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800字SSまとめ

 

  【意地悪】



 監督生の手に、とても奇妙な物が抱かれている。
「先輩っ、見てくださいっ、リドル先輩のぬいぐるみですよ!」
 それは確かに、このボクが寮服を身に纏った姿とよく似た、小さなぬいぐるみだった。
 そんな物どこで手に入れたのかと問えば「購買部のお手伝いをした報酬に、サムさんから頂いて」試作品だそうですよ、なんて答えが返ってきた。ボクに似たぬいぐるみを試作って、いったい何を売り出そうとしているんだ、あのひとは。
 おまけに、レオナ先輩やアズールなど、他の寮長たちのぬいぐるみもあった事を聞いて、ボクは何とも痛む頭を押さえた。彼女はどのぬいぐるみが欲しいか問われて、迷わずボクを選んでくれたらしいけれど──嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な心境である。
 それにしても、まあ随分と、不機嫌そうな顔をしたぬいぐるみだ。他人から見たボクは、いつもこんな怒った顔をしている、という事なんだろう。でも、彼女はそんなボクのぬいぐるみを可愛い可愛いだなんて絶賛して、大喜びの様子で頬擦りまでしているから。全く、可笑しな子だよ。
「ふふっ、思わずちゅーしたくなっちゃうぐらい可愛いです!」
 しかし突然、彼女がボクと似たぬいぐるみへ、花弁のような唇を寄せて。そんな布製の偽物に、その額や頬に、悪戯っぽくキスをして遊び始めたから。
 どろりと黒く澱んだ感情で心が埋め尽くされるよりも早く、ボクは彼女の手からフカフカの偽物を奪い取った。
「あぁっ、先輩ッ、返してくださ、」
 慌てた彼女が全て言い切るより前に、その悪戯な唇へ顔を寄せる。
「ぬいぐるみ如きにこのボクを嫉妬させるだなんて、意地悪な子だね」
 わざとらしいチュッなんて音を鳴らして、上書きするように口付けた。
「せッ、せんぱい……!?」
「ふふ、すまないね。思わずキスをしたくなってしまうぐらい、キミが可愛かったから」
「……もう。リドルさんの方が、意地悪です」
「ああ、けれども、悪い子にはお仕置きがあって然るべきだろう?」
 ──さあ、覚悟は出来ているね?
 彼女がぬいぐるみにキスをしていた分、いいや、それよりもっとたくさん、ボクは彼女の唇へ何度も口付けるのだった。





2020.12.27公開
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