800字SSまとめ
【雲】
「あの雲、薔薇の形だ──」
「わ、本当ね。青空に綺麗な白薔薇、素敵だなあ」
「だろう? その隣は、苺に、見え……──って、おわッ! 寮母さん!?」
「ふふ、こんにちは、クローバー君」
「い、いつから居たんですか」
「さっき来たところだよ、今日はバルガス先生のお手伝いさんなの。サボってる悪い子を見つけたから、注意しに来ました」
「う、少し休憩してただけで、サボってませんよ」
「きちんと課題は終わらせた?」
「もちろん。今回も、まあ、鬼のような難易度でしたけどね、はは……」
「じゃあ、えらい子だね。よしよし」
「え、いや、頭を撫でられる程では……というか、叱りに来たんじゃなかったのか……?」
「良い子はちゃーんと褒めてあげなきゃ、ね。それにしても、クローバー君が意外とロマンチストさんで驚いちゃった」
「ん? 何の話ですか?」
「雲の形、きみの瞳にはいろんなものに見えてるんだね。面白いなあ、と思って」
「あー……なんか、ちょっと恥ずかしいな」
「恥ずかしくなんてないよ。一見、何でもないようなものでも、見方を変えて楽しくなれたら、とっても素敵でしょう? ほら、見てみて! あっちの雲、ドーナツみたいで美味しそう」
「お、ホントだ。ははっ、寮母さんこそ、意外と子供っぽいとこあるよな。その、何というか、無邪気で可愛らしいなあ、って思いますよ」
「もう、クローバー君ったら。お姉さんをからかわないの」
「ははは。……口説くのって、難しいな」
「ん、ん?」
「──あ、向こうの雲、アイスクリームみたいじゃないか?」
「えっ、ああ、うん、そうかも! 二段も乗ってて豪華だねえ。なんだか、お腹空いてきちゃった」
「昼メシ前だから、余計にそう見えるのかもな。はあ……腹減った」
「飛行術の授業が終わったら、すぐお昼休みでしょう。あとちょっとだよ、頑張ろう!」
「んー……寮母さんがお昼ご一緒してくれるなら、頑張れそうなんですけど……」
「あらあら、まあ、何言ってるの、ふふ。そんなことで良いなら、いつでもご一緒しますよ。ドーナツやアイスクリームはご馳走してあげられないけど、お弁当の苺くらいなら分けてあげる」
「よし、やる気出てきた」
「あはは、もうっ、ほんとに面白い子なんだから。ほら、バルガス先生が一旦集合だって呼んでるよ。……玄関前で待ち合わせ、ね?」
「はい! じゃあ、また後で」
「うん、いってらっしゃーい!」
「──おやおや、随分とゴキゲンじゃな、トレイ? 飛行術は苦手とか何とか言うておった癖に」
「えっ、顔に出てた、か? ……恥ずかしいけど、まあ、ご褒美の苺が待ってるからな。たまには張り切るのも悪くないよ」
「くふふ、そうかそうか。若々しくて良いのう!」
「……リリアって時々、同い年か疑いたくなる発言するよな」
2021.04.28公開