短い話まとめ
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
花束シークレット!
リドルさん、そう声を掛けようとして息が止まる。くるり、と振り返って私に微笑みかけてくれたそのひとは。
「あ、ユウ君──。わざわざ様子を見に来てくれたんだね、ボクのアリス」
艶感溢れる真紅のテールコートをなびかせて、ゆっくりと左の前髪を耳にかける仕草を魅せる。本当に一瞬、時の静止を錯覚するほど、呼吸を忘れるほどに、その赤薔薇のひとは美しかった。今回限りの、なりきり花婿。まるで、夢の国の王子様みたいな姿だった。
手には花嫁へ贈るための、ブーケも持たされている。真っ赤なバラとダリアの組み合わせが華やかで大人びた雰囲気の感じさせる、けれど花々をまとめるクリーム色のロングリボンが可愛らしい、なんともリドルさんのイメージにぴったりなブーケだった。
「どうしたんだい、ボンヤリして。ボクの姿に見惚れでもしていたのかな? ──なんて、ね」
からかうような口調で笑いながら、美しく着飾った彼が歩み寄ってくる。自分の今の制服姿ではこんな彼の隣に立てない、相応しくないと、つい怯んで後退りしてしまったが。すぐ追い付いた彼の、真っ白なグローブを嵌めた手に腕を掴まれて引き止められた。
「冗談のつもりだったのだけれど、そうも熟れたイチゴのような顔をされてしまっては、少し期待してしまうね。どうかな、ボクの花婿姿は」
「か、……かっこいい、です」
「よかった。ありがとう、キミからの褒め言葉がいちばん嬉しいよ」
大人びた姿でそうも愛らしい幼子のような笑顔を見せられると、差の激しいギャップにくらくらしてしまう。
「ところで、キミはブーケとブートニアの儀式を知ってる?」
「えっと? ブーケトスなら、知ってますけど」
「ボクの生まれ育った王国で、言い伝えられている儀式でね。昔々、とある青年が恋人に想いを伝えるため、愛のこもった花束を──ブーケを作ったことが始まりらしい。様々な苦難や努力を重ねて、一本一本の花を集めて作り上げた、美しい花束。青年は恋人へそのブーケを差し出して、結婚を申し出る。恋人はとても喜んでくれた。そして結婚を受け入れる言葉の代わりに、ブーケから特に美しい一本を抜くと、青年の襟元を飾った──。それがブートニア、花婿の襟元を花で飾るようになった由来、と言われている」
「へえ……なんだか、素敵な昔話ですね。ロマンチックです」
「ああ、そうだね。現在でも結婚式には、昔の言い伝えを真似たブートニアの儀式が行われたりするんだ。残念ながら、このブーケはボクが一本一本、苦難や努力の末に摘み取った花々では、ないけれど──」
彼はその手にずっと持っていたブーケを、私に向かって差し出した。
「キミを想って、選んだ花束だ。受け取ってくれますか、ボクの愛しいアリス」
それは、本当の儀式じゃないけれど。ただの、ごっこ遊びのようなものだって、わかっているけれど。喜びで心臓がどきん、どきんと高鳴って、甘い熱が全身に広がっていく。
「──はい、喜んでお受けします」
私は真っ赤なブーケを大切に受け取って、高まる愛おしさにぎゅっと胸元へ抱いた。そして、聞いたばかりの昔話のように、どれも艶やかな花束の中から、いちばん美しいと思うバラを抜き取る。じっと待ち構えてくれている彼の襟元に、まだ何も飾られていなかったそこに、私の答えを飾った。嗚呼。
「やっぱり、リドルさんには真っ赤なバラが似合いますね」
「ふふ、ありがとう。いつかふたりで、本当の儀式をしよう」
「きっと、約束ですよ」
「ああ、必ず」
私と彼の、秘密の結婚式ごっこ。
誰にも見られぬよう、真っ赤なブーケでふたりの顔を隠して、そっと誓いのキスを交わした。
いつか、きっと。本当のハッピーエンドを迎えられる日を信じて──。
2020.07.19公開
(ゴスマリ開始前、駅広告が公開された衝撃で書いた物なので、イベントや花婿パーソナルストーリー要素は含まれてません。ゴスマリ最高でした)