800字SSまとめ
【デート】
彼女と初めてデートをした日のことは、よく覚えている。
女の子というものは。格好いい男の子にリードされたくて、ショッピングやお洒落なカフェ巡りがデートの基本で、甘いものが好きで、何より"可愛さ"を求めるもの。──そう、教え込まれてきたから。
彼女が喜ぶ完璧なデートをしてみせる、とか意気込んでいたのに。
「……ケイト君。手を、繋いでも良い?」
緊張し過ぎて自然と手も繋げないでいたオレに、お姫様みたいな白いワンピース姿の彼女は、王子様のように手を差し伸べてくれた。
「んんっ、この鳥さん美味しいよ! ほら、ケイト君も食べてみて」
唐辛子が大量にかかった赤い鳥の唐揚げを、笑顔で「あーん♡」と差し出してくる彼女。甘いものより、辛いものを喜んで食べるような子だった。
「私、この女スパイシリーズ、好きなんだ。主人公の女優さんが格好良くて──ケイト君も? 本当!? 嬉しい! 映画の話が出来る友達、あまり居ないから」
実は無理に興味ない恋愛映画を観るつもりが、思わぬ所で共通の好みを知った。
オレはずっと、女の子に偏見を持っていたらしい。そもそも好みや考え方に、性別は関係無い。可愛いとか格好良いとか、他人に強制されるものじゃない。そんな当たり前を、彼女が自然な姿で教えてくれたのだ。
「ケイト君は色んな素敵なものを知ってるんだね。おかげで、とても楽しいよ!」
きらきら、無邪気に蜂蜜みたいな瞳を輝かせて。洒落たカフェでも、年季の入ったカメラ屋でも、どこへ行っても、彼女は喜んでくれるから。
「オレも。こんなに楽しいの、初めて、かも」
君の隣なら、オレはただのなんでもない"ケイト君"で居られる。
それが、とても、嬉しくて──。
だから、オレはこれからも。
「ねっ、今度この水族館見に行かない? 近くに激辛坦々麺が有名な、中華屋さんもあるんだって!」
「あ、私もそのお店気になってたの! 来週のデート先は決まりだね」
君と、色んなところへ行きたいんだ。
2020.12.11公開