ロボット君とお人形ちゃんの話
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お人形さんとはじめまして
――ここは、どこだろう。
気持ち良く晴れ渡った青空の下、陽の光をめいっぱい浴びて輝く花々が咲き乱れ、地平線さえ覆い尽くすほどカラフルな情景が広がっている。この世のモノとは思えない美しさだった。もしも天国があるのなら、きっと、こんな場所かもしれない。
――私はまた、夢を見ているのかな。
薔薇に似た花たちが揺れる中心で、ふたつの小さな人影が見えた。恐らく、ヒトである。背丈を見るに幼稚園児ぐらいだろうか。顔や髪などの特徴を表す部分は何故か、認識できない。
影がひとつ、そっと揺れる。もうひとつの影、その頭に何かを乗せた。手作りの花冠だ。なんて可愛らしいのだろう。
どちらも、嬉しそうにふわふわと揺れた。
(ありがとうございます、⬛︎⬛︎⬛︎さま)
駄目だ。会話しているようだけど、所々でノイズのような音がザリザリと邪魔をして、断片的にしか聞こえない。
(ふふっ、どういたしまして! しってる? このお花は、ラ⬛︎⬛︎キュ⬛︎スって言うんだよ)
(まあ、物知りですのね)
(⬛︎ちゃんが教えてくれたんだ。この日のためにいっぱい本を読んで、インターネットで調べて、たくさんお花の勉強をしたの。すごいでしょう!)
(素晴らしいですわ。では、わたくしの博学多才なご主人さま、こんなお話はご存知かしら?)
なんだか、とっても楽しそう。
会話の内容は殆どわからないけれど、思わずこちらも微笑んでしまった。
(……えーっ、ぼく、あんまり悲しいお話はすきじゃないよ。かわいそうだ)
(けれど、この世にはどうしたって、切なく報われない愛が存在するのです)
(ふーん……むずかしいね)
(わたくしはそういう優しい⬛︎も、嫌いではありませんよ)
(でも、ぼくはやっぱりハッピー⬛︎ンドがいいな。⬛︎⬛︎のこと、せ⬛︎いでいっちばん⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎だから)
ふたつの影が、ぎゅっと重なった。
私の胸にも、あったかい気持ちがぎゅっと伝わる。
(⬛︎⬛︎⬛︎さま?)
(⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎! ⬛︎⬛︎と⬛︎い⬛︎⬛︎⬛︎な⬛︎⬛︎)
何だろう。奇妙な感覚だ。
(……嗚呼、嬉しいです。わたくしの愛しい貴方。これからもどうか、ずっと、ずっといっしょにーー)
美しい風景、優しい空間、可愛いふたり、だけど。妙に物悲しくて泣き叫びたい気持ちが、じわじわと込み上げてくるのだ。自然と瞼の奥が熱くなる。
まるで〝誰か〟の記憶を覗き見ているような、追体験しているみたいな、感覚。
これはほんとうに、不思議な、夢……?
――ぷに。
――ぷにぷに。
――ぷにぷに、ぷに、ばちんッ!
夢の終わり、いや、目覚めは突然だった。
「いッ……たァ!?」
額がベッコリ凹んだのではと錯覚するほどの激痛。驚いて飛び起きれば「ふなっ」と聞き慣れた鳴き声がして、目線を下ろす。ベッドの端から顔を出した猫型モンスターが、ニンマリ笑っていた。
「ぐ、グリム〜っ」
「にゃはは、ねぼすけのオマエが悪いんだゾ!」
うう、いつもはグリムの方がぐっすりで寝坊常習犯なのに、悔しい。大魔法士を目指す親分は、子分になかなか厳しいのだ。
酷い目覚め方をしたせいか、まだ頭が覚醒しきってないまま、もそもそとベッドを降りた。ちらっと暖炉の方を見たら、埃で汚れた鏡と目が合う。額に真っ赤な肉球痕がお化粧された自分の顔が映って、なんとも間抜けだった。
「もう、今日は朝早くからリドル先輩たちが来てくれる予定なのに、なんてことするの……」
「フーンだ、生意気な子分め。オレ様にもっと別のコトバを言うべきじゃねぇか?」
「……起こしてくれて、アリガトウ」
素直にお礼を言えば、グリムは満足そうに腕を組んでウンウンと頷く。まあ、ふたり揃って寝坊しなくて良かった。しかし、調子に乗って「このお礼はツナ缶ふたつで許してやるんだゾ」とか言い出したので、私は仕返しにその小さな額へ「えいっ」とデコピンをしておいた。
「ぶなーッ!!」
額を押さえて涙目で転げ回る親分を、けらけらと笑い返してやる。
あ、っと、いけない、いけない。遊んでる時間は無いんだった。
さっきも自分で言ったけれど、今日はハーツラビュル寮の先輩たちや、友人のエースとデュースがウチへ来てくれる予定だ。先日のオーバーブロット……いや、マロンタルト事件のお詫びに、オンボロ寮の大掃除を手伝おう、なんて。あのリドル・ローズハート寮長が、とても有難い提案をしてくれたのである。
こんな清々しい秋晴れの大掃除日和に、寝坊なんてしたら、とんでもない。首を刎ねられてしまう。さあ、急いで支度をしなきゃ!
それにしても。
「……変な夢、だったなあ」
***
ちょっとだけブカブカの運動着に着替えたら、美味しい朝ご飯を腹八分目まで頂いて、すっかり目が覚めた頃。
コンコン、玄関の扉を鳴らす音が響いた。扉の向こうから「おはようございます」と、揃っているようで全然バラバラな朝の挨拶が聞こえてくる。私は元気よく「はーい!」と返事をしながら、ギシギシうるさい廊下を走り抜けた。
扉を開ければ、ハーツラビュルの女王様とトランプ兵御一行がいらっしゃいました。皆しっかり運動着姿だ。
「おはようございますっ、リドル先輩!」
「ふふ、可愛い
まずは女王様にご挨拶を。リドル・ローズハート先輩は真っ赤な髪を秋風に爽やかに揺らしながら、穏やかな笑顔を返してくださった。
「ちょっと監督生ちゃーん、けーくんたちも居るんだけどー?」
オレンジ色の明るい髪をポンパドールにした、陽気なトランプ兵もといケイト・ダイヤモンド先輩にも「おはようございます」と挨拶を返す。私の足元で「ふなっ」とグリムが鳴いた。
短い緑髪に眼鏡が似合う、トレイ・クローバー先輩を見たグリムは途端、キラリと目を輝かせてその胸元へ飛び込んだ。
「メガネーっ! お菓子は持って来たかー!?」
「ゔおッ」
慌てて片手でグリムを受け止めるトレイ先輩、さすがの反応速度と対応力だ。グリムはくんくんと鼻を鳴らした。
「……にゃは、甘くて良い匂いがするんだゾ〜」
トレイ先輩が持っているケーキ箱に早速気付いたみたい。これには、私も期待の眼差しで彼を見上げてしまう。
「中身は特製アップルパイだ。大掃除がひと段落したら皆でおやつにしよう、な?」
「はーい!」「おう!」私とグリムの元気いっぱいな返事が重なる。
「トレイ先輩のケーキに早くありつきたいし、さっさと大掃除始めようぜ〜?」そう言って我が物顔でオンボロ寮に入っていくのは、ツンツン跳ねた茶髪が目立つエース・トラッポラ。
「大きい荷物や重たい物の片付けは、僕たちに任せてくれ!」と頼もしいことを言ってくれるのは、優等生らしい紺色の髪を揺らすデュース・スペード。
どちらも同級生で同じクラス、ちょっとした大冒険も共有した、私とグリムの大切な友人だ。頼もしいことこの上ない。
全員をオンボロ寮の談話室へ案内すると、キッチンの方からパタパタと女性が走ってきた。このオンボロ寮の管理人を務める、寮母さんだ。
「あら〜、皆さんお手伝いに来てくれてありがとう、今日はよろしくね」
優しい雰囲気を全身から醸し出しながら、彼女はにっこりと微笑んで、ハーツラビュル寮生たちを歓迎する。「お昼とお夕飯はお姉さんが腕によりをかけてご馳走を振る舞うから、楽しみにしててね」とのお言葉に、全員「おぉー!」と歓喜の声が上がった。やったあ、楽しみー!
「おやおや、今日はお客さんがいっぱいだ」
「わしらもお手伝いするよ〜」
どこからともなく現れたのは、このオンボロ寮に住み着いているゴーストのおじさまたちだ。心強いなあ。
さあ、メンバーは揃った! オンボロ寮の大掃除、頑張るぞー!!
それからは順調に大掃除が進んだ。
各々役割分担も決めて、私とグリムはまず自分たちの部屋から、リドル先輩とケイト先輩には談話室を、エースとデュースには階段と廊下周りを、トレイ先輩と寮母さんはキッチン、ゴーストのおじさまたちにはお風呂場を中心に、作業を着実に進める。
布団やカーペットを干して、床を掃いて、椅子や棚を拭いて――黙々と、時々「もう疲れたんだゾー!」とゴネるグリムを宥めながら、掃除はまだまだ続く。
さて、そろそろお昼の時間だろうか。そんな頃である、談話室の方から響く「皆〜、ちょっと集合〜!!」ケイト先輩の声に作業の手を止めた。
何事だろうか? 皆ぞろぞろと談話室に集まる。皆に集合をかけたケイト先輩は、何故かワクワクした様子だった。一方、同じく談話室を担当していたリドル先輩は怪訝そうな顔をしている。
「ここを見てよ、大きな机をどかしてカーペットをめくってみたら出てきたんだ」
ケイト先輩が指差す場所には、床。その床に謎の黒い取手がついているではないか。まさか……!
「か、隠し扉ですか!?」
思わず期待で声を上げてしまった。うわあ、こういうのってドキドキする〜! 私は秘密基地とか隠し通路とかそう言うものにワクワクするタイプだ。
「ユウちゃんも知らなかったの?」とケイト先輩に聞かれたが、私どころか寮母さんも、ゴーストのおじさまたちでさえ、こんなものは知らないと首を振った。
「よーし、開けてみちゃお☆」
「待つんだケイト、まずは本来の管理者である学園長に確認を――」
取ったほうがいい、と注意したリドル先輩のお言葉は完璧に無視をされた。ケイト先輩、意外と度胸あるな。
最初はギシギシと木の擦れる音がするだけであったが、何度も引っ張るうちに少しずつ扉が開いていく。ギィッと嫌な音を鳴らして、隠し扉はようやくその口を開いた。
「うわ〜、真っ暗で何も見えないね」
ケイト先輩の言う通り、奥は真っ暗。階段がある事は確認出来る。下に部屋が続いている? そんなこと学園長から聞いた事ない――というか、あのひと何か見つかった後じゃなきゃ、何にも教えてくれないからなあ。ゲストルームの存在も後から知らされたし……。
「オレさまが下を見てきてやる!」
「グリムだけじゃ危ないよ、私も行く!」
リドル先輩に「ふたりきりで危険じゃないか」と心配されたけど、皆が居るから何かあっても大丈夫、なんて謎の自信があった。そもそも隠し扉のサイズ的に、小柄な私とグリムぐらいじゃなきゃ、階段を降りるのは無理そうだ。
寮母さんが用意してくれた懐中電灯に光を灯して、グリムを肩に乗せたまま、一歩、一歩、階段を降りていく。コツン、コツン。足元を照らしながら、ゆっくりと降りきった。
ここは……なんだろう? 懐中電灯をあっちへ、こっちへと照らしてみるも、古びて埃を被った木箱が複数個並んでいるだけの、単なる倉庫に見えた。木箱も、一つ開けて見たが、空箱のようだ。
なーんだ、学園長の隠し財産部屋かと思って期待したのに。がっかり。
後ろを振り返って、皆に報告しよう――とした時である。
ガタンッ。
……部屋の奥で何か倒れる音がした。
私は微かに光の差し込む階段から、再び背を向ける。「ふなあ……こ、怖いんだゾ、もう戻ろう子分」グリムはすっかり怯えてしまっていた。けれど、私はどうしても音の発生源が気になってしまった。
また一歩、一歩、ゆっくりと、足元を照らしながら部屋の奥へ向かう。木箱の山が迷路のように立ち塞がるが、それを交わしながら、奥へ、奥へ。
「ひッ!?」
懐中電灯の先が、ひとの手を映して小さな悲鳴が上がる――が。
「な、なんだあ、お人形さんだ……」
床にべったりと倒れる人影、それは幼稚園に通う子供ほどもある大きな人形だった。先ほどの音は、何らかの原因でコレが倒れた音だったのだろう。あぁ、びっくりした。
「に、人形め〜、オレさまをビビらせるんじゃねえんだゾ」
「それにしても、綺麗なお顔のお人形さんだね」
仰向けに倒れたお人形、そこから伸びる桃色の髪は埃で灰色に汚れてしまって、着ている白いワンピースもボロボロ。だけど、閉じられた瞼から伸びる睫毛はくるんと長くて、顔立ちもとても整っている。
私はそれの脇の下を両手で持って、よいしょっと持ち上げて見た。子供サイズのお人形だから、結構な重量がある。あれ? 手に何か持ってる……??
「星型の付いた、カチューシャかな」
この子にとって、大切なものなんだろう。何故か、そう思った。
「おいおい、それ持って帰る気かあ、子分?」
「うん。だって、こんな所にずーっとひとりぼっちなんて、可哀想でしょ」
「……まあ、それもそうか」
親分も納得してくれたみたいだ。
私はお人形さんを抱えて、またゆっくりと慎重に隠し階段を上がって、元の大広間へと戻ってきた。
「ユウ君ったら、もう、埃まみれじゃないか!」
なかなか戻ってこないから心配したよ! と少しお怒りのリドル先輩に、ぽふぽふと頭や肩をはたかれる。舞った埃を吸い込んだのか、けほけほ、と咳き込んでしまった。
「何そのお人形、地下室にあったの?」
エースに問われて、うん、見つけてきたと頷いた。
地下室? いや、地下倉庫? には何も入ってない木箱だらけで、めぼしいものはこのお人形さんぐらいだったことを皆に伝える。
寮母さんが私に近付いて、私の抱えていたお人形さんをひょいと抱き上げた。
「ずっと地下でひとりぼっちだったのね、可哀想に」
ナデナデとお人形の頭を撫でる寮母さんは、まさしく母のような、慈愛に満ちたお顔をしていた。お人形さんも微かに笑った、ような気がした。
「ユウちゃん、良かったらこの子は私が持っていても良いかしら?」
「もちろんですよ。私じゃあ、ちゃんとお手入れもしてあげられないし、グリムが壊しちゃいそうだもん」
「オレさま、そこまで乱暴者じゃねーんだゾ!」
心外だと怒るグリムは無視をして、もう少しお人形を調べてみる。
「あっ、カチューシャのリボンに何か書いてある」
お人形の右手がギュッと握り締めているカチューシャ、そのボロボロになったリボンの先に、薄らと文字が見えるではないか。
「ミー……ミーティア?」
寮母さんはハッと何か気がついた顔をした。
「きっと、この子の名前ですよ。ミーティアちゃん!」
なるほど、前の持ち主が付けた名前だろうか。わからないけど、お似合いの名前だと思った。
「流れ星が由来かな、お洒落だね」
博識なリドル先輩がお人形さんの頭を撫でる。
「可愛い名前〜! でもミーティアちゃん、じゃ長いから、ミーちゃんって呼ぼうよ!」
ケイト先輩の提案に、その場の皆が頷いた。
「さて、隠し部屋の謎は置いといて。掃除に戻るぞ」
トレイ先輩の一声で、一旦止まっていた大掃除が再開された。
今度、学園長に会ったら、謎の地下室について問い詰めておかなきゃ。
お人形さんの、ミーちゃん。
その日、オンボロ寮に新たな仲間が増えたのでした。
***
オンボロ寮の大掃除から、数日後。
寮母さんはあのお人形さんを大層気に入ったみたいで、夜遅くまで裁縫に熱を入れており、自分の使用人服を小さくリメイクして、お人形さん専用の洋服まで仕立てていた。
彼女のお手入れのおかげで、地下室で眠っていた頃とは比べ物にならないほど、お人形さんは綺麗になっていた。くるんくるんの超ロングヘアな桃色の髪はキラキラと艶めき、大切に持っていた星型のカチューシャもピカピカに光っている。でも瞳だけは、未だに眠ったように閉じられたままだった。
談話室の奥に置いてある、ソファーの上がお人形さんの定位置。朝起きて、私室から階段を降りて談話室に向かう途中、ちょうどお人形さんの目の前を通り過ぎるから。
「おはよう、ミーちゃん」
「おはようなんだゾー! ミーティア!」
朝日と共に、彼女へ挨拶するのが日課になっていた。返事なんて来るわけないのにね、ふふ。
「――おはようございます」
……え?
私とグリムは咄嗟に顔を見合わせた。
今の女の子らしき声は、誰? 私でも、寮母さんでもない。
お人形さんの方を見る。
窓から差し込む朝日に、濃い紫色の宝石みたいな瞳が、キラリと輝いた。
「いま、喋ったのって、君?」
恐る恐る、お人形さんに話しかけてみる。
「はい、おはようございます。ユウさま、グリムさま」
え、ええぇ〜〜〜!? 私とグリムの絶叫が談話室に響いた。
まあまあ、どうしたの、とキッチンで朝ご飯の支度をしていた寮母さんが駆け付けてくる。私はお人形さんを指差して、何も言えずに金魚の如く口をパクパクするしかなかった。あまりにも衝撃的だったのだ。
「どうしちゃったの、ふたりとも……」
「アイさま、おはようございます」
「……え?」
お人形さんから話しかけられて、寮母さんもピタリと固まった。いや、お人形さんに話しかけられるって何!? いくらここが魔法の普通に存在する世界だからって、あり得ない事すぎるでしょ!?
「まあ、大変驚かせてしまったようで、申し訳ございません」
一方、お人形さんは硬い表情をまったく崩す事なく(お人形さんだから当たり前?)ソファーからストンと降りて、冷静にこちらへ丁寧なお辞儀をした。
「このたびは、わたくしを大切に扱って下さり、ありがとうございます。おかげで、こうして
「ど、どういうことなんだゾ??」
グリムの疑問に、お人形さん――ミーティアちゃんは淡々と言葉を続けた。
「わたくしは茨の谷で作られた魔導人形でございます」
ま、魔導人形?
「人間からの愛情――微量の魔力を、瞳に埋め込まれた魔法石で蓄積・増幅して動力源に変える、魔力を持たない人間の代わりに魔法を扱うことができる、生きた人形でございます」
人間の愛とは、古来より「祝福」また「呪い」の一種であり、微量の魔力が発生するものであるそうだ。そして彼女の両目に埋め込まれた魔法石が、その愛(魔力)を動力源に変えるらしい。それは、つまり?
「日々献身的に可愛がってくださるアイさま、時々頭を撫でたり抱っこをしてくださるユウさまや、元気いっぱいに声をかけてくださるグリムさま、静かに見守ってくださるゴーストのおじさまたち、皆さまのおかげで、わたくしはこうして愛を、
な、なるほど……?
「これからは、恩返しが出来るように皆さまの平穏な日々をお手伝いさせていただきます。わたくしが、皆さまをお守りしますわ」
ミーティアちゃんは小さく、にこりと微笑んだ。
魔導人形とはそもそも、か弱い子供や魔法が使えない者を守る為に存在するらしい。
「難しいことはわかんねーけど、オレさまの子分が三人に増えたってことだなー! にゃはは!」
「うんうん、家族が増えたって事だね」
グリムも寮母さんも嬉しそうだ。
私はそっとミーティアちゃんの近くへ歩み寄り、しゃがみ込む。そして、パッと片手を差し伸べた。
「じゃあ……改めて、これからよろしくね。ミーちゃん!」
小さなおててがギュッと私の手を握り返してくれる。
「はい、よろしくお願いしますわ」
こうして、魔導人形のミーティアちゃんは正式に(?)オンボロ寮の一員になったのでした――。
2024.03.21公開