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800字SSまとめ

 

  【百発百中】



 ケイト・ダイヤモンドのユニーク魔法は
舞い散る手札スプリット・カード"──それは、まるで同じスートのトランプをズラリと並べたかのように、自らの分身を作り上げる魔法である。
 わざと軽薄を気取る彼は時々、その魔法でもうひとりの自分を作っては声を揃えて、楽しげに笑いながら「どっちが本物のけーくんでしょうか!」ゲームを仕掛けてくるのだ。
「……なかなか、意地悪な問題だ」
 しかし、これがとんでもなく難問だった。まだ二年生の頃なら、分身に足元の影が無かったり、服の模様が微妙に違ったり、と。絶妙な間違い探しの末に言い当てる事も出来た。
 でも、最近はまるっきり駄目だ。ちっとも当てられない。どこをどう観察しても瓜二つ。昔々、不思議の国に住んでいたという奇妙な双子よりも見分けが付かない。参ったな、襟に刺繍で名前を書いてくれたら良かったのに。
「どうしよう、全然わからない……」
 俺と同じくこの戯れに巻き込まれた、他校の三年生である麗しい少女も「うーん」と首を傾げて困った顔をしている。ケイトの恋人である彼女にも、今回ばかりは本当に難題のようだ。
 俺や他の寮生らには全く見分けが付かない場合でも、彼女が居る時は必ず、間違いなく本物か分身かを言い当ててくれるのだが。
「この間は『けーくんを見分ける方法なら私に任せて、百発百中だから』とか言ってなかったか?」
「あはは、百発百中はさすがに言い過ぎたね」
 どちらが本物で分身かわからないまま、二人のケイトに挟まれながら、彼女は申し訳なさそうに眉尻を下げて微笑む。ケイトたちは「フフン」と同じ顔で笑って満足そうだ。
「わっかんないでしょ、そうでしょー!」
「足元の影も、服のデザインも、そっくり同じでパーフェクト! だからね」
「けーくんってば、ちょっと"本気"を出し過ぎちゃったかも」
「今回は、オレくんたちの完全勝利かな?」
 可愛い恋人をギューッと両端から抱き締めながら、勝ち誇った顔をする親友たちの姿は、正直、少しだけ(羨ましさも感じて)ムカッとするけど……さすがに、完全敗北を認めるしかない、か?
「困ったなあ、どっちのけーくんも格好良くて美人さんだから、いつもの二倍どきどきしちゃうよ。私の贈った指輪をふたりとも付けてるし、首の隠れた黒子も同じで、ほんと完璧な仕上がりだね。本気のケイト君、すごいなあ」
 見分けが付かなくとも呑気に恋人を褒めて、ニコニコと自慢げに笑う彼女の姿は、もう見ていて胸焼けがしそうである。ケイトたちは心底ご機嫌な様子で「もっと褒めてくれても良いよ♡」なんて声を揃えた。はあ、イチャつくなら人目のない所でやってくれ……。
 他に本物と分身で違う部分は無いか、ケイトらを顔の隅々から指の先まで観察する彼女を眺めながら、俺はハッと気がついた。
 ああ、そうか! 彼女が今までケイトのユニーク魔法を見分ける事が出来ていたのは、アイツが"本気"じゃなかったから、だ。ようやく間違い探しの正解を見つけ出せた俺は、チェシャ猫の如くニンマリと笑って見せる。
「フーン、なるほど、な。いつもは手を抜いて"恋人にだけ"わかりやすいヒントを与えていた訳だ?」
 大袈裟なほど明らかに、向かって左側のケイトがギクリッと肩を震わせた。
「あ、いま動いた方が本物だ」
「ちょッ、トレイくん、精神攻撃はズルくない!?」
 真っ赤な顔して声を荒げる本物。右側の分身は「あーあ」と残念そうに肩を落として、ボンッと白い煙を残して消える。どうやら、大当たりだ。
 今回はそういうゲーム、お遊びであるから見分けられては困るけれど、普段はちゃんと"本物"の自分を見つけてほしいから。彼女にだけわかる違いを、あえて、何処かしらに残していたんだろう。本気を出せば、これだけの分身を作れる癖に、ズルいのはそっちだろ?
「ははっ、心乱されて呆気なく見破られるなんて、ケイトのユニーク魔法もまだまだ、だなあ?」
 結局アッサリと見破られてしまい、ぐぬぬ、と顔をしかめて悔しそうなケイトであったが。恋人にぽんぽん頭を撫でられた途端、その表情はふにゃりとだらしなく蕩ける。
 彼の麗しい恋人は、そんな狡猾さを知ってもなお「もう、けーくんったら、可愛いことするね」なんて嬉しそうにクスクス笑っているのだった。
 ……まったく、相変わらずお熱いことで。ほんと仲が良くて何よりだよ。





2021.03.20公開
(Twitterでフォロワーさんから台詞ネタ提供頂いた作品です。ありがとうございました)
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