審神者と仄々生活
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どこかの時代、どこかの場所に、濃い霧に包まれた"秘宝の里"と呼ばれる不思議な里があるらしい。
そこでは、ある"玉"を集める事で、それと交換に様々な報酬を得られるという。中には、付喪神の顕現が望める新たな刀剣も、その報酬に含まれているとか。
しかし、里で玉を集める事は容易ではなく、里の住民たちは里に訪れる者を、秘宝を手にするに値する者であるか、こちらの実力を試すべく戦いを挑んでくるそうだ。
時の政府から、そして主から、秘宝の里の調査と新刀剣男士の確保を正式な任務として言い渡されたのは、つい数日前の事であった。里の噂は更に一カ月ほど前から耳にしていたが──。
「よ、よんまん……?」
さて、新刀剣男士はどのくらい玉を集めたら交換してもらえるのだろう、と確認して思わず絶句した。その驚きの数字を口にした主の声も震えている。
40000個。そう、40000個である。
一度の出陣で得られる玉の数は、特に攻略が難しいとされる超難の戦場でも最高400個集められたら、かなり運の良い方だ。しかし、大体の出陣では里の様々な罠に行く手を阻まれ、そう簡単には上手くいかない。運が悪いと100も集められない事もある。……それを、40000個集まるまで、一体どれだけの出陣回数と時間を費やせば良いのだろう。
くらりと眩暈がする程に気が遠くなった。里に出陣出来る回数も1日に数回と制限があり、制限以上に出陣したい場合は千枚の小判と引き換えに通行手形を得る必要がある。これはかなりの小判消費も考えなくてはならない。
「あるじ、尋常じゃないぐらい震えてるけど、だいじょうぶ……じゃなさそうだね」
近侍として今日も主の隣に座る俺は、報酬一覧の書類を握り締めて震える主を、ぽんぽんと背中を撫でて宥めた。ちなみに、同じく近侍の大和守安定は和泉守兼定と内番の手合わせ中で、席を外している。主は深ぁ~く溜息をついた。
「……困りましたね、絶対に無理な数字では無いのですけれど」
「小判ならもう倉庫に入りきらないくらい溜まってるんだから、頑張ればなんとかなるんじゃない?」
「うーん……でも、出来れば来月まであまり小判を消費したくは無いのですよね」
はて? 来月なにかあったっけ? と俺は首を傾げて、すぐにハッと気が付いた。あー、そっか、なるほど。
師走と呼ばれる12月。年末のその時期は何かと小判が必要になってくる、本丸の男士たちの数も考えたら多くて困るくらいしっかり貯蓄しておきたいのだと、心底困った様子で俯く主。
俺に、もっと主の為に出来る事はないだろうか。
残念ながら、秘宝の里へ挑む第一部隊編成は太刀・大太刀・薙刀中心の超重量編成で、打刀の俺の出番は無い。こうして、近侍を務めて主の精神的な支えになる事も大切な役目だとわかっているし、この位置には十分満足してるんだけど。
練度限界に到達して以降、出陣でも演練でもほとんど出番が無くなってしまったから、刀剣の本能として少し物足りなさを感じているのかもしれない。
──そうだ、イイコト思い付いた。
「じゃあさ、もっと小判を集める為に遠征の数を増やすってのはどう、主?」
小判がもっとたくさんあれば、里の出陣制限に悩む必要もないし、主も安心して来月を迎えられるだろう。
でも、遠征に出られる男士の数や練度は限られているし、これ以上は厳しい……とまだ困り顔の主に、俺は自分の胸元をトントン叩いて「だーいじょうぶ!」と笑って見せた。
「俺が隊長として行ってくるから」
「……えっ」
「俺なら練度も十分だし、少ない人数でも結構遠くまで小判稼ぎに行けるでしょ、俺が居ない間は安定が……」
「い、やだ」
「え」
「嫌です」
主は俯いて俺を見ないままに、俺の左手をぎゅうううと両手で強く握り締めて、絶対嫌です! と今度は声を張り上げて言った。
その、反応は……まさか過ぎるというか、ちょっと、予想外……です。
「あなたは私の近侍でしょう、私のそばから離れるなんて許しません」
いつもより早口の声は怒っているような、泣いてるような。雛子さん、と慌てて声を掛けたら、胸元にドスッと容赦の無い頭突きをかまされた。ごふっ! 地味に痛い!
俺の戸惑いも他所に、彼女はそのまま俺にしがみついて、言葉を続ける。
「清光ちゃんが隣に居てくれないと、私は……例え、1日や2日でも、あなたと遠く離れてしまうのは嫌です……」
小さく消え入りそうな声だった。
ああ、どうしよう、胸の奥がきゅうっと締め付けられる感覚に、苦しくて愛おしくてどうにかなりそう。
俺はもうこの湧き上がる感情をどうにも出来なくて、しがみつく彼女を強く抱きしめ返した。刀剣の本能より人間の感情の方が勝ってしまった瞬間である。
「うぐぅ、もおお! 雛子さんってなんでそんなに可愛いの……なんか悔しい、やだもう、世界一かわいい……」
「な、何言ってるんですか!?」
「えへへ……ごめんね、あるじ……俺もやっぱり遠征なんて寂しくて無理、他の方法考えよっか」
「……はいっ」
ようやく顔を上げてくれたその表情は、顔布越しでもわかるくらいぱあっと笑顔を見せてくれて、やっぱり俺のあるじは世界一かわいいなあとにやけてしまうのだった。
もう、この人は本当に、俺がそばに居てあげなきゃ駄目なんだから。
……まあ、それは俺も同じで、お互い様、なんだけどね。
***
「そういうことなら俺に任せんしゃい!」
博多藤四郎が、独特の方言交じりにそう言った。小判集めに悩む俺と主の元へ、お茶汲みついでに救世主として現れた彼には、何か良い考えがあるという。
数ある刀剣男士たちの中でも、小判収集に特化しているという、少し特殊な能力を持っている博多だ。これは信頼出来そう。
彼は以前俺達が調査に向かい、そして彼自身が眠っていた場所である、大阪城への遠征を提案したのだ。
「大阪城、ですか?」
「彼処にはまだまだいーっぱい小判が眠っちるばい! 俺と俺の兄弟たちで集めてくるちゃ」
なんて頼もしいんだ、博多藤四郎! 勇ましくドンッと胸を叩いて再び「あるじしゃん為にジャンジャンバリバリ稼いでくるばーい!」と声を張る彼に、俺と主はすぐさまその案に乗った。
そして早速この話をした翌日、第三部隊に博多藤四郎を中心とした粟田口短刀の六振りを編成して、主お手製幕の内弁当と共に大阪城遠征へと送り出したのだった。
粟田口派の長兄である一期一振が彼らの心配をして終始そわそわしていたが、池田屋の夜戦で練度限界近く鍛え上げられた短刀たちの実力は、一時期隊長として夜戦部隊をまとめていた俺がよく知っている。大丈夫だって、心配無いよ。そんな俺の言葉通り、第三部隊は全くの無傷で……寧ろ、遠足気分で楽しそうに桜吹雪を散らしながら……大量の小判箱を抱えて帰還した。
しかし、彼らが本丸へと持ち帰ったのは、小判だけではなかった。
「後藤藤四郎だ。今にでっかくなってやるぜ!」
まさかの新刀剣男士、粟田口派短刀の後藤藤四郎を発見していたのだった。
主の手により無事顕現が成されたその短刀は、明るい橙に僅かな紫の混じる派手な髪型をした少年の姿で現れた。見た目年齢としては薬研や厚、乱と同じくらい。ニッと歯を見せて笑う、勝気な表情が印象的な男士だ。
「あんたが大将か! うちは兄弟がいっぱい居るけど、その中でも背が高めなのが俺だぜ。チビどもの事で困ったら何でも言ってくれよな」
「あらあら、これはまた、頼れるお兄ちゃんが増えましたねえ。よろしくお願いします」
主の優しい手にぽふぽふと頭を撫でられた後藤お兄ちゃんは、チビ扱いすんなよー! と大声で怒っていたけど、その正直満更でもなさそうな真っ赤な表情に、俺は博多と顔を見合わせて笑うのだった。
どうやら、彼の刀剣男士が大阪城で発見されたのはこれが初の事らしく、時の政府に調査報告を送ったところ大変驚かれたのと同時に、特別報酬としてまた大量の小判を頂いたらしい。男士たち用の空き部屋がまたひとつ小判に埋め尽くされてしまった、と主が困っていた。
これで例の玉集め期間が終わった後、他の各審神者たちにも新たに大阪城調査の任務が追加され、新刀剣の入手と共に更なる戦力増強が期待されるだろう。うちのあるじってほんと、変なところで運の良さを発揮するというか、なんていうか。
そんなこんなで、後藤を迎えた数日後。
集めに集めた小判を一気に消費して、俺たちはついに……ついに、件の40000個の玉集めを完了させたのである。
そして、その大量の玉と引き換えに、秘宝の里で手に入れた新たな刀剣男士。
「物吉貞宗と言います! 今度は、あなたに幸せを運べばいいんですか?」
白が印象的なその脇差男士は、ぱあっと輝くような笑顔でそう言った。
主の話によると、彼は徳川家康の愛刀だったそうで、彼の脇差を帯びて出陣すると必ず勝利を得たことから「物吉」と名づけられたらしい。確かに、彼が笑うとこちらまで一緒につられて微笑んでしまうような、そんな眩しさがある。
これでやっと、散々毒矢の雨や爆弾の被害に苦しめられた第一部隊の苦労も報われるね。ほっと安堵に胸を撫で下ろした俺と、その隣で嬉しそうな主を、物吉は交互に見比べてからまた明るい笑顔を見せた。
「……ふふ。どうやら、今の主様はもう既に十分、幸せでいっぱいのようですね!」
彼の言葉に主は一瞬驚いたように肩を揺らしたが、すぐにいつもの弾むような声で笑った。
「ああ……うん、その通りですね、物吉くんや後藤くんたちが来てくれたことも勿論幸せですし、私にはたくさんの家族が居ますから。それに……」
主の顔布がちらりと俺を見上げる。
「……え? な、なに?」
「ふふっ、いえ、なんでもありませんよ」
なんとも意味深な言葉と行動が気になるけれど、まずは彼にこの場所や今後の生活について色々と説明してあげなくちゃいけない。
そういう訳で、過去に徳川家で縁があったらしい後藤とその兄弟らに、本丸の案内へと賑やかに連れて行かれた物吉を見送った。
あっという間に静かになった本丸で、今度は俺がちらりと主の方へ目線を下ろせば、ばっちり目が合ってしまった。途端、また嬉しそうに音符付きの声で笑う主。
え? 顔布してるから表情や目線の動きなんてわからないんじゃないか、って? ……俺にはわかるんですー!
物吉のさっきの言葉と、主の笑顔から推測するに、俺は、ちゃんと主のことを幸せに出来ているのかな。近侍とか家族とかじゃなくて、このひとの、恋人として。周りからも認めてもらえるくらいに。だとしたら、この上なく嬉しい。
でも、俺はもっともっと主を幸せにしたいから、今度こそとってもイイコトを思いついた。
「ねえ、あるじ、これでやっと色々落ち着いたし……しばらくは、余裕を持ってゆっくり過ごしていられるよね?」
「そうですねえ、少しゆっくりお休みしたいです。第一部隊の皆さんは特にお疲れでしょうから、秋休み期間を設けてあげたいなあ」
「じゃ、じゃあさ! その間に、今度、俺と主だけでお出掛けとか、どう?」
「……えっ」
今まで散々そういう約束をしてきたものの、いつもタイミング悪く緊急任務が入ったり審神者会議に呼ばれたりと、なかなか主と二人だけのお出掛けをする時間が取れなかったから。実は未だに、現世で言う恋人同士の"デート"というものをした事がないのだ。
きっと来月には忙しくて、なかなか主と二人きりで過ごせないだろうから、今の内に。駄目、かな? 少し甘えるように首を傾げて見せれば、主は慌てたようにぶんぶんと首を横に振る。
「では、今週の土曜日にでも……私も1日、お休みをいただきましょうか」
「ほんと!? やったあ、俺すっごく楽しみにしてるから! 急に約束破ったりしないでよ、あるじさま?」
「はい、もちろんです。私も、清光ちゃんとの、初めてのデート……お出掛け、楽しみです」
そう耳まで赤く染め上げながら答える彼女が、もう本当に本当に可愛らしくて。俺はつい、いつもの通り愛おしい感情を抑え切れず、あるじをぎゅうっと抱きしめてしまうのだった。
***
その日は、徐々に近付く冬の冷たい風を感じながらも、ぽかぽかと暖かい陽射しの降り注ぐ、絶好のお出掛け日和だった。
今日の本丸は内番以外の全ての任務をお休みにした、師走の貴重な休日。主と、二人っきりで出掛ける約束の朝だ。
同室の和泉守や長曽祢さんにからかわれながらも、普段あまり着ない和装に身を包み、そわそわ落ち着かない気持ちで玄関先へ向かう。勿論、そこで俺を待ってくれていたのは主、なんだけど。
「あ……おはよう、ございます」
顔布越しに照れ臭そうな微笑みをこちらへ向ける彼女は、いつもの巫女装束姿ではない、可愛らしい印象の赤い袴姿であった。腰の帯に飾られた椿の花が洒落ている。
彼女が審神者になった日からずっと隣で見守り続けていた俺でさえ、初めて見るその姿に、思わず「可愛い」と、朝の挨拶を返す前にそんな言葉が小さく溢れてしまった。
「おはよ。どーしたの、その着物、もしかして自分で選んで買ったの?」
「は、はい……その、せっかく清光ちゃんとお出掛けするなら、少しくらいお洒落がしたいなあ、と思って……」
乱ちゃんや次郎ちゃんにも、有難い事にお付き合いして頂いて、色々助言をして貰ったのですよ。
そわそわモジモジしながら恥ずかしそうに、でも嬉しそうに答えるその姿は、きっと以前の彼女からは想像すら出来なかっただろう。自分に対して卑屈で着飾る事も苦手だったこの人は、俺たちに出会って随分変わったみたい。とても良い方向へ。
「すごく、似合ってます」
あまりの可愛さに抱き締めたくなる気持ちを何とか抑えつけて、代わりに、ぎゅっ、と主の両手を自分の両手で包み込むように握り締めた。俺の突然の敬語に、どうしたんですか急に、と音符が弾むような笑い声をあげる主。
ああ、爪も紅が塗ってある。俺と同じ色。自分に塗るのは慣れてないから、所々はみ出て不恰好になっているけど、またそれが愛おしく思えるんだ。帰って来たら、俺が塗り直してあげるね。
しかし、いつまでも玄関先で戯れていては時間が勿体無い。せっかく主を1日独り占め出来る、貴重な時間なのだから。
俺はそのまま彼女の小さな手を繋いで、木枯らしに赤く色づき始めた秋の町へと、繰り出した。
審神者会議の日や普段の買い物なんかでも頻繁に訪れる町だけど、主と二人っきりでお出掛けなんだと、そう思うだけで景色が全然いつもと違って特別に見えるから、不思議だよね。
この間の玉集めは本当に大変だったとか、そろそろ冬支度を整えなきゃとか、そんな他愛の無い会話をしながら町を歩く。時折足を止めて、お気に入りの着物屋さんや行きつけの甘味処に立ち寄ったりして。
あるじと、雛子さんと二人だけで共有する時間が、一分一秒も逃せなくて、ずっと幸せな気分で、俺は終始だらしなくにやけた顔をしていた様に思う。
「あ、ちょっと待って、主」
ふと、気になる露店を見つけて足を止める。江戸時代の頃を模したこの町には少し浮いているような、洋風の小洒落た雰囲気が目立っていて、つい、そこに並べられた鮮やかに輝く装飾品たちが気になってしまった。
その中でも、特に目を引いたものがひとつだけ。俺自身が付けている物にもよく似た、赤い宝石の装飾が綺麗な耳飾り。手に取って見ると意外に小さくて、その儚げで控えめな大きさが、より可愛らしく見えた。
そんな俺の横に並んで「ふふ、清光ちゃんはこういうアクセサリー似合いますものね」そう微笑みながら、じぃっと興味津々に他の商品を眺め始める主。いや、俺が付けるんじゃなくて……。
「あるじも、似合うと思うんだけど」
えっ、とあからさまに驚いた声と共に、主の顔布がこちらを向いた。にやり、と笑い返してやる。
派手な格好の店員のお姉さんに、すみません、これ買います、と手に持っていた耳飾りを差し出して、贈り物用にお包みしますかと聞かれたので、喜んでお願いした。
「あ、あの、清光ちゃん? そんな、私には、もったいな……むぎゅっ」
また何やら卑屈な事を言おうとした主の、その両頬を片手でぶにっと掴んで言葉を遮った。
「俺があなたに似合うと思って贈るんだから、そういう事言わない。それとも何、俺の選んだ物じゃあ、ご不満?」
乱藤四郎や次郎太刀は良くて俺は駄目なの? ちょっと意地悪くそう言えば、主は両頬を掴まれたままブンブンと必死に首を横に振る。その姿があまりにも可愛かったので、まあこのぐらいで許してあげようと、手を離した。
「ほら、もうすぐクリスマスってやつが近いんでしょ? その日は大事な家族や恋人に贈り物をする日だって聞いたから、まだ早いけど、俺から主にクリスマスプレゼント……って事で」
物が人に物を贈る、なんて、笑い話にもならないだろうけど。今の俺は、ぱっと見は何ら主と変わらない同じ人間の姿をした恋人、なのだから、そういう恋人らしい事をしてあげたい。俺にたくさん色んなものを与えて愛してくれたひとだから、少しでもお返しがしたいんだ。
そうこう話している内に、先程の耳飾りの包みが終わったようで。小判と交換に受け取ったそれを、早速、主へ差し出した。どこか恐る恐る、と言った様子で受け取ってくれた主だが、すぐに顔布越しでもわかるくらい赤色に染まった顔を満面の笑みに変えて。
「ありがとう、ございます。……毎日着けます、ずっと、ずっと大事にします!」
ああ、その言葉、主が初めて出会った俺に対しても言ってくれた言葉だ。
早く身に着けたいと、まるで幼子のようにはしゃぐ主に、まだデートの続きがあるんだから帰ってからねと宥めて、店員さんにお礼を言ってからまた秋の町中を歩き出す。主はしばらく俺からの贈り物をずっと両手に持って、嬉しい、幸せだって喜んでくれていた。
「うふふ、自分から物を贈ることはあっても貰うことなんて、今まであまり無かったから……とても嬉しい。きっと清光ちゃんからの贈り物だから、余計に嬉しいのね」
「もう、あるじってば、はしゃぎ過ぎー」
「あ、でも、ピアスなら耳に穴を空けないといけませんよね……」
「大丈夫だよ、それ穴が無くても着けられるやつだから。俺のと同じ」
「そうですか! ふふ、まるでお揃いみたいですね、ああ本当に嬉しいです」
私も清光ちゃんに何かお返しをしなきゃ、と心から溢れる目一杯の嬉しさを動作や声で訴える姿は、何とも言い難く愛おしい。それに内心、安心もした。
「私、今すっごく幸せです。こんなに毎日ずっと幸せ気分でぽかぽかしていては、いつか溶けてしまうかもしれませんね、ふふっ」
「何言ってんの、刀剣ならまだしも主は人間でしょ」
「でも、顔は既にふにゃふにゃ溶けてますよ、にやけが治りません、えへへ」
「うん、それは顔布越しでもわかる」
俺はちゃんと、雛子さんのことを幸せに出来ているんだなあ、って。
最初は俺だけがあなたのことを大好きなんだとばかり、俺だけ幸せで浮かれているのだと思っていたけど、俺と同じぐらいあなたも幸せを感じてくれてたんだ。
それをわかって今、すごく安心してる。
俺の目標は、あなたを世界で一番幸せにしてあげることだから。
「清光ちゃんはクリスマスプレゼント、何か欲しいものありますか? お返しをしたいのです、何でも言ってください!」
「えー、何でも良いの? そうだなあ…」
あなたがずっと俺の主で恋人で居てくれるのなら、それで十分、何にも要らないよ……なんて、ね。
爪紅じゃなくてマニキュアってやつを使ってみたいな、と何気無く言ってみたら、主がやたら張り切って「清光ちゃんに似合う色を私が選んであげますね」とその後のデートは俺への贈り物を探す1日となってしまった。
でも、楽しそうに色んなお店を見て回る年相応の女性らしい主の姿は見ていて微笑ましかったし、俺のことを思ってあれでもないこれでもないと必死に贈り物を選んでくれるその気持ちが、何より嬉しかった。結局、今日は主の納得がいくものは見つからなかったけど。
「仕方ありませんね……。また今度、別の町へ一緒にプレゼント探しに行きましょう!」
そう言って俺の両手をぎゅうっと握り締める主。また今度、俺と二人きりの時間を作ってデートしてくれるんだ? そっか、ふふ。「絶対だよ」と念押しすれば「勿論です」と即答で約束してくれた。
いつになるかはわからないけど、きっと近い内に。皆の主じゃなくて、俺だけの恋人で居てくれる1日を、また、楽しみにしているからね。
「あるじの言う通り、その内、俺も幸せで溶けるかも……」
「え、えぇ!?」
「……なんて、冗談だけど」
そのぐらい、今が幸せだってことだよ。
2025.04.20公開