800字SSまとめ

 

  【苺大福】



 私の故郷では、新年にお餅を頂く習わしがある。この異世界に迷い込んでからもその習慣は欠かせなくて、購買部のサム君に無理を言って沢山お餅を入荷してもらった。
 鏡餅を飾って、お雑煮を作って、砂糖醤油に付けたり、きな粉を塗したり、たっぷりの餡子を付けて頂いたり、などなど。私と同じ異世界の日本出身である監督生ちゃんは勿論、グリムちゃんも凄く喜んでいっぱい食べてくれたけれど。やっぱり、代わり映えのないお餅料理ばかりでは、どうしても飽きが来てしまうものだから。
 今日はちょっぴり、可愛らしいおやつを作ろうと思います。
「クローバー君、ありがとうね。きみの育てた大切な苺を分けてくれて」
「いえ、構いませんよ。俺も、その可愛い餅菓子がどんなものか気になったからな」
 嬉しいことに、和菓子に元々興味があったというクローバー君のご協力あって、美味しそうな摘み立て苺も手に入ったから。
 切り餅に少々の砂糖とお水を加えて、電子レンジで温めて柔らかくした後。真っ赤で艶々、ちょうど食べ頃の苺を丸ごとひとつ、粒餡で包みコロコロと丸めて。さっき温めたお餅で包んであげれば──うん、簡単ながら上出来な、可愛い"苺大福"の完成!
「はい、出来たてだよ。おひとつどうぞ」
「え、良いんですか?」
「もちろん、苺を提供してくれたお礼だよ。味見も兼ねてクローバー君だけ特別、ね?」
「あ……ありがとう、ございます」
 ぽっと頬を苺みたいに赤くして、彼は真っ白な大福を手に取り、そのままひとくち齧り付いた。途端、彼の表情は、ふにゃりと年相応な子供の顔に綻んで。ふふ、可愛い。
「んっ、美味い!」
「お口に合ったみたいだね、良かった」
「お餅がふわふわ柔らかくて、苺の酸味と餡子の甘味がちょうど良いし、紅白な色味も確かに可愛らしくて。うーん、なんというか……寮母さん、みたいですね」
 ええ? と思わず戸惑いの声を上げてしまったけれど。
 私を見つめる彼の瞳は、とろりと蜂蜜のように蕩けて。愛おしいものを想うような、本当に大好物を目の前にしたような、お腹を空かせた狼さんみたいな顔、してる、から。
 ぞわり、背筋を走る奇妙な悪寒と共に。どきん、と胸の奥が甘く高鳴ってしまった。
「……なーんて、冗談だよ」
「も、もう、変なこと言わないで」
 ──私、いつか彼に美味しく食べられちゃうんじゃないかしら、とか。まるで、自分が赤い頭巾を被った少女になったかのような、不思議な気分に陥るのでした。





2021.01.05公開
26/61ページ