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800字SSまとめ

 

  【ダンス】



 ナイトレイブンカレッジでは毎年クリスマスの時期に、姉妹校の魔女学校との交流を目的とした、ダンスパーティーが行われる。
 そのパーティーに、新1年生でありながら僕も誘って頂いたのだが──正直、とても、疲れていた。
「はあ……」
 僕は会場の隅で、ひとり寂しく溜息を落とす。
 こんな僕にも声を掛けてくれる女子生徒は居るが、異性に不慣れなせいでロクな会話も出来ず、相手は早々に立ち去っていく。その為、僕はまだ誰とも、一曲も踊れていなかった。これじゃあ、ローズハート寮長に社交ダンスを教えて頂いた甲斐がない……。
 オマケに、このキラキラ華やかな雰囲気も得意ではないから、何もしてない癖に気疲れしてしまっている。そんな僕に「おーい」と聞き慣れた声が届いた。
「デュース、そんな隅でどうしたのさ。ひとりぼっちの芋虫気分かな?」
 それは僕をこのパーティーに誘ってくれた、先輩の声だった。
 実は──と、少し疲れて休憩していた事を話す。先輩は少しだけ、申し訳なさそうに眉を下げた。
「ふうん、おまえは器量が良いのに勿体無いなあ」
 先輩は暫く悩む素振りを見せた後に、ニタリと悪い顔を見せる。そして、僕の手をパッと掴んだのだ。突然のことで、ドキッと心臓が跳ねた。
「では、このぼくと踊ろう!」
「えっ、せ、先輩と!?」
「おや、ぼくが相手は嫌? やっぱり可愛いアリスの方が良い?」
「いえッ、そんな! 寧ろ光栄っていうか、嬉しいですけど、」
「じゃあ、何の問題もないね。さあ、パーティーは楽しんだ者勝ちだぞ!」
 先輩は眩しい笑顔で僕の手を引いて、お堅いルールも男女パートも無視をして、自由にくるくる跳ねるように踊り出した。僕は必死で先輩のリズムに食らい付いていく。習った社交ダンスなんて、微塵も役に立たなかった。──けど。
 ふたりとも男子生徒で、タキシード姿なのに。周りから向けられる奇異な視線など無い、温かな拍手が鳴っている。ただ、ひたすらに、とても楽しかった。
 ああ、でも。僕をリードしてくれるその手は、まるで。
 小さくて柔らかな、少女の手のようだったな──。





2020.12.21公開
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