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800字SSまとめ

 

  【真夜中】



 その夜は上手く寝付けなかった。
 身体はへとへとに疲れているし、頭の中も眠い眠いと訴えているのに、ぼーっとスマートフォンの淡い光に顔だけ照らされた真夜中。この光を見続けている事こそが、不眠の最大の原因であると理解しているのに、無機質な画面をスクロールする事がやめられない。
 夜は苦手、かもしれない。嫌な事ばかり思い出して、考えてしまう。あの時、冗談みたいにオレの秘密をバラしたトレイくんへの苛立ち、とか。血の繋がりはなくとも家族だなんて平気で言ってみせたリリアちゃんへの嫉妬、とか。どろりとした黒い洋墨を飲むような、暗い感情ばかり蘇って気持ち悪い。その原因も、分かっている。
 明日から我が校は、ウィンターホリデーを迎えるからだ。
 毎年、この時期は憂鬱で仕方がない。楽しかったハロウィーンやクリスマスは、まるで夢のように終わってしまった。明日には、あの息苦しい実家へ帰らなければならない、という現実を見てしまった。また、姉たちにとっての便利な召使いに戻るのか。ああ、嫌だ、駄目だ、オレは"可愛い"けーくんで居なきゃ、いけないのに。
 ──……帰りたく、ないな。
 もう指を動かす事すら気怠くて、ぼんやりとスマホのホーム画面を眺めていた。規則正しく深夜の零時過ぎを知らせてくる文字盤、そして、大好きな恋人とのツーショットが映った画面に、なんだか泣きそうになる。
 こんな不安で仕方ない夜は、今すぐにでも、彼女に「会いたい、なあ」なんて、声にもならない音を吐き出してしまった時だった。
 手元の小さな機械が突然、ぴろん、と軽快な音を鳴らして。時間だけを刻んでいた画面に、メッセージアプリの通知が浮かび上がった。
『ケイト君、遅くにごめんね』
『なんだかドキドキして眠れなくなっちゃった』
『年明けのお泊まりデート、楽しみにしてるね。おやすみなさい』
 愛する想い人からの、そんなメッセージが連続で届いたのである。
 そう、だった。ホリデーは嫌な事ばかりじゃない。せっかくの長期休みだからって、彼女が年明けにテーマパークへのお泊まりデートを、計画してくれたんだよね。
 オレは小さく笑みを溢しながら、すぐに返事をした。
『オレもホリデーが楽しみだよ』──と。





2020.12.26公開
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