鬼灯ちゃんと玉葱くんの話
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タマムシ、虹色、夢の色。
タマムシシティはカントー地方の中央部に位置する都市だ。デパートにゲームセンター、旅館や食堂など様々な商業施設の揃った、カントー地方の娯楽の中心部である。ボクとしては人が多過ぎて、ちょっと怖い街だ。片手で仮面をグッと押さえる。
今日は先日出会ったばかりのヒバニーみたいな少女──ホズキさんに誘われて、修行も良いけど少しは息抜きに観光もしよーよ! と言う事で、タマムシデパートへ遊びに来ていた。しかし……。
「まずはポケモンバトルしよーよ!」
再会して早々、噴水のあるデパートの前で勝負を挑まれた。息抜きしようと言う話はどうなったのか。けれど、ボクも先日の彼女とのバトルは楽しかったので、その誘いを断る理由もなかった。
お互いに十歩ほど距離を取り、彼女はモンスターボールを、ボクはダークボールを手に取る。せーのっ、で二つのボールは高く宙を舞った。
「行くよ、ブースター!」
「お願いします、ゲンガー!」
小さく炎を吐きながら登場したブースターの前に、相棒のゲンガーが立ち塞がる。タイプ相性は同等。スピードはこちらの方が上──と思いきや。
「先手必勝! ブースター、フレアドライブ!!」
ぶいいっと高らかに鳴いたブースターは、全身に業火を纏うと勢いよく突進してきた! いきなり大技、しかも速い!!
「ゲンガー、避けて!」
こちらも慌てて指示を出すが、ま、間に合わない。すんでのところで直撃は免れたが、ゲンガーの右腹部に思いっきりダメージを食らってしまった。ゲンガーはその高い特殊攻撃力や素早さに比例して、体力の少ないポケモンだ。直撃だったら今の一撃で即、勝負がついていただろう。危なかった。
「まだまだ、かえんほうしゃ!」
「ッ、シャドーボール!」
激しい炎がブースターの口から発射されて、こちらのゲンガーも黒い影の塊を投げて応戦する。技と技がぶつかり合い、ドォンッと爆発が起きた。レベルは同等と言ったところか。
最高クラスの威力を誇る物理技のフレアドライブは、技を放った方にも反動でかなりダメージを食らう筈だが、彼女のブースターは全くそのダメージを感じさせない。
こうなったら──そうだ!
「ゲンガー、ドレインパンチ!」
持ち前の素早さで距離を詰めて、特殊技ではなく物理技でブースターの右頬を思いっきり殴り飛ばした。ついでに体力も回復出来る。これならまだ勝機はある!
「ブースター! 大丈夫!?」
これにはさすがにホズキさんも動揺したみたいだ。吹き飛ばされて倒れていたブースターはよろよろと立ち上がり、瞳をキッと釣り上げると「まだいける!」そう言うように強く鳴いた。たくましいポケモンだ。けど、ここで畳み掛ける!
「もう一度シャドーボール!」
「やばっ、かえんほうしゃ!」
再び技と技がぶつかり合い、小爆発が起こる。ゲンガーはその隙にまたブースターに距離を詰めた。
「ドレインパンチ!!」
2発目の拳。今度は左頬に攻撃を食らったブースターが吹き飛ぶ。こちらは体力を半分まで回復、向こうはフレアドライブの反動も込みでギリギリの体力だろう。ここでとどめだ!
「ゲンガー、ふいうち!」
相手の出す技が攻撃技の場合、必ず先制出来る技。かえんほうしゃが来ると呼んで、ブースターの腹部にキツい一発をお見舞いした。
「ぶ、ブースター!!」
彼女の必死な呼びかけに、吹き飛ばされたブースターは立ち上がる事はなかった。
ブースター戦闘不能、ゲンガーの勝利だ。
「やった……!」
相棒と顔を合わせて、小さく勝利の余韻に喜びを分かち合った。その時である。
「おいおい、ボウズすごいじゃねえか!」
「やるわねえ、仮面の男の子!」
いつの間にこんなギャラリーが出来ていたのか。ボクとホズキさんの周りには、ボクらのバトルを見守っていたらしい、大勢の人々が集まっていた。
「最初はどうなることかと思ったが!」
「お兄ちゃんとゲンガーすごい、すごーい!」
集まった老若男女が口々にボクとゲンガーを褒めてくれる。嬉しい、嬉しいんだけど、あんまりこうして人に囲まれることは苦手だ。ジムリーダーをやってる時の普段は、ベテラントレーナーのおばさまたちが助けてくれるけど、今回はそうもいかない。人間が苦手なゲンガーは、早々にダークボールの中へ戻ってしまった。
「あ、ありがとう、ございます……」
ボクがおろおろ戸惑っていたら、小さな手がボクの右手をパシッと掴んだ。
「え、ホズキさん?」
むすっと不機嫌そうな顔をして、彼女はボクの手を握っている。そんな表情も可愛いだなんて、ボクは何を考えているんだろう。
「オニオンはホズキと一緒にポケモンセンターへ行くの! ブースター、戦闘不能になっちゃったもん」
彼女の片手にあるモンスターボールの中では、ぐるぐると目を回したブースターが収まっている。
ほら、どいたどいたー! とホズキさんは人混みを元気良く掻き分け、街の東にあるポケモンセンターへと駆け出した。
ポケモンセンターの中は人が少なくて静かだ。少し、ホッとする。
ホズキさんがカウンターへ近付いて行く後ろ姿に着いて行って、ジョーイさんにブースターを預け、ボクもゲンガーを預けて、回復が終わるのを待つことになった。
そっと彼女の手がボクの手から離れる。それをなんだか寂しいと感じてしまった。
「ごめんね、オニオン」
彼女はボクの方を見ると、申し訳無さそうに眉を下げて、そう言った。
「ど、どうして、謝るんですか」
「だってオニオン、ひとが多い場所、苦手なんでしょう?」
何故わかったのか、と問わなくてもボクの先程の状態を見たら、嫌でも分かるだろう。こうして賑やかな街に呼んでしまったこと、オマケに突然バトルに誘ってしまったことを、また「ごめんね」と謝る彼女に、慌てて「だいじょうぶ」と宥める。
「ホズキさんとのバトル、楽しかったから……」
「ほんとう?」
「はい、すごく。だから、だいじょうぶです」
「……よかった!」
彼女はとても安心したように微笑んだ。その表情に、どきんと心臓が跳ね上がる。どきどき、そわそわ、なんだろう、この感覚は。
「でも、今日は予定変更しよ」
「お買い物は、良いんですか?」
「また静かな時に行けば良いよ、それよりオニオンに見せたい場所があるの!」
ちょうどブースターとゲンガーの回復が終わったところで、ポケモンセンターを出る。
ホズキさんは腰のベルトにつけたハイパーボールを手に取ると、それを高く放った。
「出ておいで、リザードン!」
グオォ! と大きく吠えながら登場した、オレンジ色の翼竜。その巨体に驚いていると、彼女が自慢げに笑った。
「この子は、わたしのおじいちゃんのポケモンなの! カントー地方を巡るなら移動に使ってやりなさい、ってことで借りてるんだ」
なるほど、ホズキさんのおじいちゃん……育てるのが難しいと言われるドラゴンポケモンを、こうも立派に育てているとは、きっと優れたトレーナーに違いない。
リザードンの大きな背中に、よいしょっと華麗にまたがるホズキさん。ボクの方を振り返ると、おいでよ! と手を差し伸べた。
「だいじょうぶ、怖くないよ!」
空を飛ぶのは、ガラル地方のアーマーガアのそらとぶタクシーで経験しているけど、こんなに剥き出しの状態で飛ぶなんて初めてだ。正直、少し怖い。でも、彼女が手を差し伸べてくれるなら、平気だと思える。
ボクは彼女の手を取って、その後ろにまたがった。腰をしっかり掴まるように言われたので、彼女の腰に両腕を回し、ぴったりと背中に腹を押し付けて密着する。どきどきと心音が高鳴るのを感じた。また、不思議な感覚。
「それじゃあ、いっくよー!」
リザードンはまた一声力強く吠えると、翼を羽ばたかせて、ダンッと強く地面を蹴り上げた。バッサバッサと大きな羽音を鳴らしながら、空を駆ける。そのスピード感、体に感じる風、まさに爽快だった。
***
セキチクはピンク。華やかな色。
リザードンに乗ってやってきた街は、カントー地方南西部に位置するセキチクシティ。確かサファリゾーンがある街で、街の半分以上が広く乾燥した牧場地帯になっているところだ。
空から眺めると、あちこちに見慣れないポケモンたちが居て、わくわくする。
リザードンはポケモンセンターまで飛ぶと、ゆっくり着陸した。ボクたちも慌てずそっと、リザードンの背中から降りる。
「ありがとう、リザードン! またよろしくね」
ホズキさんはハイパーボールにリザードンを戻して、嬉しそうにボクの方を向いた。
「さあ、こっちだよオニオン!」
再びボクの手を握ると、勢いよく走り出した。ボクも必死でその後を追う。段差も何のそのと飛び越える彼女。その元気さにボクは振り回されるばかりだ。
彼女が向かうのはやっぱりサファリゾーン──と思いきや、その手前で足を止めた。
「ここにはね、珍しいポケモンがいっぱい展示されてるの! 化石から復元した子とか、山奥でしか見かけない子とか……」
彼女は説明しながら、そのポケモン園をゆっくりと歩く。そこは本当に珍しいポケモンばかりだった。
人前には滅多に姿を見せないガルーラが、お腹の子供と一緒に、木陰ですやすやお昼寝をしていたり。サイホーンとケンタロスがお互いに突進し合って、激しく特訓をしていたり。古代の海を泳いでいたとされるオムナイトが、普通に現代の池を泳いでいたり。その池でヤドンが尻尾を垂らして釣りをしていたり。
ガラル地方出身のボクとしては、こんなにも色んなカントー地方のポケモンを見られることが、楽しくて仕方がなかった。この豪華な展示の割に、観光客などが少ないのも安心する。皆サファリゾーンばかりに目が行って、ここの辺りはあまり見ていかないのだろうか。
「ふふ、オニオン、目がキラキラしてる」
「き、キラキラ?」
「うん! やっぱりオニオンもポケモンが大好きなんだね、連れてきてよかった!」
そんなに浮かれていたのかと思ったら、なんだか恥ずかしくて、仮面をつけているのに反射的に片手で顔を隠そうとしてしまった。
ボクはふと思い立って、覚悟を決めて、彼女にとある質問をする。
「あの……ホズキさんは、どうして、ボクにこんなに、よくしてくれるんですか?」
「え?」
「このあいだ、出会ったばかりなのに……」
彼女はきょとんと目を丸くして、さも当たり前のように答えた。
「ホズキとオニオンは、もう友達でしょ」
友達。その言葉に照れくさくなって、きゅうと心臓の奥を締め付けられる感じがした。
「友達とはたくさんバトルしたいし、色んなものを見せたいし、大好きを共有したいもん」
当然だよ。彼女は眩しく笑った。
「ボク……こんな仮面、つけてるのに……」
「えぇ? 似合ってるから大丈夫だよ、オニオンのキラキラしたおめめは見えるから」
「人混みとか、苦手だし……」
「カントー地方には、人知れず見応えのあるスポットがまだまだたくさんあるよ!」
「同い年のお友達なんて、その、はじめてで、」
「そうなの? じゃあ、わたしがオニオンのいちばん最初のお友達だ! 嬉しいっ」
真っ直ぐそう答えてくれる彼女が、あまりにも眩しくて、嬉しくて、ボクはなんだか泣いてしまいそうだった。仮面でバレてはいないだろうけど。
「これからもたくさん、わたしと遊んでね!」
「……はい!」
ボクは彼女と握り合っている手を、強く、強く握り返した。
ボクの、初めてのお友達。それがホズキさんだった。
2025.05.09公開