鬼灯ちゃんと玉葱くんの話
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シオンは紫、尊い色。
彼女と初めて出会ったのは、この町だった。
カントー地方の東部にある山間の小さな町、シオンタウン。紫色の屋根をした家々が立ち並ぶその町は、静かでどこか寂しげな雰囲気もあると感じた。ボクにとっては落ち着く空気感だ。
シオンタウンのシンボルと言えば、ポケモンタワーだろう。街の東側に聳えるその建物は、亡くなったポケモンたちの眠る墓場である。この町がどこか寂しげに見えるのは、たぶんこのポケモンタワーの存在が大きいだろう。人々やポケモンたちの悲しみに沈んだ暗い感情が集まるこのタワーは、ゴーストタイプのポケモンたちからすれば絶好の棲家であった。
ボクはまだ幼いけど、ガラル地方でゴーストタイプのジムリーダーを勤めている。でも、まだまだ未熟者の身だから、こうしてカントー地方まで、修行の旅にやってきたのです。カントーに来たら必ず、シオンタウンに行ってポケモンタワーをお参りしようと決めていた。歴戦のイタコさんたちも大勢居るそうだから、タワーを登る事は良い修行にもなると思ったんだ。
さあ、いざゴースト修行──と思い、早速ポケモンタワーにお参りを、2階に登った矢先であった。
「ひっく……ぐす……っ……」
2階に上がってすぐ目の前で、お墓の前にうずくまり、泣いている少女の姿があった。派手なピンク色の髪をヒバニーみたいにピョンピョンと跳ねさせた、ボクと同い年くらいの少女。墓場では、珍しい光景じゃない。でも、その傍らに寄り添う存在は珍しいものだった。
ぼろぼろと泣き続ける少女の傍らに、薄らと半透明になったポケモンが寄り添っていた。この子は、カントー地方のギャロップだろうか。ガラル地方のギャロップと違って、炎のたてがみがメラメラと燃えている。多分だけど、この子はゴースト──いや、幽霊だ。時折、ボクはそういうものが見えてしまう。
「あ、あの……」
気になって、思わず声を掛けてしまった。うずくまる少女がこちらを見上げる。涙がたっぷりと溜まった赤い瞳がキラキラ輝いていて、一瞬、ドキリと心臓が跳ね上がった。び、ビックリした。あまりにも綺麗な瞳だったから。
恐る恐る、言葉を続ける。
「だいじょうぶ、ですか」
「ぐすん……キミ、だあれ?」
「えっと、ボクはオニオン、と言います。ガラル地方から、来ました」
少女は驚いた様子で、まあ、と目を丸くした。涙も少し引っ込んだようだ。
「ずいぶん遠くから来たんだね。わたし、ホズキって言うの」
「ホズキ、さん」
ボクが彼女の名前を呼んだ時、傍らのギャロップがヒヒンッと鳴いた。しかし、彼女には聞こえていないようだった。
「もしかして、あなたのポケモン……」
彼女はまた俯いて、ぽろぽろと泣き出してしまった。ゆっくりと口を開く。
「わたしの、ギャロップ……おじいちゃんから貰った……赤ちゃんの時から、ずっと一緒だった、ギャロップ……亡くなっちゃった、の。ギャロップ、遠くに行っちゃった」
ああ、やっぱり。傍らのギャロップも、悲しそうに俯いていた。鼻先で一生懸命、彼女を慰めようと首を動かすが、幽霊となってしまったその子にはどうしようもできない。
こんな時、ボクはどうしてあげたら良いのか、正解がわからない。──でも、伝えてあげることはできるはずだ。
「だいじょうぶ、ですよ」
「……え?」
「ギャロップは、ずっとあなたの、そばにいます」
ボクの言葉に、ホズキさんは涙目のまま辺りをキョロキョロと見渡した。傍らのギャロップには、やはり気付かない様子。それでも。
彼女は再び、ボクの顔を見上げた。
「ほんとう? そばに、いるの?」
「はい。見えなくなっても、亡くなってしまっても、ギャロップの想いはずっと、あなたといっしょです。だから、だいじょうぶですよ」
ギャロップがボクの方を見て、ニッと笑ってくれたような気がした。
ホズキさんは突然スッと立ち上がると、涙に濡れた顔をぐしぐし服の袖で拭いてから、今度は真っ直ぐボクの方を向いた。
「そばにいてくれるなら、こんなにいつまでも泣いてちゃあ、いけないよね! わたし、前を向かなきゃ」
ニカッと太陽ぐらい眩しい笑顔をくれた彼女。
ギャロップの姿は、いつの間にか見えなくなっていた。
「ねえ、オニオンはポケモンタワーに何しに来たの?」
「あっ、ボクは、その、お参りと……、ポケモン修行に来ました」
「そうなんだ! オニオンは優しいね! じゃあ、わたしとポケモンバトルしようよ」
「えっ、もう、だいじょうぶ、なんですか?」
「うん! ギャロップに、わたしのかっこいいとこ見せてあげるんだ!」
先程まであんなに泣いていたとは思えないほど、彼女は明るくて元気な性格だった。ボクとはまるで正反対の彼女。腰のベルトに付けていたモンスターボールを構える。ボクも慌てて、リュックに入れていたダークボールを取り出した。
「よーしっ、それじゃあ行くよ! ポニータ!」
「が、がんばります、ミミッキュ!」
それが、ホズキさんとボクの初めてのポケモンバトルだった。
2025.05.06公開