このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

800字SSまとめ

 

  【お誘い】



 ナイトレイブンカレッジではクリスマスの頃、姉妹校の魔女学校との合同ダンスパーティーが行われる──なんて話を、学園長から聞かされたのは1週間前のこと。
 あまりに突然の話だったけど、学園長は「私、優しいので!」とか言って、一応タキシードの用意はしてくれた。友人たちにダンス経験なんて無い事を相談すれば、ハーツラビュルで練習させてもらえる事となり、素人に毛が生えた程度はステップを踏めるようになった。
 おかげで、なんとかパーティー当日、それなりの姿で迎えることは出来たけど──。
 右も左も、普段は見慣れない他校の女子生徒たちが、カラフルで華やかなドレス姿に着飾っている。皆、とっても綺麗で。
 ──そんな姿が、ちょっと羨ましい、なんて。
「……監督生?」
 心配そうな優しい少年の声に呼ばれて、ハッとする。振り返れば、赤いタキシード姿がカッコいいリドル先輩が居た。
「あっ、先輩! ダンス練習の件、ありがとうございました」
「いいや、構わないよ。ボクも久しぶりだったから、良い練習になったよ。……まあ、キミにはどうしようもなく、苦手な分野だったみたいだね」
 あはは、と苦笑いをするしかなかった。私は運動神経が悪い訳じゃないけど、良いとも言えなくて。ダンスの練習結果は散々で、もはやグリムの方が上手だった。
「そもそも、キミに男性パートなんて似合わないよ」
 え、と呆けた声が零れる。
 先輩は突然、私の前へ片膝をついて。真っ白な手袋に包まれた片手を差し出した。
「一曲、お相手願えますか」
 にこりと柔らかに微笑みを向けるその姿は、まるで。
「先輩、王子様みたい……」
「か、からかうのはおよし。それで? キミはボクのお誘いを受けてくれるの?」
「で、でも、私、ご覧の通り、今は男子生徒で──」
「そんなことは関係ないよ。ボクはキミと踊りたいんだ、監督生」
 ああ、そんな。このひとは、美しく着飾ったお姫様たちには目も暮れず、ただひとり、迷い子の私を選んでくれるんだ。
「さ、手を取って。ボクのアリス」
「……はいっ!」
 私は差し出されたその手を、強く握り締めた。





2020.12.20公開
17/61ページ