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800字SSまとめ

 

  【彼シャツ】



 昨晩ちょっと張り切ってしまったせいで、重いけれど心地良い疲労感を覚えながら、のっそりと寝惚けた体を起こす。ふわ〜っと大きな欠伸を落としながら、長い前髪をがしがし雑にかき上げて、キョロキョロと寝室を見回した。
 オレは「あれ?」と首を傾げる。愛する恋人の姿がない。昨日は間違いなく、彼女を抱き締めて眠ったのに。深い口付けを交わして、手指も足の先までも絡めて、お互いを甘く求め合った──筈、なんだけど。え、まさか、夢オチ? そんな馬鹿な。嫌な想像に胸の奥がぞわぞわと騒ついた。
 不意にキィッと寝室の扉を開く音がして、慌てて扉の方へ顔を向ける。
「あっ、けーくん、おはよう」
 そこには、天使のような優しい笑顔を浮かべる彼女が居た。安心すると共に、オレは目を見開いて驚愕する。何せ、彼女は少し大きめの白いシャツ1枚だけを身に纏った、ほとんど裸同然の姿だったから。薄布越しに覗く素肌、ぶかぶかな襟元からチラリと見える下着は、目から入り込む即効性の毒だ。思わず、ごくりと喉が鳴る。
「えッ、おっ、オハヨウゴザイマス」
「ふふ、どうして片言なの? ──ん? ああ、そっか、勝手にケイト君のシャツを借りちゃったからかな、ごめんね」
 びっくりさせちゃったね、なんて申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる彼女。オレはぶんぶん勢い良く首を横に振って「大丈夫!」と声を張った。なるほど。つまりその姿は、いわゆる彼シャツというヤツで。健全な男子としては興奮しない訳がなかった。
 裸足でぺたぺたとベッドの端まで歩み寄ってきた彼女は、そのままストンとオレの隣に腰掛ける。彼女の緩く纏められた髪から、ふんわり薔薇の良い匂いがしたので、朝のシャワー上がりだと察した。昨日は疲れてベタベタのまま寝ちゃったもんね。
 オレは甘えるように、ぽすんっと彼女の肩へ寄り掛かり、洗い立ての頭頂部にすりすり頬を寄せた。袖が長いせいで半分隠れてしまった彼女の手を、キュッと握り締める。
「……ねえ、もっかい気持ちいのシたいな」
 こしょこしょ擽るように彼女の手の甲を撫でれば、ぴくっと華奢な体が微かに震えた。耳元に唇を寄せて「だめ?」と再び問い掛ける。今度は大きく彼女の細い肩が跳ねた。
「も、もうッ……さっき、シャワー浴びたばっかりなのに、」
「良いじゃん、チェックアウトまで余裕あるし。シャワーも後でまた、一緒に入ろ?」
「けーくんのえっち……」
「そんな可愛くてえっちな格好しちゃう子にも、問題があると思いまーす」
 大好きな恋人ちゃんの彼シャツだなんて、そんなの効果抜群に決まってるでしょ!





2021.01.07公開
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