800字SSまとめ

 

  【プレゼント】



 それは先月、クラスメイトの友人たちと麓の街へ遊びに行った時、賢者の島の若者たちで賑わうゲームセンターへ立ち寄って、出会ってしまったモノだった。
 大きな、ひよこのぬいぐるみ──である。ふわふわした白色の羽毛に包まれた雛鳥。ニコニコ笑う瞳と、ピンク色のクチバシが可愛らしいそれは、オレが両手で抱き締められるほど大きかった。
 その雛鳥はクレーンゲームの透明な壁の向こうで山積みになっていて、三本爪のアームで上手く掴んで、細い出口まで運ばないと手に入らないタイプだった。まだ学生の身の上ゆえに、ただでさえ手持ちの少ないマドルが、泡のように消えることは端から見えている。──でも。
「エース、何でそんなぬいぐるみに、今日の全財産使っちゃったんだ?」
「……うっせ、ほっとけよ」
 結局オレは、その雛鳥を狭い箱の中から救わずには居られなかった。デュースには何故か「お前にそうも可愛い趣味があったなんて!」とか、妙に喜ばれたけど。
 別に、オレにはこんなぬいぐるみを集める趣味なんてない。……ない、けど。
 この白い雛鳥が、あまりにも、オレの片想いしている少女と酷似して見えた。ただ、それだけの、何とも馬鹿な話だった。

 クリスマスの朝。
 オレは例のひよこのぬいぐるみに、適当な赤いリボンを首へ緩く結んでやった。
「これ、置き場ないから貰って」
 そうして、この雛鳥と酷似した可愛らしい少女へ、ふかふかの白を投げるように押し付けたのである。
「え……? 貰って、いいの?」
「ん。クリスマスプレゼント、的なヤツだから」
 正直、困ってるだろうな……。この歳にもなって、ぬいぐるみ贈るとか、絶対に迷惑だった。なんか、ネットの評判も悪かったし。女子の要らない贈り物ランキングで上位に入っていた覚えがある。
 彼女の反応をマトモに見る度胸がなくて、オレは寒空の下そっぽを向いたまま、白い息を深く吐き出した。
「──嬉しいっ、ありがとう、エース君!」
 しかし、彼女はオレの想像と裏腹に、心の底から喜びの声をあげてくれたのだった。

 ああ、やっぱり、そのぬいぐるみとお前、よく似てるわ。





2020.12.25公開
22/61ページ