面の奥の目が鋭くキバナさんを睨んでいるように見えた。な、なんで?
「キバナさん、先程は、練習試合、ありがとうございました」
「ははっ、そう怒るなよオニオン。ちょっと褒めただけだろ?」
「お、怒ってなんか、」
「冗談、ジョーダン。オレさまも楽しかったぜ、オニオンとの練習試合」
熱い握手を交わすふたりを見て、私は再びムッとなってしまった。
「オニオン、わたしともバトルしてよ!」
キバナさんだけずるい! 私なんて数年もオニオンとのバトルを我慢して過ごしてきたのに!
「おいおい、練習試合が終わったばかりだぞ? 少しはオニオンも休ませてやれって……」
「いえ、ボクも、ホズキさんとバトル、したいです」
「おぉ、なんだよ、相思相愛かよ」
キバナさんは「やれやれ、じゃあ見守ってやろうかね」そう言って、私たちの背中をポンポンと押してくれた。
久しぶりに、ジムスタジアムのバトルコートへ立った。オフシーズンだから観客はまばらで少ないけれど、別にそんなことは重要じゃない。オニオンとバトルできることが嬉しいんだ。
「それじゃあ……バトルは1対1の、シングルバトルで、良いですか」
「オッケーだよ。ふふん、今日は負けないから」
「こっちこそ、負けません」
お互いに背を向けて、十歩ほど歩いて距離を空ける。ぐるっと振り向いて目線を交わしたら、それはバトルの始まりを合図する。彼はダークボールを、私はモンスターボールを高く放りあげた。
「お願いします、サニゴーン!」
「よろしくね、ブーバーン!」
ガラル地方の白いサニーゴが進化した姿のサニゴーンと、ブビィから大切に育て上げたブーバーンが対峙する。まずは先手必勝!
「だいもんじ!」
ブーバーンの両腕から放たれた巨大な炎、それはおおきな大の文字を描き、サニゴーンを激しく燃やした。
「いきなり、超火力技……さすが、ホズキさんですね。なら、こっちも……!」
さあ、オニオンはどう出てくる?
「サニゴーン、ハイドロポンプ!!」
なっ、嘘!? ゴーストタイプなのに、水技を使えるなんて! サニーゴだった時の名残りなの!?
「ブーバーンッ、避けっ……!」
避けたいけど、間に合わない! 大量の放水をもろに浴びてしまったブーバーンは、早くも虫の息まで追い込まれてしまった。
「くっ、もう一度だいもんじ!」
こうなったら火力技で押しまくるしかない。もう一発食らう前に相手を倒さなきゃ。しかし──。
「こらえる! からのハイドロポンプ!!」
サニゴーンにギリギリで耐えられてしまい、二発目の放水を食らって、びしょ濡れのブーバーンはぐるぐる目を回してバトルフィールドに倒れた。
「ブーバーン戦闘不能、サニゴーンの勝ち!」
審判の声が響き渡る。私は小さく「ごめんね」と呟きながら、ブーバーンをボールに戻した。
わああと小さく上がる声援の中、オニオンがサニゴーンをボールにしまって駆け寄ってくる。
「バトル、ありがとうございました。ホズキさん」
「こちらこそ、オニオンと久しぶりにバトルが出来て嬉しかったよ」
「……あの、」
また、心配そうにこちらの顔を覗き込む白い仮面。私は再び、逃げるように後退りしてしまった。
「こんなことを、聞くのは、変かもしれませんが……」
「どうしたの?」
「今日のホズキさんは、いつもと、違う気がします。どこか、調子でも、悪い……とか? 大丈夫、ですか?」
オニオンは真剣に私を心配してくれているのに、私と言えば、バトルも上手くいかなかった上に、彼と目線を合わせることすら出来ない。
「なんでもない、なんでもないよ」
言えない、こんなこと。私は俯いて、ふるふると弱々しく首を振ることしか出来なかった。
オニオンが私の手を掴む。びっくりして顔を上げると、仮面の奥の紫色に光る瞳が、真っ直ぐに私を見ていた。
「場所を、変えましょう」
彼は私の手を引っ張って、ずんずんと控え室へ戻っていく。こんなに強引なオニオン、初めてだ。私は彼に連れられるまま、歩くしかなかった。
***
オニオンに連れられてきたのは、ラテラルタウンのそばにあるルミナスメイズの森。薄暗くて、光るキノコがぽつぽつと生えているこの森に、いったい何の用事があると言うのだろう。
「ここなら、静かで、ひとも居ません。ホズキさんも、ゆっくり話せるかと思って……」
なるほど、私を気遣ってくれたのだ。彼はいつだって優しい。私は彼と繋がれた手を、ぎゅうと握った。
「わたし、おかしいの」
私はゆっくりと気持ちを咀嚼しながら言葉にする。
「オニオンに女性ファンがたくさんついてて、喜ばしいことなのに、モヤモヤ、ムカムカして……」
「女性ファン……ああ、最近、ボクの顔写真が流出してから、増えたんですよね……」
「そう、なんだ? 喜ぶべきことなのに、どうして腹が立っちゃうんだろう」
「それは、ヤキモチ、でしょうか」
「ヤキモチ?」
彼にそう言われて、驚くほどにすとんと心の中で納得が言った。そうだ、そうかもしれない。彼の身の回りに女性が集まるなんて、今まで無かったから。嫉妬、していたのかも。
「それだけじゃないの。オニオンの背がいつの間にか伸びていて、わたしだけ、置いて行かれたような気がしたの」
「置いて行く?」
「オニオンだけ、どんどん大人になっていくようで……たぶん、寂しかったの」
体付きもなんだか変わってしまって、その変わってしまうオニオンが何処か私の知らない遠くへ行ってしまう気がして、私ばっかりドキドキさせられて、ずるいと思った。
「だいじょうぶ、ですよ」
オニオンが、繋がれた手を両手でぎゅっと握ってくれる。
「ボクにとって、大切なお友達で、最高のライバルは、たったひとり、ホズキさんだけです」
「……ほんとう?」
「ほんとうです。ボクたちは、成長しても、離れていても、心はずっといっしょにある。そうでしょう?」
「うん……約束、した」
「じゃあ、大丈夫ですよ。ヤキモチも、寂しさも、ボクに教えてください。何度でも、大丈夫と伝えますから」
「……ありがとう、オニオン」
「はい。どういたしまして」
私の話を聞いてくれたオニオンは、どこか嬉しそうで、いつも以上に優しかった。
ホズキさん、彼が私の名前を呼ぶ。それが心地良くて、うっとりしながら「なあに?」と首を傾げた。
「ボク、おおきくなったら、あなたに、伝えたいことがあったんです」
伝えたいこと? なんだろう。私はじっと彼の仮面を見つめて、言葉を待った。
「──ボク、ホズキさんのことが、す」
ロトロトロトロト。
彼が何かを言いかけた瞬間、オニオンのスマホロトムが鳴り響いた。仮面の奥で彼の顔がムッとした気がする。
オニオンがスマホロトムを起動すると、賑やかで大きな声が響いてきた。
『おーいっ、オニオン! オマエ、ホズキ連れてどこ行っちゃったんだよ』
「……キバナさん」
『ん? なんだ、どうした、不機嫌だな。はやくジムに戻ってこいよ! せっかくホズキが遊びに来てるんだ、美味い飯でも食いに行こうぜ』
「そうですね、すぐ戻ります」
ピッ、と素早くスマホロトムの通信を切った。
オニオンは深々とため息をついて、頭を抱える。私から見ても、彼はどこか機嫌が悪そうだった。せっかく何か言いかけていたのに、それを邪魔されたからだろうか。
「オニオン、何を言いかけたの?」
「……いや、今は、もういいです」
「そう?」
「また今度、ちゃんと、伝えますから」
「うん、わかった。待ってるね」
「はい、待ってて、ください」
私たちは手を繋いだまま、ルミナスメイズの森を後にした。ラテラルタウンの西陽が眩しい。
ジムスタジアムの前では、キバナさんが両手を振って私たちを待ち構えていた。
オニオンの手が私の手からパッと離れてしまう。私はまた寂しさを感じて、彼の手をギュッと繋ぎ直した。
「ホズキ、さん?」
「せっかくいっしょに居るんだもん、離しちゃ嫌。ずっと繋いでいて」
「ふふっ……わかりました」
「うむ、わかればよろしい」
私たちは再び手を繋いだまま、キバナさんの元へ駆けて行くのだった。
オニオンと私はずっといっしょ、ずっと仲良しなんだもん。ヤキモチも、寂しさも、感じたって大丈夫だもんね!
2025.5.25公開
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