800字SSまとめ
【王子様】
ウチの学園では毎年クリスマスの時期になると、姉妹校の魔女学校との交流を目的とした、ダンスパーティーが行われる。オレはそんな交流会の代表生徒、いわゆる実行委員的な役割についており、ひと月ほど忙しく駆け回っていた。
当日、賑やかなパーティー会場を見守っていると、なんだか自然に笑みが溢れてくる。男子も女子も華やかに着飾って、踊りや食事を無邪気に楽しむ姿は微笑ましい。頑張った甲斐があったなあ、とか優しい気持ちになれた。
「やー、今年も大成功って感じだね♪」
そんな気持ちを共有したくて、パッと隣を向けば。金色が眩しいロングドレスに身を包んだ、オレの美しい恋人も喜んで「頑張って良かったね」と優しい言葉にしてくれた。
「ウチの寮長もバッチリ楽しんでくれてるみたいで、良かった〜」
「あっ、向こうで踊ってるのは、デュース君かな?」
「わ、踊り方はめちゃくちゃだけど、超笑顔! コッソリ写真撮っちゃおうかな」
「こら、隠し撮りはダメだよ、けーくん」
「はあい、わかってます。後で集合写真でも撮ろっか!」
「うん、そっちの方が素敵。……ああ、ほんとうに、たくさんの生徒が参加してくれて、喜んでくれて嬉しいね」
各々自由に楽しんでいる後輩たちを眺めながら、彼女とふたりで静かに笑い合う。
不意に、彼女の細い指先が、オレの手を取った。どきん、と心臓が跳ね上がる。
「私ね、このダンスパーティーが好きなの」
だって、と彼女は照れ臭そうに微笑んで言葉を続けた。
「今だけは、ケイト君のお姫様で居られるから」
ああ、なんて可愛いことを言うんだろう、でも──。
彼女にキュッと柔く握られた手を、オレはそっと持ち上げる。
「もう、そんな寂しいこと言わないで」
彼女の手の甲へ唇を寄せて、ちゅ、なんて甘い音を鳴らせば。
「君はいつでも、オレだけの可愛いお姫様だよ」
ぽんっ、と目の前で真っ赤な薔薇が咲いた。
「……けーくんったら、格好つけ過ぎです」
「ふふん、たまには良いでしょ。さっ、オレと一曲、踊って頂けますか?」
「──ええ、喜んでお受けします、王子様」
2020.12.22公開