短い話まとめ
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最愛シンドローム!
「リドル先輩。質問、いいですか?」
「なんだい、アリス」
「あっ、それです。先輩は時々、私のことをアリスと呼んでくれますけど、なぜですか?」
少し恥ずかしいけど呼ばれるたびに嬉しい気持ちがして、前から気になっていたんですよ。なんて、本心から照れ臭そうに微笑む後輩。ボクは悩み、しばらく沈黙した。
無意識に発していた言葉。不意に自覚してしまった、初めて抱える感情。ようやく理解したばかりの、生まれて間もないそれを、素直に伝えてしまっていいものか。
しかし、いつかのボクが醜く歪んだ様も、ボクの過去をも知った監督生に、今更なにも隠す必要はないだろう。ボクらはもう同じ想いを抱えている筈だから。
「……キミは、不思議の国を荒らし回った挙句に、あのハートの女王さえも恐怖させたという、ごく平凡な愛らしい少女をご存知かな」
「えっ、どんな子ですかそれ、怖い」
「フフ。その少女の名が"アリス"だ。まるで、伝統ある"なんでもない日"おめでとうのパーティーを滅茶苦茶にした挙句、ハーツラビュル寮の長を否定して怒らせた、キミのようだろう」
「ゔッ……アリスの名は、あまり名誉な呼び方では、なかったんですね……」
「いいや」
あの日の出来事に関して妙な罪悪感を抱いているらしい監督生が、酷く落ち込んでしまったのでボクはすぐに首を横に振った。
「ボクはきっと、幼い頃から"アリス"に出会いたかった」
きょとん、と黒曜石の如き目を丸くする監督生。ボクは淡々と言葉を続ける。
「こんな
もちろん、トレイやケイト、チェーニャの存在もボクには救いであった。だけど、彼らはボクを知っているからこそ、女王様に逆らうなんて真似は出来なかったんだ。でも、何にも知らないアリスには出来てしまう。
「お母様の歪んだ愛情に囚われていた幼いボク、可笑しな法律を盲信していた今までのボクを、救ってくれたのはキミだろう。アリス──」
「……そんな。私はただ、私の為だけに動いただけで、未だに正しいも間違いもよくわかっていないままで、先輩を救うだなんて、」
「キミがどう思っていても、ね。ボクは確かに、キミのおかげで変わる勇気を持てたんだよ。……まあ、あの時のボクの醜態は、早急に忘れてほしいけれど」
「うーん、どうしましょう。また一緒にマロンタルトを食べてくれたら、考えてあげますよ?」
「まったく、キミも意地の悪い子だね」
悪戯好きな幼子のように笑う姿も可愛いけれど、これでは話が脱線してしまうよ。コホン、と小さく咳払いして話を戻そう。こちらの真剣な空気を察したのか、監督生の表情が強張る。
「──だから、キミはボクのアリス。狂おしいほど愛おしい、
ボクは出来る限り最大限に優しく、愛しい人の頬へ手を伸ばした。するすると柔らかな頬から顎へ指先を滑らせれば、日頃よく華奢だと揶揄われるボクよりも細い肩が、ふるりと震える。
「もう、おわかりだね」
リドルさん、とボクを呼ぶ声は弱々しくて、けれど熱っぽくて。驚きのあまりにそれ以上の言葉を続けられなくなった、桃薔薇の花弁のような唇。その桃色に、赤く染めた自身の唇を、押し当てる。初めて経験する柔らかな感触を惜しみつつ、ゆっくりと離れた。
「ボクはキミを愛してしまったんだよ、ユウ」
嗚呼、怒り狂うハートの女王よりも真っ赤な顔で俯いてしまった、可愛らしいキミよ。
どうか、これから先もずっと。ボクだけの少女で居てくれるかい?
──アリスは小さく頷いた。
2020.07.17公開
(まだtwst始めて間もない頃に書いたSS。リドル君には愛するひとを、ダーリンやハニーと呼び掛けるような感じで「アリス」って呼んでほしい)