800字SSまとめ

 

  【ホラー】



 オレの恋人ちゃんは、どうも俗に言う"ホラー"系が苦手らしい。例えば遊園地の子供騙しなお化け屋敷とか、怪奇や殺人鬼に襲われる恐怖映画とか。その癖、去年流行ったホラー映画がテレビ放送されると聞いたら興味を持って、怖い物見たさで一緒に鑑賞しちゃったりするから、苦手と言いつつ結構好きなんだろうね、面白いなあと思う。
 様々な恐怖演出を味わった後、ようやくテレビ画面に流れ出したエンドロール。チラリと隣を覗き込めば、お気に入りのニコちゃん顔クッションを抱える彼女は「ううっ」と弱々しく呻き声を上げていた。
「もー、苦手なら無理に見なくても良かったんだよ?」
「で、でも……展開気になっちゃったし、お話としては面白かったし……」
 ただ、自宅のお風呂場で怪異が現れるシーンは本当に怖かった、と震え声で語る彼女。確かに、あのシーンはオレもビックリして声が出たし、彼女は特に「ひゃあッ!?」なんて高い悲鳴を上げてて可愛かった。
 ここでつい、悪いコトを思いついたオレは、ニンマリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「……じゃあ、今日はいっしょにお風呂入ろっか♡」
「うん……」
「え、良いの?」
 コクコクと必死に頷く彼女を前に、まさか即答されると思ってなかったオレは驚き呆けてしまった。
 学生時代は異性よりも同性に好かれる子で、今でもその格好良さは相変わらずの彼女が、苦手なものを前にした途端、こんな可愛らしい少女になってしまうなんて……きっと、オレしか知らないんだろう。そんな奇妙な優越感に浸って、口元がニヤける。
「大丈夫かなあ、そんな簡単に許しちゃって。悪いゴーストより怖くて、えっちな目に合っちゃうかもよー?」
「……いいよ。けーくんになら、何されても平気だから」
 へっ、と間の抜けた声が落ちて、心臓が大きく跳ね上がる。先程まで怯えていた筈の彼女は、細めた瞳をとろり蜂蜜みたいに蕩かして、熱っぽくオレを見つめていた。
「その、明日も休み、だし……今夜は、ずっといっしょにいてほしいなあ、って……」
 赤い顔をクッションで半分隠しながら、そんな誘い文句を言われたら、もう──。
「では、怖がりなプリンセスの仰せのままに。このまま朝までずーっといっしょに過ごそうね♡」
「あ、ありがとう。王子様がずっと守ってくれるなら安心だね、ふふ」
 ゴーストは性的な話や行為が苦手とか聞いたことあるし、案外、本当に効果的かもしれないね? なーんて。





2021.01.10公開
31/61ページ