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800字SSまとめ

 

  【子供】



 俺にとっては、何という事はない。普通の行動だった。
 恋人とのデート中、どうも迷子になっている様子の幼い少女を見かけて、その今にも泣き出しそうな姿は痛ましくて放って置けなかった、それだけの事。
 怖がられないよう、そっと近くへ歩み寄り、少女と目線を合わせる為にしゃがみ込む。どうしたの、迷子になっちゃったのかな、と出来る限り優しく声を掛けて。恋人とふたりで「もう大丈夫だよ」なんて宥めながら少女と手を繋いで、近くの迷子センターへ連れて行った。すると、ちょうど我が子を探しに来ていた母親と、運良く出会して。心の底から安堵して泣きそうに何度もお礼をする母親、そして「ありがとう」と小さな手を振る少女に、こちらも笑顔で手を振り返して見送った。
 無事に再会出来て何よりだ、良かったな──そう、ほっと胸を撫で下ろした直後。
 俺の隣で、年上の恋人は「ふふっ」と声を弾ませて笑った。
「トレイ君、小さな子への接し方とか、慣れてるんだね」
「ん? ああ、弟や妹によく世話を焼いていたからだろうな、別に普通だよ」
「その"普通"が難しいんだから。当たり前にひとを助けてあげられるなんて、素敵なことだよ。私の恋人さんが優しいひとで嬉しいな」
「いや、その……んん、ありがとう……」
 言葉通り、本当に普通の行動だと思っていたから、そんな事を真っ直ぐ褒められてしまうと、なんだか照れ臭くて困る。
 彼女だって、ああいう子供は放って置けないタイプだろうに。
「きっと、トレイ君は素敵なお父さんになれるよ。これならいつ、ふたりの可愛い子を授かっても安心だね?」
「……こら、本気にするぞ」
「冗談でなんて言えませんよ、こんな事」
 きゅっと優しく手を握られながら、恥ずかしそうに蕩けた瞳でこちらを見上げる彼女。胸の奥からじんわり甘い熱が広がって、堪らない気持ちになる。
 お節介過ぎてひとをダメにするタイプだの、温厚ゆえに腹の底で何考えてるかわからないだの、周りには好き勝手言われているが──。まあ実際のところ、恋人に少し褒められただけで内心はしゃいでしまうような、普通の男なんだ、俺は。
 でも、彼女がそんな"普通"を愛してくれるなら、こんなにも嬉しいことはない。
「──いつか、近い将来。あなたとの可愛い子を抱っこしてやれたら、それは、すごく……幸せ、だな」
「ふふ、これからが楽しみだね」





2020.12.28公開
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