800字SSまとめ
【恋話】
私の友人はどうやら、ハーツラビュル寮の2年生で悪戯好きなウサギの先輩に、片想いをしているらしい。
「監督生っ、聞いてくれ! 先輩に褒めてもらった!!」
「良かったねー、何て褒められたの?」
「ああ、先輩が『デュースはホント馬鹿真面目で愉快だね、見ていて飽きないよ』だって──」
「……それ、褒められてる?」
気が付けばいつもこんな感じで、その"先輩"について話をしてくれるから。本当、嬉しそうな彼につられて微笑んでしまうくらい、大好きな気持ちがたくさん伝わってくる。
「デュースは、先輩のどういう所が好きなの?」
ええッ!? なんて大声を上げて驚く友人を前に、私は思わず笑いを噴き出してしまう。あまりにも予想通りの反応だった。
「マブの恋話! 聞きたいなあ、と思って」
「こッ、コイバナ……ううん、僕なんかの恋を語っても、面白くないと、思うが……」
火でも付いたように、ボッ、と顔を真っ赤に染め上げるデュース。そんな友人はちょっと可愛くて、既にだいぶ面白い。その先輩がつい彼を揶揄いたくなる気持ちも、少しわかる気がした。
あっちこっちへ視線を泳がせて黙り込む友人に、じーっと期待の眼差しを向け続けていたら、彼はようやく恥ずかしそうにもごもごと口を開いてくれた。
「……その、意外と面倒見が良い所、かな。どうしようもなく馬鹿な僕に呆れる事はあっても、見放す事はしない。苦手な勉強を、何度も繰り返し教えてくれるし……部活動でも、マネージャーだから当然だと言って、大会前は夜遅くまで練習に付き合ってくれて……」
「身内には特別優しい先輩だよね」
「ああ、優しくて良い人なんだ! それに、肝の据わった度胸がある所もカッコいい。一年生の頃、あのローズハート寮長に決闘を申し込んで、たったひとりで立ち向かって良い勝負をしたと聞いた時は、なんて勇敢なひとだろうと思ったよ」
「えっ、先輩すごいね!?」
「そうだろう!? でも、可愛らしい所もあるんだ。まあ、見た目がもう、可愛いウサギさんなんだが。お花を育てるのが好きらしくて、植物園のお花たちに水やりしながら、ニコニコ楽しそうにしている姿は、なんか、こう……上手く言えないけど、先輩自身もお花みたいに綺麗で……好きだな、へへっ」
照れ臭そうに、だけど幸せそうに先輩への"好き"をめいっぱい語るデュースは眩しいくらいキラキラしてて、ふふっ、素敵だなあ。
ふと、視界の端、壁際でぴょんっと長く伸びるウサギの耳が見えた。
「ん? あれ……デュース、彼処に居るのって……」
「──あっ、先輩だ!」
私が指さした方へ、くるっと振り返った途端。
デュースは嬉しそうに先輩の名前を呼んで、その可愛らしいウサギさんの元へ駆け出したーーが、文字通り、先輩は脱兎の姿で逃げていく。
「エッ!? な、何で逃げるんですか、待ってください、先輩! せんぱーいっ!?」
訳もわからずそのまま先輩の後を追いかけて行く友人をポカーンと見送りながら、私は不意に思い出した。
「そういえば、ウサギって耳が良いんだっけ……?」
とすれば、さっきの彼の恋話は全て聞かれていた可能性が──……えーっと、その、とりあえず頑張ってね、デュース!
親友の素敵な恋がいつか実りますように、と見えなくなったふたつの背中に祈りながら、私は何事もなかったように次の授業へと急ぐのでした。
2021.01.13公開