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800字SSまとめ

 

  【魔法使い】



「お嬢ちゃん、本当にパーティーへ行かなくて良かったのかい?」
「あら、ゴーストのおじさま。私は良いんですよ。ドレスを借りる余裕もありませんし、可愛い寮生ちゃんたちが楽しんできてくれたら、それで嬉しいんです」
「学園長も意地が悪い。お嬢ちゃんのドレスぐらい用意してくれても、」
「嫌ですよ。ドレスのお礼に後でどんな見返りを求められるか、そちらの方が怖いもの。……ほら、おじさま。校舎の方から、素敵な音楽が聴こえてきますよ」
 私はそう言いながら、オンボロ寮2階にある自室の窓を全開にした。ヒュウッと冬の冷たい風が通り抜けて。ほんの微かに美しい音色が届き、私はうっとり瞳を細める。星が瞬く夜空を背景にした、お城のような校舎を眺めた。
 今日はあの校舎の中で、この学園と姉妹校関係にある魔女学校との合同による、クリスマスを祝うダンスパーティーが行われている。
 監督生ちゃんたちからお土産話を聞くのが楽しみね。そんなことを考えながら、自然に笑みを溢した瞬間。
「──こんばんは」
 目の前に突如、ばあっと逆さまに現れたひとのお顔に「きゃあ!?」なんて甲高い悲鳴をあげてしまった。
「えっ……!? く、クローバー君! ど、どうしてっ」
 くるんッと空中で華麗に体勢を戻したそのひとは、白いタキシード姿で魔法の箒に跨る、トレイ・クローバー君だった。まるで王子様のように着飾った彼も、本来ならパーティーへ参加している筈なのに、何故──?
「ふふっ、驚かせてしまって、すみません。どうしても寮母さんに会いたくて、つい」
 悪戯っ子の顔で笑う彼に、私は驚いて声も出なかった。
「俺と一曲、踊って頂けませんか」
「そんな、まさか、私を誘う為に、パーティーを抜け出して──?」
「まあ、実はあの煌びやかな雰囲気が苦手で……。逃げ出すついでに、シンデレラを迎えに行くのも一興かと思って、な?」
「……もう、年下の癖に格好つけちゃって」
「良いじゃないですか、クリスマスぐらいは」
 私は嬉しくて泣きそうな気持ちを堪えながら、そんな優しい魔法使いさんの差し出してくれた手を取るのでした──。





2020.12.23公開
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