審神者と仄々生活
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さて、初めての出陣は怪しい案内役のせいで敗北に終わってしまったが、今度はしっかりと準備を整えて、必ず勝利させてみせる。
まずは戦いの部隊を作るにおいて何よりも大事な、仲間を揃えるべきだろう。刀剣男士を、鍛刀で増やすのだ。
私は案内役の妖狐から貰った依頼札片手に、近侍の加州を連れて、お屋敷の離れにある鍛刀場へ向かった。
「加州清光、はいりまーす」
「失礼します」
「……あのちっこい人が、俺たち刀剣を作ってくれる刀匠ってやつ?」
加州が怪訝そうな顔で指差す先には、大槌片手に仁王立ちしている──青い着物姿の小人さんがいらっしゃる。小人さんは私達の姿に気がつくと、嬉しそうに表情を輝かせた。
「確かに見た目は小さいですが、大変腕の立つ刀匠さんだと聞いております。これから何度もお世話になると思います、よろしくお願いしますね」
小さな刀匠さんは元気に頷き、鍛刀は任せろと言わんばかりに、ポンポン胸を叩いていた。なんとも可愛らしい刀匠さんだ。
「では早速、鍛刀をお願いします」
刀剣を作るには勿論それなりの材料が必要になる。木炭、玉鋼、冷却材、研石……私はそれらを50ずつ纏めたものを箱にして、事前に政府から渡されている。その箱を依頼札と一緒に、刀匠さんに預けた。
また刀剣の完成にも当然時間が掛かるものだが、ここは手入れの時のように手伝い札を使って、審神者の霊力で一瞬で完成させてもらおうと思う。
「手入れの時も思ったけど、審神者の霊力って万能だよなー」
「まあ、ある程度の高い霊力が無くては、そもそも審神者になんてなれませんからね。」
「俺のあるじさまって結構すごいんだ?」
「ふふ、どうでしょうか……」
そうこう話している間に出来上がったものが、刀匠さんの小さな両手から私に捧げられた。
「これは、短刀ですね」
「新しいお仲間かあ。どんなやつが来るか、楽しみだねー」
「楽しみです、早速この場で降りてきてもらいましょう」
加州を呼び出した時と同じように、瞼を閉じて精神を集中させ、両手に掲げた刀剣へ祈りを捧げる。
この刀に宿ります付喪神よ、私の祈りが届きましたなら、どうかそのお姿をお見せくださいませ……この世の未来を守る為、どうか私にお力を……。
やがて両手に重みが無くなり、私は静かに目を開けた。ふわりと、目の前に舞うは桜の花吹雪。
「前田藤四郎と申します。末永くお仕えします」
先程の短刀を手に姿を現したのは、きっちりとした黒の制服を着こなす少年。白銀に煌めくマントを羽織って、真っ直ぐに切り揃えられた前髪がよく似合う、これまた美少年だった。
「……貴方が、僕を呼んでくれた主君ですね」
「ええ、初めまして、前田藤四郎」
初期刀の加州とも挨拶を済ませたところで、私は巫女装束の上から身につけているエプロンに手を入れ、中から愛用のスマートフォンを取り出した。
ふむふむ、刀剣情報がたくさん集まるサイト「サニーペディア」通称サニーに寄ると、前田藤四郎は粟田口吉光作の短刀。目立った武勲は無い、と。粟田口派の刀剣は現時点でも数多く発見されているらしく、彼はその藤四郎兄弟の一振りだそうだ。
「なるほど……やはりサニーペディアはどんな情報も集まっていて、非常に便利ですね」
「え? ええっ、なにそれ?」
「ああ、これはスマートフォンと言って……ええっと、この話は後にしましょう。加州ちゃんなら使いこなせそうですし」
スマホやらサニーやらに興味津々な加州ちゃんには申し訳ないが、今は後回し。新しい仲間の方が重要だ。
「前田藤四郎……前田ちゃんは、ご兄弟がたくさんいらっしゃるのですね」
「はい、藤四郎の眷属の末席に座するものです。大きな武勲はありませんが、末永くお仕えします」
前田ちゃんはとてもお行儀が良い子のようだ。キリッとした真面目な表情は実に頼もしい。
「武勲なんて、私にもありませんよ。実は審神者になったばかりの、まだまだひよっこの新米なんです」
「そう、なのですか?」
「刀剣も隣に居る加州ちゃんと、前田ちゃんの二人しか、今は居ません。私なんぞに末永く仕えてくれると言うなら、これから一緒に頑張ってくれますか」
前田くんは数秒目をまん丸にして停止した後、みるみる表情を笑顔に緩ませて、コクンッと強く頷いた。
「はい! 主君と共に全力を尽くします」
まるで花が咲いたかのように明るい笑顔、可愛らしくも頼りになる仲間がまた一振り増えました。
続きまして。次は刀剣男士を守ってくれる兵士、刀装作りに励もうと、私達は鍛刀場を後にした。
お屋敷に戻り向かった先は、荘厳な雰囲気漂わせる大部屋。部屋の中心には鏡を供えた祭壇があり、主に審神者である私がここで定期的に祈りを捧げる事で、刀剣男士達の実体化の維持を保つための部屋だが……普段は、刀装を作るために利用することが多くなるだろう。
ここでも政府からまとめて渡された資源箱を使わせてもらう。祭壇にこの資源を捧げて刀装を作るのだ。
「主君、刀装とは一体如何なるものなのでしょうか?」
前田ちゃんの疑問に、私も実物を見た事はないし作るのも今が初めてなので、聞いただけの情報を話した。
「刀装と言うのは、宝珠に兵士の力を宿したもの、だと聞いています」
「兵士の力……?」
「刀剣男士に装備させる事で、敵の攻撃から守ってくれたり、逆にこちらの攻撃を加勢もしてくれるそうですが……」
「とりあえず作ってみよーよ。刀装を作る時は、俺たちの力も必要なんでしょ?」
加州の言葉にそれもそうだと頷き、私は加州ちゃんに資源箱のひとつを手渡した。
「それで、具体的にどうやんの?」
「……わかりません」
「ええぇ~……?」
だって、刀装の作り方を調べても、刀剣男士の力を借りるとしか情報がない。サニーで刀装の検索をかけても、種類別のレシピか他の審神者の成功・失敗報告しか出ないのだ。
「私は祭壇の前で祈りを捧げてますので、加州ちゃんは資源に何かこう……念のようなものを、注いで……丸い宝珠になるよう、何とか……」
「テキトーだなあ」
「加州さん、僕も微力ながらお手伝いさせていただきます!」
「ん、ありがと。初めてだから上手くできる保証はないけど、やってみるねー」
そうして、私が祭壇で祈りを捧げていると…。
「おぉ?! でーきた出来た!」
背後から加州ちゃんの嬉しそうな声を聞いて、私はすぐさま振り返り彼らの元へ駆け寄った。
「見てよ主、すごい金ぴかな宝珠が出来ちゃったんだけど、これって大成功?」
ビー玉サイズの宝珠を私に向かって掲げ、その金色に負けないくらい目を輝かせている加州ちゃん。前田ちゃんも凄い凄いと感激している。
「素晴らしい成果ですよ、加州ちゃん! この調子で残りの資材でも刀装を作ってしまいましょう」
「はいはーい、俺に任せてよ!」
残りの資材箱は二つ、結果は一つが銀の宝珠、最後の一つは残念ながら失敗して粉々に砕け散ってしまったが……加州ちゃんと前田くんに一つずつ装備出来る分は作れたのだ、問題無い。
「ごめんね主、失敗しちゃった……」
「刀装作りはなかなか成功するのが難しいと聞きます。肩を落とす必要はありませんよ、寧ろ胸を張って良い結果でした。ありがとうございます」
がっくり項垂れる加州ちゃんの頭を、私は励ますつもりでぽんぽんと軽く撫でる。彼は一瞬びくりと驚いていたが、すぐにいつものふやけた笑みになった。
「では、こちらの金の宝珠を前田ちゃんに。銀の宝珠を、加州ちゃんに装備してもらいます」
出来上がった刀装に赤い紐を付けて、二人の刀に一つずつキュッとリボン結びで括り付ける。
「これは、良いものですね。さすがは加州さんです」
「まあね! どう? ちょっとは、可愛くなったかな」
刀装の飾られた自身の刀を見て、二人とも嬉しそうだ。
「あら……?」
ふと、二人の肩にそれぞれ、容姿の違う小人さんが腰掛けているのが見えた。サイズはハムスターくらいか。一瞬幻覚かと思ったが、どうも違うらしい。もしやこれが、刀装に宿るという兵士の力、その実体化……?
「どしたの、主。さっきから俺たちを交互に見て、何か居る?」
「あっ! 加州さんの肩に、小さな人が……!?」
「えぇ! あ、前田の肩にも居るよ。これが刀装に宿る兵士の力、ってやつ?」
「あはは、可愛らしいですね」
刀装には種類がある。加州ちゃんに渡したのは軽騎兵、前田ちゃんのは軽歩兵の刀装で、間違いないだろう。
刀種によっては守る力を発揮出来ない刀装もあるから、装備させる時には気を付けないと。中には持たせるだけで刀剣が銃や弓を扱えるようになる刀装もあるらしいから、まだまだ勉強あるのみですね。
「刀装はあなた達を守ってくれる兵士です、大事な仲間と同じように大切に扱ってあげてくださいね。もしも傷付いたり欠けてしまったり、万が一壊れてしまったとしても、その欠片でも良いから持ち帰ってください。すぐに直してあげますからね」
宝珠自体は壊れても大丈夫、その欠片さえ残っていれば、兵士の力を別の新しい宝珠に移し替えれば良い……らしい。
「この刀装も、大事な仲間の一つなのですね。ありがたく大切に拝領します」
前田くんの肩から掌へ移動した軽歩兵、彼の指先に頭を撫でられて嬉しそうだ。
「よーし、これで戦いの準備はバッチリ、かな」
加州の言葉に私は静かに頷いた。
「行きましょうか、維新の記憶へ」
***
「おっし、出陣だー!」
今度は仲間と装備を揃えて、加州を隊長に二人を過去へと送り出した。私は以前と同じく、鏡を通して戦いを見守る。
向かう先は維新の記憶、戦場は函館。ここで歴史を変えんとする歴史修正主義者の刀剣達が暴れている。
早速、敵の気配を察知した。
「偵察、苦手なんだよなあ……」
そうポツリと呟いた加州の耳元に、私が即席で手作りした紙製の式神が近付く。
『加州、敵陣形は雁行陣のようです。こちらは方陣で防御を』
式神が私の代わりに、鏡の向こうの二人へと言葉を伝えてくれる。こうして陣形指示を送り、偵察も式神等を使える審神者の仕事なのだ。
「はーい。……と言っても、まだ二人しか居ないから陣形も何も無いけど」
「気持ちの問題ですよ、加州さん」
「ん、そうね」
今度は仲間が隣に居るおかげか、以前に比べて余裕のありそうな加州。肉眼でも見える距離に敵が近付いて来た。二人とも刀を構える。
「じゃ、おっぱじめるぜえ!」
二人が敵へ果敢に向かっていく後ろ姿を、私は鏡越しに祈る事しか出来ないが、初陣の時のような不安は無かった。
加州ちゃんが弱らせた敵を、前田ちゃんが確実にトドメを刺している。敵の攻撃を受けるも、刀装が実体化して彼らをちゃんと守ってくれている。以前とは大違いの、安心して見守ることの出来た、A評価勝利だった。
「……ま、当然かな」
先程の戦いでの誉はやはり加州ちゃんでしょうか。気持ち的には二人共にお礼のご褒美をあげたいところだ。
あ、そうだ。良いことを思い付きましたよ。
『敵はまだ潜んでいる筈です。その中のボスを見つけて討ち取れば、歴史修正主義者らはその時代と場所から撤退する筈……』
「りょーかい。今回は前田も居るからね、怪我もなく無事に帰るから安心してよ、あるじ」
「全力を尽くします!」
『ええ、二人の無事の帰還を待っています。ご褒美を用意しましょう、梅と鮭ならどちらが良いですか?』
「んん? 梅と鮭……?」
「主君! 僕は鮭を希望します!」
「えっ、え? じゃ、じゃあ俺は梅にしようかな」
『はい。あと一戦、くれぐれも気をつけてくださいね』
その後、敵のボスを見つけることは叶わなかったが、二戦目も怪我なく勝利して二人は言葉通り無事に帰還してくれた。
加州ちゃんの背後にふわふわと桜が舞っているように見えるのは、どうやら誉を多く取った成果らしい。刀剣男士とは不思議なもので、気分の良い時は桜の花びらを吹雪かせるのだ。
「ふぃー、戻り戻りー」
「無事戻りました!」
玄関先へ向かい、おかえりなさいと二人を出迎える。両手にたくさんのおにぎりを乗せた大皿を抱えて。
「おわっ! すんごい山盛りのおにぎり!?」
「わああ、これを全ておひとりで握られたのですか、主君!?」
「ふふ、言ったでしょう、ご褒美を用意するって」
加州ちゃんは大きな声で腹を抱えて笑い出し、前田ちゃんは目を輝かせて駆け寄ってくる。
「刀剣におにぎり用意する主かあ、本当、面白い主に呼び出されたなあ、俺……ふふっ」
「さ、せっかくの良いお天気ですから、縁側でお昼にしましょう。手を洗ってきてくださいね」
「はい!」
「はいはーい」
「もう、返事は一回で良いのですよ、加州ちゃん」
「ふふ、はあーい」
未だに加州ちゃんの笑いのツボがよくわからないのだが、喜んでもらえているから良いことなのでしょう。
神様とはいえ、人の体を模しているのだから、食事は大切です。
たくさんご飯を食べれば、また元気いっぱいに頑張れる。そのご飯が美味しいと、幸せな気分になれる。
食べるという行為自体が未経験の彼らには、きっと楽しい経験になるのではなかろうか。
「ああ、とても美味しいです、主君。人の食事とは、こんなにも幸せな気持ちになれるものなのですね!」
「そんなに感動してもらえるなんて、私も幸せな気持ちになりますね」
「俺は……感動より、この味で、涙が出そうなんだけど……お米は美味しい、お米は……」
「あら、加州ちゃんが選んだのは、確か…」
「なにこの梅ってやつ! 酸っぱい! 酸っぱあい~ッ!!」
「あははっ、顔が中心に寄り過ぎて面白いことになってますよ加州ちゃん~」
「前田、鮭と交換してぇ~!」
「お、お断りします!」
まさかこれがキッカケで、二人の好物がおにぎりになるとは、予想してませんでしたけど、ね。うふふ。
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審神者豆知識・其の一
サニーぺディア、通称サニー。
現代で言うウィキ◯ディアのようなもの。大勢の審神者有志によって集まった情報等がまとめられている。
刀剣男士の簡単なプロフィールは勿論の事、出陣先の攻略情報や効率の良い遠征指南、鍛刀や刀装レシピ集等々……審神者同士の交流が出来る掲示板まで用意されており、審神者活動で知りたい情報は大体サニーを見ればわかる。
また、基本的に審神者活動の全ては機密であり、中には刀剣男士達に知られたくない情報もあるため、サニーには審神者しかアクセス出来ないようになっているらしい。
2025.02.05公開
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