800字SSまとめ
【飛躍のマカロン】
「飛躍のマカロン、ねえ……」
食べるとたちまち勉強効率がアップする魔法のようなお菓子、なんて宣伝文句が添えられた焼き菓子を相手に睨めっこしながら、オレはムムッと眉間に皺を寄せた。正直、眉唾物だとは思うんだけど……。
不意に浮かんできたのは、いつぞや「甘いものが好き」だと語っていた"彼女"の愛らしい笑顔で。オレは気が付けば、セール品の赤いシールが貼られたそれを持って、購買のレジに並んでいたのだった──。
文化祭振りにあった彼女へ、じゃーん、なんてセルフ効果音付きでマカロンの詰まった袋を見せたら、予想通りパッと満面に笑顔の花が咲いた。
「ウチの購買で売ってたんだけどさー、食べる?」
「い、良いの!? 食べたいっ」
いつもより食い付きが良い彼女に少し笑ってしまいながら、袋の封を開ける。中からひとつ、ピンク色のストロベリー味と思われるマカロンを手に取った。
それを持ったままサッと彼女の口元へ運んでやるが、きょとん、と大きな瞳をまん丸にするばかりなので。
「はい、あーん」
彼女の柔そうな唇に、ツン、とマカロンを突き付ける。
途端、彼女はオレの言葉と行動の意味を理解したのか、みるみる顔を赤く染め上げる。あーあ、照れちゃって可愛いなあ。
「そ、そこまで、してもらわなくてもだいじょ、むぐっ」
戸惑いの声を上げたその隙間へ、言葉を塞ぐようにマカロンをねじ込んだ。
「どお? 美味い?」
赤い顔のまま、数秒無言でもごもご咀嚼していた彼女だったが、すぐにまたキラキラ瞳を輝かせて、嬉しそうにコクコクと頷いた。
「うんっ、美味しい……!」
つい可愛いから揶揄ってしまうけど、それでもめいっぱい喜んでくれる姿に、オレの口元はだらしなく緩んでしまう。
オレも食べてみようかな、と今度はチョコレート味であろう色をしたマカロンを手に取る。が、何やら指先に熱視線を感じて、チラリと彼女の方を盗み見れば。
じっ、と期待の眼差しをこちらへ向ける、眩しい瞳と目が合った。
「……あーん」
また口元へマカロンを近付けると、今度は一切の戸惑いもなく、オレの手からパクッとチョコ味のそれを頬張った。再び、甘い幸せでふにゃふにゃ表情の蕩ける彼女を見下ろしながら、オレは思わず「ぶふっ」と噴き出しかけながらも必死で笑いを堪えた。
それから、何だか食べさせてあげる事が楽しくなってきたオレは、色んな味のマカロンを差し出して、幸せそうな可愛い彼女の反応を腹いっぱい味わうのだった。
なんか、アレだな。妙な庇護欲が掻き立てられるというか(雛鳥に餌付けしてる親鳥の気分……)なんて思ったけど、たぶん言ったら「あーん♡」させてもらえなくなるから、黙っとこ──。
2021.01.26公開