800字SSまとめ
【白】
貴重な休日デートへ出掛ける直前。愛する恋人に、少しだけ髪を触らせてもらえないかと頼み込めば、不思議そうな顔はされたけど、快く了承してくれた。
弟を便利な召使いにしか思っていないだろう姉たちのせい、いや、おかげさまで、オレは女性向けのヘアアレンジには慣れている。簡単なおさげ髪から、凝った編み込みまで出来る程度には、ね。今はこうして彼女の為に活かせているから、結構気に入っている特技のひとつだ。
今回は彼女の長い髪を、緩く編み込みハーフアップにさせてもらって、仕上げに白いバラの花束を模したバックカチューシャを飾り付ける。
「よし、完成〜!」
オレの手でよりいっそう可愛くなった姿を早く見せたくて、すぐさま彼女を大きな姿見鏡の前に立たせれば。彼女はキラキラ表情を輝かせて、素敵、と嬉しそうに声を弾ませてくれた。
「わあ、すごいね、けーくん! こんな、綺麗な花飾りまで……」
「ふふ、可愛いでしょ。オレからの贈り物、気に入ってもらえた?」
「うん、とっても嬉しい! ……でも、今日は何にも特別な記念日じゃないのに、良いのかしら」
「"なんでもない日"だからこそ、良いんだよ」
この白薔薇の花飾りを街中で見かけた時、すぐに彼女のことが思い浮かんだから。プレゼントしてあげたかったんだ。
不思議と、彼女にはホワイトカラーの特別似合うイメージがある。初めて出会った時に、白いワンピースを着ていたから? いつも清潔な白のハンカチを持ち歩いているから? 理由は色々想像がつくけれど、最大の理由は、たぶん──
「やっぱり、君は白が似合うね。ほんとうに綺麗だよ、お姫様みたい」
君はオレだけの、可愛い可愛いお姫様だから。
鏡越しにぽっと頬を赤らめる彼女。心の底から幸福そうに「ありがとう」と微笑んでくれて、ああ、喜んでもらえて良かった。
いつかその身に、純白の美しいドレスを身に纏ってほしいな。
きっと、世界一似合うよ。
2020.12.07公開