愛郷の詩人と不思議な猫の話
夢主設定
帝國図書館の看板猫通称・猫のお嬢さん
室生犀星に飼われている黒猫
温和で人懐っこい性格
杏色のリボンが特徴
家庭的でお料理上手な良妻
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猫の習性
私は猫である。
転生文豪の室生犀星先生に飼われている、黒い猫。雌です。愛称はくろ。先生の付けてくれた、かわいい名前。本名は……嗚呼、もう今の私には、要らないものだった。
猫というのは動くものに夢中になってしまうものだ。これは生き物としての習性であって、いくら元が人間だからと言っても、抗えないものである。
ぱたぱた、ぱたぱた。
だから、そう、あんな風に本棚やテレビの上なんかで、ぱたぱたハタキを振られたら、私は。私は! もう我慢出来ない!!
お行儀悪いけれど、コタツに乗り上げ、こちらに背を向けて本棚の埃を叩いてる先生目掛けて……
「にゃー!」
「うおわっ!? こらっ、くろお!」
思いっきり飛び付いた! ──が、目一杯高く跳ね上がっても狙いのハタキまで届く訳もなく、先生の肩にがっちりとしがみつく体勢になってしまった。
「ったく、もおー、掃除してんだから邪魔すんなってー」
まるで私をおんぶするように軽く前屈みに身体を丸めて、先生はそのままハタキのぱたぱたを続けた。ううう、先程より近くで動き回る布が、気になって気になって仕方ない。むずむずとお尻の方が擽ったくなる。彼の肩に張り付いたまま、ちょいちょい前足を伸ばす度に、「こーら」と笑って私を叱る先生。
一通り広い(先生にとっては狭いのだろうけど)部屋の中をはたいた後、しまわれたハタキの代わりに現れたのは、カーペット用の粘着クリーナー……うう、これも床でコロコロされてしまったら、つい追いかけたくなってしまう、とんでもない代物だ。あと、私の体もコロコロして欲しくなる、魅惑の粘着シートがよろしくない。
「今度は大人しくしててくれよ?」
ころころ、ころころ。
先生は私が手を出さないよう、今度は私をしっかり片腕に抱いて、ふんふんと鼻歌交じりに作業机の周りをコロコロしている。
ううう、飛び付きたい、噛り付きたい。そんな気持ちでそわそわして、尻尾がぶんぶん揺れて落ち着かない。
「にゃあ……」
あそびたいよう……そう訴える甘えた声を出して、じぃっと先生の顔を見上げれば、降ってくるのは優しい苦笑い。
「だーめ。掃除終わったらいっぱい遊んでやるからなー?」
そう、そうです、後でいいのです、我慢しなきゃ、綺麗になったお部屋でいっぱい遊んでもらえば良いんだもの、駄目、我慢我慢!
先生が毎週決め事にしているお掃除を、また邪魔してしまうわけにはいかない!! って、毎週思うのだけど。
「にゃー!!」
「あー! くろー!? おまえ、またやったな!!」
結局、私は彼がコロコロしているクリーナーに飛び付き、せっかく綺麗にした床をごろんごろん転がって、自ら腹や背を押し付けて、粘着シートを毛まみれにしてしまった。ああっ、この溜まってた抜け毛が全部取られていく感じ、たまらない!
「ほんと、くろはこれ好きだなあ。でも掃除の邪魔はやめてくれって、いつも言ってるだろ?」
「みゃあ……」
ごめんなさい、野生の本能にはやはり抗えられませんでした……。
でも、先生はやっぱり笑って(いやニヤニヤして?)私から毛だらけのクリーナーを奪うと、真っ黒な粘着シートを破り捨てて、すぐそれを片付けてしまった。ああー、もっと私をコロコロして欲しかったよう。
残念そうにしょぼくれていたら、もう掃除は中止だと、先生は私のお気に入りの猫じゃらしを片手に言った。
「仕方ないな、おいで。退屈だったろう、遊ぼっか」
「にゃあおん!」
やった嬉しい! 素直に鳴き声をあげれば、先生の大きな手が私の顎を掻くように撫でて、喉が心地よく震える。気持ち良くて、更に喉奥が鳴る。
ごろごろ、ごろごろ。
またしても、私は先生のお掃除を邪魔する結果に終わり、今日も1日たっぷり先生と遊んでもらうのでした。
ああ、私は悪い猫だ。なんて悪女、いや、悪猫。こんな非現実的な毎日を幸せに思ってしまうから。
この日常が、ずっと続けば良いのに。私は彼の"猫になる夢"の中で、そんなことを願ってしまうから。きっといつかは覚めるものだと知りながら。
「まったく、かわいいやつめ〜」
「にゃ〜♡」
けれど許される。許してくれる。
だって今の私は、ただの猫。あなたの可愛い飼い猫だから。
はあ、しあわせ。
2017.02.05公開
2018.04.22加筆修正