審神者と仄々生活
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時の政府から新たな任務が下された。
その名も、戦力拡充計画。
遡行軍や検非違使らとの戦いは現在膠着状態に陥っているものの、いつまた新たな敵の攻勢がはじまるとも限らない。時の政府は訓練場と敵に模した偽人形を用意して、審神者とその刀剣男士を訓練する計画に至った。
コンコンと、政府の使いである黄色の管狐が声高らかに喋り出す。
「訓練を達成した審神者様には当然、資材や小判など様々な報酬が用意されております。また、捜索演習では新たな刀剣男士を発見出来る可能性もございます故、ぜひ頑張っていきましょう!」
……この管狐、いつもの淡々とした口調や無表情を何処へやら、やる気に満ちた目をキラキラ輝かせてやたらと張り切っている。
「こんのすけ、おまえ珍しく積極的ですね……。本当にただの訓練なのですか、何か裏があるのでは無いでしょうね……?」
「め、滅相もございません! この管狐はただ、審神者様のお力になりたい一心で、」
そこまで言い掛けた妖狐の尻尾の隙間から、四角に折られた白い紙がぽろりと落ちた。「なんか落ちたね」平然と言いながらそれを拾い上げ、紙の中身を開き始めた我が近侍の加州清光。同じく近侍の大和守安定も「なんか書いてある」とその内容を覗き見る。彼らの行動にハッと気付いた途端「ああッおやめください! おやめくださいー!」と喧しく慌て出した管狐。
やはり何か良くないことを企んでいたのか、と思わず私の眉間に皺が寄る。しかし、紙に書かれていたものを読んだ近侍たちは、同時にぷぷっと吹き出したかと思うと、盛大に笑い始めたのだ。妖狐は相変わらず慌てており、そのお面のような顔を赤く染めているように、見えた……気がした。
「なるほどねー、こんのすけがやる気満々な理由がわかったよ、あるじ」
清光ちゃんが面白そうにニンマリ笑って、紙の内容を私にも見せてくれた。
「今回の訓練を達成すると、その審神者に仕える管狐にも油揚げのご褒美が用意されてるんだって」
……あぶらあげ。
「馬たちにも人参くれるらしいよ、俺たち刀剣男士にもなんか用意してほしいよなー」
「まあ、僕たちは良い練度上げになって強くなれるから良いんじゃない?」
「あー、そっか。俺たちは主さまからのご褒美でも期待しとこーかな」
狐のだーいすき大好物な油揚げ貰えちゃうなら、そりゃあやる気も上がるよねえ……。清光ちゃんは安定ちゃんとまだニヤニヤ笑いながら、管狐にその紙を四つ折りにして差し出す。こんのすけは気のせいと言えない程に顔を真っ赤に染めて、彼の手から紙を奪い取り、また尻尾の中へとしまい込んだ。
恐る恐る、と言った様子でこちらを見上げるその憎たらしい筈の管狐が、ほんの少し……本当に本当に少しだけ、……可愛らしく見えてしまった。
「おまえ、油揚げ好きなんですか」
「はい……」
「……そういえば、以前の大阪城地下攻略の際、おまえにも手伝ってもらったのに褒美をあげていませんでしたね」
「え、審神者様……?」
「油揚げを貰ったら一度私に預けなさい。……美味しく調理してあげましょう」
「! あ、ありがとうございます審神者様ッ」
ぱあっと輝くような笑顔を見せたこんのすけに、元々小動物の愛くるしさには弱い私の頬が緩む。ぐぬぬ、こんな管狐にキュンとするなんて、不覚……。
気を取り直し、刀剣男士たちへの訓練説明を続ける。しばらくは練度五十以下の男士中心の育成期間とすることを告げ、訓練用の部隊編成を整えるよう指示を出した。……が、それを聞いて、えーっ! と声をあげた男士が一人。
「もしかして俺たち、また留守番ー?」
清光ちゃんだ。前回の大阪城攻略の際も、本丸でずっと待機状態だったから、どうも不満らしい。しかし、彼とその隣に並ぶ安定ちゃんも、連日続けている池田屋での新刀剣捜索中に、先日練度九十を超えたばかりである。
「そうですね、ほとんどお留守番……になってしまいますね。ただ今回も打刀や脇差、短刀に通過を限られたルートがあるそうなので、多少活躍してもらう機会もありますよ」
「うー……俺も訓練して、もっと練度上げたかったんだけどなー……」
そうがっくり肩を落とす清光ちゃんだったけれど、すぐに気持ちを切り替えて「あ、でも、お留守番中は主のそばにずっといられるから、まあいっか!」なんて笑う。可愛いなあと和みつつ、不思議だった。
……この頃の清光ちゃんは何故か妙に、手合わせなどの訓練や練度上げに熱心だ。自身の過去に直接関わる池田屋でも臆する事なくその身を振るい、高速槍相手にもめげず笑顔で誉をとって帰ってくる。練度九十になった時も「九十九まであともう少しだよ、あるじー!」なんて喜んでいたっけ。
早く練度限界を迎えたいのだろうか。もっと強くなりたい……役に立ちたい……という刀剣男士らしい純粋な思いからか、はたまた、何か別の理由があるのだろうか。私には分かりかねるけど、向上心豊かなのはきっと良いことに違いない。
「そう焦らなくても、のんびり行きましょう? 今回の育成期間を終えたら、また清光ちゃんたち夜戦部隊には頑張ってもらいたいですからね」
「はーい。……そーだね、焦っても良いことないもんなー、期間中はちょっとゆっくりするよ」
「ええ、焦らずのんびりが一番ですよ」
(……でも、どうしても、早く早くって……思っちゃうんだよなあ)
「清光ちゃん?」
「ん、なんでもないよー!」
やはり、彼が練度限界を目指すのは特別な理由がある様子。……彼の練度が九十九になった時には、その理由もわかるだろうか。
***
遡行軍を模した偽人形相手の訓練は、実戦経験に長けた私の刀剣達には少し物足りなかったようで、あっという間に政府から与えられた演習任務を攻略してしまった。
それにしても訓練用の偽人形らの部隊名、経験値の素部隊……だなんてネーミングセンスは如何なものか。時の政府のお役人さん達が頭を捻って考えたのかと思うと、なんだか面白い。
結果として、こちらの進行を邪魔する新たな障害物竹藪の突破方法も理解したし、ほとんどの刀剣を練度五十以上に育て上げることも出来た。何振りかは練度限界に到達した子も居て、訓練の成果は上々と言って良いだろう。
だが更に、今回の成果はそれだけに留まらなかった。
「日の本一の槍こと、日本号。只今、推参。……あんた、俺が来るまで何杯飲んだんだ?」
黒髪を豪快にオールバックで結った中年程に見える男性は、片手に穂鞘で覆われた大きな槍を、もう片手に酒瓶を抱え、その槍に似合う大柄な体格で私を見下ろす。そして、にんまりと愉しげに笑った。男らしさ漂う藍鉄色のツナギ姿に頭のゴーグルが相まって、なんとなく飛行機のパイロットが着る飛行服姿のように見える。
彼は今回の訓練計画中、新刀剣の捜索演習で発見した天下三名槍の一振り、日本号。サニーペディアによると、槍でありながら正三位の位持ち……なのだが、彼の前の主・黒田長政の家臣がとある呑み賭でこの槍を見事勝ち取った、という伝承から、別名「呑み取りの槍」とも呼ばれているらしい。
「ふふ、待っていましたよ、日本号。あなたが来るまで、そうですね……どのくらい飲んだでしょうか、もうわかりませんねえ……」
「ほお……あんた、見た目に似合わず意外といける口か。女の主だからなんて侮っちゃいけねえな、こりゃあ」
ギザギザに尖った歯をニィッと見せる日本号はなんだか嬉しそうだ。私も同じ酒飲み故に親近感が芽生えたのだろうか、彼とは美味しいお酒が飲めそうな気がする。
しかし、日本号はふと驚いたように目を見開いて、その笑顔を一変させる。私の背後に並ぶ二振りの刀剣男士に、彼はやっと気が付いたみたいだ。
「気付くのが遅いな、日本号」
「あー……これで三名槍揃っちゃって、俺ますます肩身狭いなー……」
「もしや、村正の蜻蛉切に、東の御手杵なのか……!? ははっ、まさかお前たちまで居るとは、驚いたな」
そう、これでようやく、今まで蜻蛉切と御手杵の二振りだけだった槍男士に日本号が加わり、天下三名槍が揃ったのだ。
「……で、俺たち三名槍を揃えて、審神者様とやらはどうするおつもりだ?」
古い友人たちから私へと視線を戻し、日本号はまるでこちらの答えを試すよう、口の両端を吊り上げた。
成る程、彼は三名槍であり正三位の位持ちである自身を、誇りに思っているらしい。そんな自分を、この主はどう扱ってくれるのか、見定めようとしている……そう察した。
「それはもちろん、決まっていますよ」
私の言葉に、ほう、と目を細める日本号。私はずっと後ろ手に隠し持っていたものを、サッと前に出して彼へ見せ付けた。
「まずは歓迎会しましょう! この日の為にお気に入りの焼酎をずっと前から用意していたんです、ふふっ」
私が見せたのは焼酎瓶。まだ蓋の開けてない新品であり、私の大好きな黒糖焼酎だ。
日本号は見せ付けられたそれに数秒固まっていたが、すぐ堪え切れぬように笑い出した。
「はははッ、歓迎会かあ! 面白い主様だ! 良いぜ、気に入った。あんたの為なら飲み比べだろうと歴史の守り手だろうと、何でもやってやろう。よろしく頼む」
「まあ、ありがとうございます! こちらこそ、よろしくお願いしますね、にほちゃん!」
「に……にほちゃん?」
なんだそりゃあ、と怪訝そうな顔をするにほちゃんに、私の後ろでケラケラと笑い出したのは御手杵ちゃん。
「うちの主は刀剣に渾名付けるのが好きなんだよ、良い渾名じゃないか、にほちゃん」
「はー、なるほどねえ……本当、面白そうな主様だ。ちなみに、お前らはなんて呼ばれてんだ?」
「俺? 俺はぎねちゃんだよ、結構可愛いだろ。んで、蜻蛉切がー」
「……とんぼちゃんだ」
どうも蜻蛉切の渾名がツボに入ったらしく、その後しばらく日本号の笑い声が止まらなかった。
その日の夕飯は日本号の歓迎会と三名槍が揃った祝いも兼ねて、豪華な料理ばかりが並び、大広間は大宴会会場と化した。
うちのお料理担当である長谷部と光忠が特に頑張ってくれたようで、どれもこれもお酒によく合って美味しい。長谷部ちゃんも、みっちゃんも、お料理の腕を上げましたね。そう二人を褒めたら、大広間の一角に桜の花びらの山が出来てしまった。
お酒好きの刀剣たちがまた何振りか集まって、その日の宴会は夜遅くまで続いたのでした。
それはもう、朝まで賑やかに。
***
日本号を迎えて数日後。
戦力拡充計画、最終日の夜である。
審神者によっては明日の終了時間ギリギリまで訓練を続けているのだろうが、うちの本丸はもう既に十分な練度上げと成果を得たから、早めにゆっくり休む事にしたのだ。
結局、三条大橋だけでなく此度の捜索演習でも見つかるらしい……と聞いていた来派の太刀は、見つからなかったが……まあ、気長に行く事にしよう。
私は縁側で一人、いや、正確には一人ではないのだけど、ぼうっと夏の夜空に浮かぶ月を見ながら、黒糖焼酎をストレートでちびちび味わっていた。
「こんな時間に一人で月見酒か。ちっと不用心じゃねえか、主様よ」
不意に、後ろから響いてきた低い声。私が驚いて振り返ると、寝衣姿に髪を下ろした日本号が、酒瓶片手に立っていた。
暗闇で鈍く光る目は戦場で赤く熱に色を変えるのに、私を見下ろす今はとても優しい紫だ。確か、次郎ちゃんや陸奥ちゃんたちと大広間で訓練の打ち上げ会をしていた筈だが……ああ、そうか、私を心配して声を掛けに来てくれたのかと、込み上げる嬉しさに思わず微笑んだ。
ありがとう、私は素直にお礼を言いながら、でも大丈夫ですよ、と言葉を続ける。
「一人じゃありませんから」
その言葉にどういう事かと眉間の皺を寄せた日本号だが、私の隣に腰下ろしてやっと、言葉の意味を理解したらしい。呆れたような笑みを浮かべた。
この場にはもう一人、私の膝を枕にすやすやと安らかな寝息を立てている刀剣男士が、清光ちゃんが居るのだ。
最初は安定ちゃんも含めて三人で「訓練お疲れ様でした」と月見酒していたのだけれど、安定ちゃんは一杯だけ飲んで「もう眠いから後は二人でゆっくりして」と意味深な言葉を残して早々に寝室へ帰ってしまい、その後も清光ちゃんは私に付き合ってくれていたが、あまりお酒に強い子ではないため、すぐに酔って寝落ちてしまい……今のような状況に至っているのである。
だから、一人で月見酒を楽しんでいるものの、完全な一人ではなかった。熟睡中とはいえ、私の愛刀が膝の上にいる。決して不用心ではない。
「せっかくの尊い時間の邪魔をしてしまったか」なんて、からかうように笑う日本号に、話し相手が居なくて退屈していたところだから構いませんよ、と私は笑い返す。
にほちゃんこそ打ち上げ会を抜け出して来て良かったのですか? と聞けば、たまにはゆっくり静かに飲みたいもんだ、と酒瓶に直接口を付けてぐいっと中身を飲み込んだ。
「あんたにとって、そいつは余程大事な刀剣なんだな」
見ていてよくわかる。こちらではなく夜空に浮かぶ丸い月を見上げながら、日本号はそう呟いた。私も月を見つめて、微笑む。
「清光ちゃんだけじゃありませんよ、私にとってはどの刀剣男士も大事な私の子です。この本丸に来て、居てくれる限りは……もちろん、にほちゃんだって」
「ははっ、そうか、そりゃあ嬉しいね。けど、俺が言いたいのはそういうことじゃあねえよ」
そういう事ではない、とは。隣から響く声だけを聞きながら、私は不思議に首を傾げる。
「言葉を変える。あんたにとって、そいつは"特別"なんだろう?」
ドクン、と心臓が跳ねた。眠る愛刀の細い髪をさらさら撫でていた手が止まる。どうして。私は咄嗟に月から目を離し、日本号の方を向くが、彼は相変わらず月だけを見ている。少しだけ、横目にちらりとこちらを見た。
「……誰にも気付かれてないと思ってたのか? 俺たちの主様は随分反応が初々しいんでね、ここに来たばかりの俺でも気付くんだ。他の奴らも馬鹿じゃねえ、ほとんど分かり切ってるだろう」
確かに、私にとって、加州清光という刀剣男士は特別な一振りだ。私の初めて呼び降ろした刀剣であり、常の近侍を務めるもので、そして……。
でも、それは、……特別だと認めてはいけないと思っていた。例え周りに気付かれていても。
「私は審神者で、あなたたちはそれに仕えてくれる刀剣男士です。それが道具の本分とはいえ、人間のために尽くし戦ってくれるあなたたちは皆、分け隔てなく大事に愛されるべきなのです。なのに、私の勝手な感情で……たった一人を、寵愛する訳には……」
日本号はようやくちゃんとこちらに顔を向けてくれたが、それはもうじっとりした呆れの色に目を細めていた。面倒臭い奴だな、あんた……とまるで目に言われているかのようだ。
「難しい事言ってねえで、好きなもんは好きだと認めちまえばいいだろうが」
「……にほちゃん、酔ってません?」
「少しは酒が入ってなきゃ、こんな説教臭え事言えるかよ。人間の癖に面倒だな、あんた」
ついに言葉でも直接言われてしまって、少し胸が痛くなる。うう。私が今まで悩んで事も、うじうじとしていた姿も、全部皆に見られ知られていて、面倒だとか煩わしいとか思われていたのだろうか……。
すみません、と小さな声で謝って俯いていたら、大きな手がボスンと頭に乗っかって、そのままわしゃわしゃ頭をもみくちゃに撫でられた。わ、わっ。顔布が外れそうになるのを慌てて押さえる。
「人間の癖に、欲を抑え込み過ぎなんだよ、あんたは」
「え……よ、欲……?」
「誰かを特別に愛したり、愛されたいと思う欲求なんて、一番人間らしい欲じゃねえか。それを何で人間のあんたが拒んで否定するんだ。あんたがそいつに与えて、教えてやった欲だろう。面倒臭え御託並べてる余裕があるなら、さっさと受け入れてやれ」
そう言いながら、日本号が私の髪を乱す手は止まらない。
「に、にほちゃんっ、もう髪の毛ぐちゃぐちゃしないでください……! わ、わかりましたから!」
「おう、その言葉に嘘はねえな?」
「……努力します」
「まあ、すぐには割り切れねえか。俺はここに来たばかりで、まだあんたの事情もよく知らねえしな」
ただ、あんたとそこの加州清光を見てるとむず痒くてもどかしくて、見てられないんだよなあ……。日本号はようやく手を止めると、最後にぽんぽん私の頭を軽く撫でて、そう言った。その表情は呆れも混ざってはいるが、慈愛にも満ちていた。
「初めて顔を合わせた時も言ったと思うがな、俺はあんたを主として気に入ってる。ここに来て日は浅くてもな、せめて心だけでも幸せになってもらいてえと思ってるんだ」
「日本号……」
「まあ、誰がどう見ても相思相愛なんだから早く付き合っちまえ、ってここに居る奴らは当人たち以外ほとんど全員思ってるんじゃねえか」
「全員……!?」
「次郎太刀なんて酒飲んでる時は大体、あんたらのこと愚痴ってるぞ。うちの主は恋愛が絡むと面倒臭い、さっさと幸せになればいいのに、ってな」
「……そう、だったんですか」
なんて言うか、衝撃の事実であるし、何より、その、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいだ。
ああ、そうだ、目標を決めよう。
いつか彼が練度限界に達したら、ちゃんと出来なかった返事をしよう。その時には、素直になれるように、私の背中を押してくれた言葉を常に忘れないようにしよう。
いつまでも周りに心配をかけてばかりでは良くないし、それに、私だって、許されることなら……彼を……。
「もう少し、素直に受け入れられる努力をします」
「ああ、それでいい。あんたは無理に我慢したり繕ったりしなくても十分良い主だ、もっと自分に対して欲深くなっていいさ」
「ふふ……心配してくれてありがとう、にほちゃん」
なんだか、頼りになる父親みたいですね、日本号は。そんな事をぽろりと口から零せば、日本号はくつくつ喉を鳴らして「祝言挙げる時は俺が新婦の父親役でもやってやろうか」なんて笑ってくれた。
いつか本当に、そんな日が来たら良いな。私はこの会話中も全く起きる気配のない愛刀の寝顔を見下ろし、静かに微笑むのだった。
もう少しだけ、待っててください。
2025.03.24公開