800字SSまとめ
【ネクタイ】
「監督生ちゃんってー、前からリボン結びしてたっけ」
「えっと、何の話ですか?」
「ネクタイの話だよ〜」
ケイト先輩は訳知り顔でニヤニヤしながら、トントン、と自分の首に緩く巻いたネクタイを指差した。まさか、そんな些細な所に気付かれるとは思わなくて、ビックリしてドキドキして、じんわり頬が熱くなってしまう。
私は制服のネクタイを、敢えてリボン結びにしている。他にも同じような結び方をしている生徒さんは多く居るから、こんな事を指摘されるなんて思ってもみなかったけれど。確かに、ほんの少し前までは、ネクタイを普通にプレーンな三角形で結んでいた。
でも、困った事に。私は本来、ごく一般的な女子学生として過ごしていたから、男子用の制服を着慣れていなくて、ネクタイを結ぶ事がどうにも下手で──。
『キミ、少しタイが曲がっているよ』
──あるひとが、そんな私に気付いてくれた。
『おや、またタイが歪んでいるね。……もしかして、上手く結べないのかい?』
そのひとは私に、リボン結びなら上手く出来るんじゃないか、と心優しい提案をしてくれたのである。
『よし、出来た。こちらの方が可愛らしくて、キミによく似合っているよ。……ボクとお揃いだね?』
ふふっ、と何だか嬉しそうに声を弾ませて笑ってくれたそのひとは、年相応で可愛かった。きゅん、と胸の奥で甘い音が高鳴ったことをよく覚えている。
憧れの先輩で、仲良しのお友達で、……大好きなひと、そんな彼とお揃いだなんて。幸福感にぽかぽか浮かれて、嬉しくて堪らなかった。
それから、私はネクタイをリボン結びするようになったのだ。
「これは──お揃いなんです、先輩と」
直接的に誰かという名前は、言わなかったけれど。まあ、ケイト先輩なら、すぐに気付かれるだろうから、ね。
「ほーんと、ウチの女王様とアリスちゃんは、可愛くて参っちゃうよ、もう」
見てるこっちが熱くてチョコレートみたいに溶けちゃいそう、なんて不思議な例え話をしながら、ダイヤのトランプ兵さんはご機嫌にクスクスと微笑んでいた。
2021.01.14公開