鬼灯ちゃんと玉葱くんの話
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ガラル地方に置いてポケモンバトルは、サッカーや野球などと並び、テレビ中継までされるほどの一大エンターテイメントだ。この地方では年に一回、ジムチャレンジが開催される。8つのジムを回って8個のバッジを集めた者だけが、最強のチャンピオンが待つ、チャンピオンカップに挑戦出来るのだ。
ボクはそのジムチャレンジで、4番目に戦うジムリーダーを任されている。この期間は練習も含め朝から晩までバトル漬けで、忙しい日々を過ごしていた。ジムリーダー専用の待合室で、はあ、とため息を吐きながらベンチに座った。そんな疲れた時はふと、友達のあの子が頭に浮かび上がる。
(ホズキさん……今頃、どうしてるかな)
ヒバニーのようなぴょんぴょん跳ねた髪型が愛らしい、あの天真爛漫な少女。カントー地方で出会った彼女に、思いを馳せる。
カントー地方から帰ってきて2ヶ月になるが、早くも彼女に会いたくて仕方なくなっている自分が居た。彼女の太陽みたいな眩しい笑顔が見たい、彼女の小さな手に触れていたい、彼女と──ポケモンバトルがしたい。ボクにとっては初めての友達、こんなにも寂しくなるものだろうかと不思議だった。この感情も何もかも、初めての経験だから。
ホズキさんはいつかガラル地方に行くと言ってくれたけど、たぶん、今回のジムチャレンジには参加していないだろう。開会式でも彼女の姿は見かけなかった。また来年、いや再来年? 今度はいつ会えるのだろう。もういっそ、ボクの方からもう一度、カントー地方へ行ってしまおうか。
ジムリーダー用の控え室でベンチに座ってボンヤリしていたら、うちのジムトレーナーであるベテランさんに声を掛けられた。
「オニオン選手、お客様ですよ」
ジムチャレンジじゃなくて、ただのお客様? いったい誰だろう。こんなボンヤリしてちゃ駄目だ、シャキッとしなきゃ。ボクはすぐに立ち上がって、お客様が待っているというエントランスへ向かった。
「やあ、オニオン! 開会式以来だね」
ボクのことを明るく待ち構えていたそのひとは、炎タイプを表す真っ赤なユニフォームが似合う、ジムチャレンジ3番目のジムを守るカブさんだった。白髪混じりの頭に東洋人らしい顔立ち。ガラル地方のジムリーダーの中でも年配で、ボクにとっては尊敬する大先輩だ。
「わあ、カブさん! お久しぶり、です。いったい、どうしたんですか?」
ジムチャレンジ中は忙しいだろうに、わざわざボクの元まで来るなんて、どんな用事だろう。
「いやあ、ちょっときみに良い話を届けに来たんだ」
「良い話?」
「ボクが推薦したトレーナーに、ちょっと面白い子が居てね。いまちょうど、ヤロー君に挑戦しているところだから、映像を一緒に観よう」
カブさんはそう言うと、スマホロトムを取り出してボクに見せてくれた。
ヤローさんとは、ジムチャレンジ一番最初のジムリーダー。農家も掛け持ちしており、付いたあだ名がファイティングファーマー。優しい顔立ちに似合わず、屈強な肉体が特徴的なひとだ。親切で、時折ボクのところにも採れたて新鮮な野菜を届けてくれる。
そんなヤローさんと戦っているポケモントレーナーとは──ボクはその姿を見て、あっ! と大きな声を上げてしまった。
「えっ、ホズキ、さん!?」
画面の中に映っていたのは、ボクが先程思い浮かべていた彼女そのものだった。いつかと違って、ちゃんとジムチャレンジ用の赤いユニフォームにオレンジのパーカーを羽織っている。扱っているポケモンは──。
『ブースター、フレアドライブ!』
頭に大きな花を飾ったポケモン、ヒメンカへ向かって、ブースターが炎をまとって突進する。草タイプに炎タイプの技は弱点。一撃必殺でヒメンカがバトルフィールドに沈む。
ヤローさんは「まだまだ、ここから!」と次のポケモンを繰り出した。頭にたくさんの綿毛を携えた、ワタシラガだ。
『さあ、ダイマックスだ! 根こそぎ刈り取ってやる!』
このガラル地方では、ポケモンが超巨大化するという不思議な現象が発生する。詳しくは、ガラルの土地から湧き出すマゼンタ色のエネルギー"ガラル粒子"の働きによって起こるとされる。ジムスタジアムは、ガラル内でも多くの粒子が発生するパワースポットに建築され、バトル中にもその超巨大化を利用している。それがダイマックスだ。
ヤローさんはワタシラガを一度ハイパーボールに戻すと、そのボールがマゼンタとホワイトの大きなボールへ変化して、大きく振りかぶって投げたボールからは超巨大化したワタシラガが現れる。きゃおおー! 大きな鳴き声がスタジアムに響き渡った。
それでも、ホズキさんは一切動じていない様子だった、彼女はダイマックスを見慣れていない筈なのに。
『ワタシラガ、ダイソウゲン!』
『ブースター、もう一度フレアドライブ!』
またも一撃必殺であった。超巨大化したワタシラガの腹部に、炎をまとって突撃したブースター。ダイマックスは解かれ、ワタシラガの身体はゆっくりとバトルフィールドに倒れた。
『ワタシラガ戦闘不能、ブースターの勝ち!』
審判の声が響き、一瞬静まり返った会場は、途端にワアアと歓声を上げる。ジムチャレンジを観覧していた実況席も、これには大きく盛り上がっていた。
『な、何と言うことだ! 初めてのジム戦で2匹を一気に秒殺してしまったァ! 遅れて現れたチャレンジャー、ホズキ! これは気持ちの良い快進撃だ!』
スマホロトムの小さな画面の中で、彼女とブースターは抱き合って勝利を喜んでいた。
「どうかな? すごいトレーナーだろう」
カブさんが自慢げにボクを見ている。ボクは衝撃で呆然として、どんな言葉を返したら良いか、わからなかった。
「ぼくの友人のお孫さんでね、どうしてもガラル地方でジムチャレンジに挑戦したかったらしくて、だけど推薦状の存在を知らなかった。それで開会式の後にぼくのところへ飛び込んできたんだよ」
カントー地方ではジム制覇も成し遂げたそうだよ、と教えてくれるカブさんに、ボクはようやく我に返った。
「ホズキさん……知ってます。ボクの、友達です」
友達。その言葉を使うのが、少しだけ恥ずかしくて、ほんのり頬が熱くなる。カブさんはそうだったのかと嬉しそうな顔をした。
「彼女がどうしてもジムチャレンジに挑戦したかった理由は、もしかしてきみの存在かな?」
「はい。カントー地方で出会った時、約束したんです。いつか必ず、ガラル地方に来て、ジムチャレンジに挑戦する、ジムリーダーのボクに、勝ちに来る、と」
約束、果たしに来てくれたんだ。
まさかこんなに早く再会が叶うとは思わなかったが、ああ、どうしよう、嬉しくて堪らない。どくん、どくん、と心音が早まって、もう居ても立っても居られない。
「カブさんっ、良かったら、練習試合、しませんか」
「ふふ、彼女のバトルに刺激されたかな。ぼくも心が燃えて仕方なかった! 練習試合、受けて立とうじゃないか」
「ありがとう、ございます!」
彼女がジムチャレンジに来るなら、最高の試合をする為に最高のコンディションを保ち、ギリギリまで鍛えておきたい。
ボクの一番の友達であり、ライバルの登場に、ボクのポケモンたちも、ダークボールの中で期待に揺れ動いていた。
***
彼女の快進撃は、一つ目のジムにとどまらない。
二つ目のジム、水タイプ使いのルリナさん相手でさえ、炎タイプを使うことにこだわり、苦手なタイプでも高火力で押して押して押し退けて、見事撃破して行った。
三つ目のジム、同じ炎タイプ使いのカブさん、推薦状を書いてくれた恩師にも、彼女は当然手を緩めない。激しい炎と炎のぶつかり合いの結果、これもまた快勝で突破を成し遂げた。
ジムバッジを三つも集められずに、ジムチャレンジを諦めるトレーナーも数多くいる中で、この快進撃は目を見張るものがあった。
ホズキさんはいつの間にかファンが付いていて、"ちいさな炎使い"もしくは"燃える美少女"の二つ名で呼ばれるようになっていた。確かに彼女はひとを魅了するバトルの激しさだけでなく、可愛らしい見た目をしている。ファンの人気を得るのも納得だ。
そして、四つ目のジム──。
ラテラルタウンのジムミッションをクリアした彼女を、ボクはジムの控え室で待っていた。スタジアムからワアッと歓声が上がる。挑戦者が入場してきたのを見て、ボクも数秒遅れてスタジアムに入って行く。
ジムスタジアムの真ん中で、ボクとホズキさんは久しぶりに顔を合わせた。ふたりとも海を眺めていたあの日とは違う、バトルユニフォーム姿だ。
「久しぶりだね、オニオン」
「はい。お久しぶりです、ホズキさん」
「なんか、緊張しちゃう。こんな大勢の前でバトルするなんて」
「いまさら、ですか? ここまで、凄まじい快進撃だったのに」
「どのジムでも緊張してたよ。でも、このジムは特別。だって、オニオンが相手だもの。私の友達で、最高のライバル」
「……ずっと、待っていました」
「わたしも。この日のために、必死でここまで走ってきたんだから」
お互いに、いつかデパートの前で交わしたポケモンバトルの時のように、十歩ほど距離を取る。彼女はモンスターボールを、ボクはダークボールを構えた。審判がバッと高く片手をあげる。
「ラテラルタウン、ジムバトル! 4対4のシングルバトル、開始!」
ふたりの間に勢いよくボールが放り込まれた。
「行くよ、ギャロップ!」
「お願いします、デスマス!」
現れたのはカントー地方の燃えるたてがみを持ったギャロップ、こちらが繰り出したのはゴーストタイプに地面タイプを併せ持つデスマスだ。
あのギャロップはたぶん彼女の持っていたポニータが進化したポケモンだろう。この2ヶ月で、彼女とそのパートナーたちの成長を感じた。
でも、ボクだって何も対策してこなかった訳じゃない。
「デスマス、だいちのちから!」
炎タイプに効果抜群の地面技で先制する! ギャロップの足元に大地の力が放出される。しかし。
「ギャロップ、こうそくいどうで避けて!」
逃げられた!
「そのまま、スマートホーン!」
ギャロップの頭に生えた鋭い角が、デスマスの体を突き刺した。でも、こちらだって負けてられない!
「デスマス、ギャロップを捕まえて! ぶんまわす!」
デスマスはギャロップの首を捉えると、そこから大きく巨体を振り回して、ぐるんぐるん何周も回った後に、ジムスタジアムの壁に投げつけた。ドゴォンと大きな音を鳴らして、壁にギャロップの体がめり込む。さあ、今度こそ!
「だいちのちから!!」
壁から動けないギャロップの足元から、大地の力が放出して大ダメージを与えた。審判の声が響く。
「ギャロップ戦闘不能! デスマスの勝ち!」
ホズキさんは苦い顔をして、ギャロップをモンスターボールに戻した。
「お疲れ様、ギャロップ。まさか、地面タイプの技を使ってくるなんて……」
「ふふ、驚きました?」
勝ち気に笑って見せれば、彼女も楽しそうに笑みを返してくれる。
「今度はわたしが驚かせてあげる! 行こう、ブースター!」
次にボールから出て来たのは、彼女の古株の1匹であるブースター。幼い頃から共に育ったという、絆も十分にある相棒ポケモンだ。
「かみつく!」
ブースターはデスマスに突撃すると、その黒い幽体にガブリッと噛み付いた。まさかの悪タイプ技、効果は抜群だ! ブースターがぶんっとデスマスを放り投げる。デスマスは倒れたまま、ぐるぐると目を回していた。
「デスマス戦闘不能、ブースターの勝ち!」
ボクはダークボールへ静かにデスマスを戻す。フレアドライブ一強と思っていたから、そう来るとは思わなかった。
「オニオンの戦法は知り尽くしてるこのわたしが、ゴースト対策してない訳が無いでしょ?」
彼女はニンマリと自慢げに笑う。悔しい……。けど、まだ1対1だ。バトルは始まったばかり!
ボクは二つ目のダークボールを振りかぶった。
「ミミッキュ、出番です!」
繰り出したるはゴーストとフェアリー、ふたつのタイプを持ち合わせる、ミミッキュだ。ピカチュウに似せた布を被っているのが特徴のポケモンである。
「ブースター、かみつく!」
ミミッキュのピカチュウと似た頭にかぶりつくブースター。しかし悪タイプの技は残念ながら通常耐性、オマケに特性の"ばけのかわ"で最初の一撃は効果は無い。ポコンッ、とミミッキュの頭が倒れる。
「ミミッキュ、シャドークロー!」
そして至近距離から急所を狙い、ミミッキュの影から現れた鋭い爪でブースターを切り裂く。ぶいぃっ、と苦しそうな悲鳴が上がる。だが、一撃必殺には届かなかった。
「フレアドライブ!」
「じゃれつく!」
お互いの高火力物理技がぶつかり合い、ガツンゴツンと大きな音を鳴らして、2匹の身体がゆっくりバトルフィールドに沈んだ。
「ミミッキュ、ブースター、共に戦闘不能! よって引き分け!」
同時に倒れるとは予想外だった。フレアドライブ一発は耐える計算だったけど、彼女とポケモンたちの成長はそれを超えてきたようだ。
「ははっ、楽しくなってきた!」
「まだまだ、これから、ですよ!」
再び同時にボールを投げる。どうしてだろう、彼女の次のポケモンが分かる気がした。
「「シャンデラ!」」
ボクと彼女の声が重なる。飛び出したのは、色の違う同じポケモン。カントー地方でカツラさんに貰ったヒトモシ、その最終進化系がシャンデラだった。
「ホズキさんのシャンデラ、オレンジ色、なんですね」
「うん、綺麗でしょ! オニオンのシャンデラも、紫色が綺麗だね」
雑談もそこそこに。
「「シャドーボール!」」
また声が重なる。ほぼ同じ威力の黒い影の塊がぶつかり合い、小爆発を起こして消えた。レベル帯はほとんど同じだと思われる。どう戦っていくべきか。いや、どんどんぶつかっていくべきだ、彼女の戦闘スタイルのように!
「「オーバーヒート!」」
お互いフルパワーの特殊炎技がぶつかり合う。使った反動で特殊攻撃力がガクッと下がってしまったが、ダメージは入ったようだ。
今だ! 隠していた必殺技を使うのは、今しかない。
「シャンデラ、ふういん!」
「なっ!?」
ボクのシャンデラが使った、ふういん。これは相手が自分と同じ技を覚えていたら、相手だけその技を使えなくするもの。彼女が同じシャンデラを使うであろうと考えた時に、まず真っ先に覚えさせた技であった。
「今です、シャドーボール!」
身動きが取れない内に、黒い影の塊をオレンジ色のシャンデラに叩きつける。弱点技を食らって、その美しいオレンジ色はカランカランと地面に転がった。
「ホズキ選手のシャンデラ戦闘不能! よって、オニオン選手のシャンデラの勝ち!」
よし、良い調子だ! 思わずガッツポーズを決めるボクに反して、ホズキさんは非常に落ち込みながらシャンデラをボールに戻す。小さく「ごめんね」と呟いていた。
彼女のポケモンはこれで最後の1匹だ。ボクのシャンデラはまだ体力が半分ほど残っている。さあ、ホズキさん、どうする?
「──行けっ、エースバーン!」
それは予想していなかった、しかし、彼女に似ていると思い浮かべてはいたポケモンだった。ヒバニーの最終進化系、エースバーン。好戦的な目付き、ぴょんと跳ねた長い耳、やはり彼女とよく似ていた。
「エースバーン、キョダイマックスだ! 燃える闘志、今こそ見せる時!!」
な、なんだって!?
彼女の右手に輝くダイマックスバンドが眩しい。一度エースバーンをボールに戻して、巨大なマゼンタとホワイトカラーのボールに変化させた後、彼女は両手でそれを抱えて後ろへ放り投げた。会場の観客のボルテージがマックスに上がる。
キョダイマックスしたエースバーンは、長い耳を更に長くなびかせて、巨大な火炎ボールの上に両腕を組んで乗っていた。その強大さにこちらは恐れ慄くしかない。
「エースバーン、ダイアーク!」
しかも悪タイプの技を覚えている! こんなの耐えられる訳が無い! シャンデラはうねった形の巨大な闇のオーラをまともに食らい、その大爆発で地面に転がった。
「シャンデラ戦闘不能、エースバーンの勝ち!」
ダークボールにシャンデラを戻す。こちらも最後の1匹になってしまった。
「お願いします、ゲンガー!」
ボクの相棒、ホズキさんとも何度も戦った経験のあるこの子なら、立ち向かえる。
「ゲンガー、キョダイマックス! 周りを闇で包み込んで……!」
ボクの右手で輝くダイマックスバンド。一度ゲンガーをダークボールに戻して、巨大なマゼンタとホワイトカラーのボールに変化させた後、両手で思いっきり放り投げた。
グオォ! 大きな鳴き声をとどろかせて、深淵の広がる口をぽっかり開けた巨大な姿に変化を遂げたゲンガー。呪いのエネルギーに満ちみちている。
「キョダイゲンエイ、影踏みだよ。逃げられない、逃がさない……!」
巨大なエースバーンを飲み込もうと巨大なゲンガーが襲いかかる。
「キョダイカキュウ! 心を燃やして、燃やし尽くせ、エースバーン!!」
それに対抗して、エースバーンは巨大な火炎ボールをゲンガーに向かって蹴り飛ばす。
お互いの技がぶつかり合って、その衝撃はジムスタジアムをぐわんぐわんと揺らした。真っ黒な煙が辺りを包み込む。
──煙が晴れた時、そこに立っていたのは。
「ゲンガー戦闘不能、エースバーンの勝ち!」
ホズキさんのエースバーンだった。
***
ジムバトルを終えた後、ボクとホズキさんはそれぞれインタビュアーに捕まってしまい、ろくに会話も出来ないまま、各々の控え室でコメントを撮らされていた。
1時間ほど経ってようやく解放され、エントランスに出ると、彼女もちょうど控え室を出て来たところだった。
「あっ、オニオン! インタビューお疲れ様」
「ホズキさんこそ、お疲れ様、です」
えへへと顔を見合わせて笑い合う。久しぶりの再会が、なんだか照れ臭くなって、以前のように振る舞うことができない。
「えっと……エースバーンとは、いつ出会ったんですか?」
何を話したら良いか迷ってしまって、とりあえず気になっていた新顔の話を振ってみた。
「ヨロイ島で、マスタード師匠からヒバニーを貰ったの。オニオンも知ってる? わたし、そこで2ヶ月の間、修行させてもらってたんだ」
なんと、この2ヶ月、何をしていたかと思えば、彼女も修行に励んでいたなんて、驚いた。彼女はそこでダイマックスの戦法や扱い方を学んだらしい。そうか、だからヤローさんのジムでダイマックスを見ても驚かなかったんだ。
「オニオンともう一度、戦うためだけに今日まで頑張ったんだよ?」
「ぼ、ボクの、ために……」
そう言われると、なんだかやっぱり照れてしまう。彼女と再会してから、ちょっと自分が可笑しい。照れたり、恥ずかしくなったり、ドキドキしたり、変な感覚だ。
「ボクも……」
でも、ちゃんと伝えたいことは伝えなきゃ。
「……ボクも、ホズキさんともう一度、戦うために、シャンデラやデスマスたちを育てて、待っていました」
あなたに、勝つために。まあ、結果は負けてしまったのだけど。
「ふふっ、お揃いだね!」
「おそろい……」
「オニオンとのジムバトル、すごく楽しかった!」
「はいっ、ボクも、楽しかったです」
負けても、楽しかった。成長した彼女が見られて、お互いの本気をぶつけ合えて、この上なく楽しい時間だった。
出来れば、もう一度。そう思うけど。
「次は、五つ目のジム、ですね……」
彼女はきっと、この先の高みへ歩んでいくのだろう。ボクは、置いてけぼりにされてしまう。そう考えていた。
「うん。次のジム戦も勝ってみせるよ」
「頑張って、ください……!」
「ありがとう、オニオン」
思わず寂しさで俯いてしまったボク。その右手を、彼女の小さな手が握った。ドキンと心臓が跳ねる。
「オニオン、また約束しようよ」
彼女のその言葉に、ハッと顔を上げた。
「わたしがジムチャレンジを制覇して、チャンピオンカップで優勝出来たら、」
──出来たら?
「いっしょにキャンプでカレーを食べよう!」
一瞬、仮面がずるりと滑り落ちるかと思った。だってあまりにも予想外すぎる言葉だったから。
「か、カレー、ですか?」
「そう! わたし、ガラル地方に来てからキャンプとカレー作りにハマっちゃって! 美味しさリザードン級のカレーを作れるから、期待してて」
バトル以外にも、また会える約束をして良いんだ。そう思ったら嬉しくなって、どきどきと高鳴る心音も何処か心地良くなっていた。
「ふふ、良いですね、楽しみに、してます」
「オニオンの仮面が落っこちるくらいのカレーをご馳走しちゃうからね!」
「はい、期待してます」
彼女が前を走り続けるなら、ボクも同じように後ろを追いかけ続けよう。きっとそうやって、お互いに成長出来るのだろうから。
ホズキさんの手作りカレー、楽しみだな。
2025.05.16公開