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800字SSまとめ

 

  【幸せ】



 私の通う魔女学校とナイトレイブンカレッジは姉妹校で、クリスマスの頃になると両校の親睦を深める目的で、合同ダンスパーティーが行われる。
 ひょんなことから、その実行委員的な役目を任されることになった私だけれど。正直言って社交ダンスなんて、誰かとペアを組んで踊るだなんて、私には一生、縁のないものと思っていた。
「お前さあ、全体的に痩せ過ぎじゃない?」
「えっ……そう、かな。よく、わからない、」
「なんか、折れそうで怖いんだけど。ちゃんと食うもん食えよな、ただでさえ小っちゃいんだから」
「こ、これから成長、します。……たぶん」
 そんな私が今、同い年の素敵な男の子と仲良く手を繋いで、余裕そうに会話なんて交わしながら、優雅な音楽に合わせてステップを踏んでいるだなんて──。やっぱり幸せな夢でも見ているのかな、と疑ってしまうほど現実味のない状況だった。
 時折、私が回る方向を間違えそうになったり、足を踏んでしまいかけても、彼が器用に修正して軽やかなリードを続けてくれるから。安心して、身を任せることが出来た。
 ふふん、と得意げに私を見下ろして笑う彼は格好良くて、思わずうっとり見惚れる。
「エース君の手は、おおきくて、安心するね」
「は、はあ?」
「タキシードも似合ってて、ダンスも上手、本物の王子様みたいで、素敵」
「お前ッ、もうっ、ホント、そういうのリズム狂うから、やめろバカ」
 私は素直に褒めたつもりだったけれど、何故か顔を赤くして怒ってしまう彼。何が駄目だったのかな? ああ、でも、ムッと拗ねたように口を尖らせる彼は、可愛い。
 どきん、どきん、と胸の奥が甘く高鳴る。この感情は、きっと恋なんて言うんだろう。
「エース君、わたし、ね……」
 ──あなたのことが、だいすきよ。
 そう口に出かけた言葉を慌ててグッと飲み込む。
「え? いま、なんて、」
「な、なんでもない! まだ、内緒」
 今はまだ、恥ずかしくて言い出せないけれど。
 でもね、いつか必ず、あなたのくれたいっぱいの愛、私も伝えて返したいと思うの。
 嗚呼──みにくい家鴨だった頃は、こんな幸せな気持ちを貰えるなんて、夢にも思わなかったなあ。





2020.12.24公開
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