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800字SSまとめ

 

  【ラーメン】



 お互いの手指や唇を絡めて一つに重なり合い、どちらのものか分からない汗が滴る程へとへとになった、深夜の零時過ぎ。
 肉体的な疲労と共にずっしり染み込んでくる幸福感に浸りながら、しばらく可愛い恋人と素肌のまま戯れ合っていたけれど。不意に、ぐう、とオレの腹が鳴ってしまった。それを聞いた彼女は「ふふっ」と声を弾ませて笑う。
「……なんか、お腹空いちゃったね。インスタントのラーメンでも、食べる?」
「良いね、賛成っ!」
 ガバッと勢いよく掛け布団を蹴り飛ばして起き上がったオレに、彼女はますます声を上げて「元気だなあ」なんて笑った。
 脱ぎ捨ててクシャクシャになってた寝巻きを再び着直して、彼女とふたり、キッチンへ向かう。
 少し腹を満たすだけなら、一人前を半分こするぐらいで十分だろう。小さな鍋にお湯を沸かして、乾燥麺を投入。麺が解れて来たところで、真っ赤な粉スープをお湯に溶かしてーーと。手際良く調理を進める彼女に、オレは悪い顔でツンツンと細い肩を突いてチョッカイをかける。
「ね、ねっ、卵も入れちゃお?」
「あ、名案だね! 確か、冷蔵庫に余ってるコーンと、作り置きのモヤシナムルもあるから、それもトッピングしちゃおう」
「うわあっ、贅沢〜!」
 追加した卵がほんのり白く固まってきたところで火を止めて、コーンやモヤシを飾って、面倒だから鍋のままリビングテーブルへ持っていく。同棲を決めた時にお揃いで買ったお椀と箸を用意して、ほかほか湯気を立てるラーメンの前にふたり並んで腰掛けた。
 ぱちんっ、お行儀良く手を合わせて「いただきまーすっ」とご機嫌に声を揃える。
「あーっ、辛! うまー♡」
「んっふふ、美味しいねえ……」
 香辛料で赤く染まった味噌味のスープと、よく絡み合うモチモチ麺を、恋人と分け合って食べる。夜遅くにこんな濃くて高カロリーなものを食らっている、という背徳感も美味しいトッピングに変わって、もう堪らない。
 ああ、なんだか、とっても幸せだ。甘く蕩けるような愛を分かち合った後に、好きなものを共有して、こんな夜遅くにふたり笑い合う。彼女といっしょに、暮らしてるんだなあ、と不思議なくらい実感した。
「はあ、ごちそうさ──」
「ちょっと待った!」
 赤いスープだけになった鍋、このまま片付けてしまうのは勿体ない! オレはすぐさま冷蔵庫まで駆け出して、中から余っていた冷やご飯と薄くスライスされたチーズを取り出した。
「じゃーん。残ったスープで、辛いチーズリゾット風にするのはどう?」
「わあ〜っ、そんなのずるいっ、悪い子だ……!」
「ふふ、共犯になっちゃおっか〜♡」
 これから先も末長く、君とはどんな幸せも悪いコトも共有したいから、ね♪





2021.01.11公開
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