800字SSまとめ

 

  【雪うさぎ】



 昨晩から降り出した雪が、真っ白な生クリームでデコレーションしたケーキの如く、たっぷりと降り積もった朝の事だ。
 鏡舎を出てメインストリートを通り過ぎる途中。早速もう雪を投げ合って遊んでいる、エーデュースらとグリムを見かけてしまって。登校中の生徒たちの邪魔になるだろう、全く、子供だなあ──と、ボクは呆れの溜息を零した。
 ふとボクの視界に、ハートの女王を模した石像の足元でしゃがみ込む、小柄な生徒の姿が映る。そのよく見覚えのある後ろ姿へ、どうしたのだろうかと心配で声を掛けた。
「監督生、何をしているんだい?」
 ボクの声にハッと慌てて振り向いた迷子の少女──もとい、監督生は驚いた顔でこちらを見上げていたけれど、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべて「リドル先輩、おはようございます!」と元気の良い挨拶をくれる。相変わらず、素直で愛らしい後輩だ。ボクも「おはよう、冬らしい朝だね」と穏やかに挨拶を返しながら、彼女の隣にしゃがみ込む。
「ふふん、実は──雪うさぎを作ってるんです」
 それが先程の質問の答えだとは分かっても、その“雪うさぎ”が何なのか分からず、ボクは首を傾げてしまった。彼女のフカフカな手袋に包まれた指先を見てみると──。
 ふむふむ、どうやら楕円型に雪を丸めて、小さなスノーマンを作ろうとしているように見える、けれど……? おや! その雪の塊に、細長い葉っぱを二枚飾って、特徴的な長い耳に変えたかと思えば。今度は小さな赤い木の実を二つ埋め込み、愛くるしい瞳を与えた。なるほど。これは確かに、身体を丸くした真っ白なウサギさんに見える。
 その出来上がった手のひらサイズの雪うさぎを掲げて、彼女は朝の日差しよりも眩しい笑顔をボクに向けた。
「じゃーん、完成です! どうですか、ふふっ、可愛いでしょう?」
 寒さでほんのり赤く色付いた鼻先や頬のせい、だろうか。真っ白な雪景色の中でも楽しげなその姿は、なんとも。冬に咲く、可憐な桃薔薇のようで──。
「……うん、可愛らしいね」
 キミの事だ、とは恥ずかしくて言えなかったけれど。
「良ければボクに作り方を教えてくれるかい?」
「もちろんですよ! じゃあ、まずは材料を探しましょうかっ」
「……あ、もしかして、葉っぱをたくさん飾ったら、ハリネズミのように見えるかな?」
「そ、その発想はなかった! さてはリドル先輩、天才ですね!?」
「フフン、まあ、それほどでもあるよ?」
 ああ、たまには子供らしく、雪遊びに興じるのも悪くはないね。





2021.01.20公開
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