800字SSまとめ
【幸運のカップケーキ】
ボクと監督生は時々、中庭でふたりきりのシエスタを楽しむ程度には、仲の良い友達同士である。(と、ボクが勝手に思っている)今日も良い天気なので一緒に日向ぼっこをしていたら、彼女が嬉しそうな顔をして「良ければ食後のデザートは如何ですか」と心弾む提案をくれたのだ。
じゃーん! なんて愛らしい効果音付きで、彼女がボクに差し出したもの。それは見るからに甘そうな、パステルピンクのクリームをたっぷり乗せた、カップケーキだった。
「幸運のカップケーキ、だそうですよ!」
今朝、サムさんの所で特売されてて、せっかくだから私とグリムと、リドル先輩の分も買っちゃいました。いちど食べてみたくて──と、ワクワク期待に満ちた様子で、自分用のカップケーキを見つめている彼女。しかし、こちらの顔をチラリと覗き込んで、呆然としたボクに気付いた途端、ハッと焦ったような顔をした。
「もしかしてっ、ハートの女王の法律違反になっちゃいますか? 昼食後にカップケーキを食べてはいけない、とか!?」
「あ、いや、そんな法律はないから安心おし」
ほーっと溜息をついて安堵の表情を浮かべる彼女が、なんだか可笑しくて。ボクはフフッと声を上げて笑ってしまった。
例えそんな法律があったとしても、今のボクなら無視をするだろう。……だって、大切な友達が、ボクの為に用意してくれたケーキを自ら無下にするだなんて真似、もう二度としたくないから。
「とても嬉しくて、驚いてしまったんだ。ありがとう、頂くよ」
「ふふ、よかったあ」
彼女とほぼ同時に、あーむっ、とカップケーキを頬張った。さっくりとしたマフィンに、濃厚なバタークリームの味が口いっぱいに広がる。
少し甘さが過ぎるような、つい、トレイが作ってくれるケーキと味を比べてしまうけれど、まあ、これも悪くはない。
何より──。
「うん、なかなか美味しいね」
「はいっ、美味しいです!」
きっと、キミと一緒だから。そのデザートは特別、幸せな味のする気がした。
2020.12.05公開