800字SSまとめ
【喧嘩】
ね、監督生ー。ちょっと聞いてくんない?
この間、彼女と喧嘩しちゃってさあ……。え、なに。またオレが一方的に怒らせただけじゃないのか、って? は、はあーッ!? 違うわ! いや、確かに過去やらかした経験あるけど、今回はホントに違うんだってば。
例え恋人同士であっても、お互いに譲れないし理解出来ない部分っていうのは、どうしたってあるモンだろ? だから、珍しくマジで言い合いになっちゃってさ。
突然、彼女がめいっぱい深呼吸して、今まで聞いたこと無いぐらいの声量で──。
『もう、エース君なんかッ、きらい!!』
──なんて言われた瞬間は、この世の終わりを錯覚するぐらいショックだった。ヒューッと背筋が凍って、何にも言い返せなくなって、たぶん、一瞬だけ心臓止まったと思う。
でもさ、彼女もそこまで言うつもりは微塵も無かったんだろうね。ハッと冷静になった途端、真っ青な顔して、自分の口元を咄嗟に両手で覆ったかと思ったら、急にぼろぼろ泣き出しちゃうの。ビックリして、オレもすぐ我に返った。
『あッ……!? や、やだ……ごめん、なさいっ、わたし……ひどい、こと……!』
『や、オレの方こそ、ごめん。言い過ぎ、ました』
『嘘、だからッ、嫌いなんて、思ってない! あなたのこと、好きだよ、ほんとうなの。世界でいちばん、大好き、だから!!』
さっきよりも大きな声で、そう言ってくれたから。ホッとして、身体の温度がぽかぽか戻ってくる感じがした。
『うん、うん、わかってるから。大丈夫だって』
『き、きらいに、なってない?』
『この程度で、嫌いとか、なるワケないでしょ。その……お前のこと、好きだよ、オレも。泣かせたりして、ごめんな』
『ぐすっ、うぅ、よかったあ……!』
いつもはちょっと指先触れ合っただけでも照れちゃうのに、その時は彼女の方から思いっきり抱き着いてくれて──。
はあ、すげー可愛かったなァ。泣かせちゃったコトは、もちろん反省してる。でも、涙声でたくさん「すき」とか「だいすき」とか何度も繰り返し言ってくれるの、結構クるものがありました。正直なところ。
なんだよ。そのニヤけ面はちっとも反省してない、って? いや、例え嘘でも「きらい」なんて二度と言われたくないんで、その辺は真面目に反省してます。ホントです。もう、ちょっとしたトラウマになってるから……。
今度、お詫びにオレの全奢りで映画デートする予定だし──……は? 途中から愚痴じゃなくて惚気になってないか、だって??
「ばーか、最初っから惚気てんだよ」
オレの彼女、世界一カワイイでしょ?
「ちなみに、何で喧嘩したの?」
「あー……目玉焼きには塩胡椒派か、ソイソース派か、っていう話が盛り上がった流れ、みたいな」
「聞かなきゃ良かった……」
2021.03.27公開
(Twitterでフォロワーさんから台詞ネタ提供頂いた作品です。ありがとうございました)