おいしいじかん
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帝國図書館第壱特務司書地味で物静かな元引きこもりの23歳
薬の調合が得意な錬金術師
お人好しで頑張り屋さん
瓶底のような眼鏡をかけている
おっぱいがとても大きい
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〜春の終わり編〜
大正時代の雰囲気を未だそのままに残した街並み。路面電車がガタンゴトンと走る道路を横目に、仲睦まじく隣並んで歩く、男女がふたり。
本日は帝國図書館の休館日。前日、珍しく特務司書の方からデートの誘いを受けて、助手の織田作之助はとても喜んだ。
ふたりはお揃いの、司書が桃色で助手が赤色という色の違いはあれど、同じ格子柄の着物を身に纏っていた。まだ季節の変わり目で体温調節の難しいこの時期、対策として羽織っている黒い羽織りまでもがお揃いで、先程立ち寄った雑貨屋でその姿を見た店員に「仲の良いご夫婦なんですね」なんて和まれてしまった程である。助手はすぐ上機嫌になって、独特の笑い声を響かせながら「かわいい嫁はんやろ? 自慢の良妻なんやでえ」などと返していたが、司書は照れて黙り込んでしまって、けれど決して否定することはなく微笑んでいた。何せふたりはまだ夫婦でなくとも、既に好い仲であった。
雑貨屋を後にしてもう少し線路沿いの歩道を進んでいくと、司書が「あっ」と嬉しそうな声を上げた。此度のデートの目的である、彼女が行ってみたいと前々から願っていた喫茶店を見つけたらしい。ぱっと見は周りの風景によく馴染む普通の喫茶店なのだが、店の入り口周辺には何故かやたらと兎のオブジェが飾られている。兎の止まり木、という店名である事から、兎推しの店なのだろうか。
「ほおほお、ここかあ、おっしょはんが来たがってたお店って」
「はい! よかった、あんまり、お客さんいない。土日のおやつ時は、行列が出来るくらい、人気店、なんですよ」
「へえー、詳しいなあ」
「今日の為に、色々、調べてきました。ずっと、来てみたかったんです。さくのすけさんといっしょに」
その言葉に嘘はないようで、普段より少し饒舌で声が弾んでいる。何より、自分と一緒に来たかった、なんて嬉しそうに言われてしまっては、恋仲の織田は彼女のあんまりな可愛さで、ぐっと胸元を押さえるしかない。押さえないと心臓が破裂しそうな気がした。
さあ早速、ふたりは喫茶店の中へ。いらっしゃいませ、と丁寧に出迎えてくれた女給は、花模様の鮮やかな着物の上から白いエプロン姿という、和洋折衷な制服姿だった。エプロンの胸元にもまた、兎がいる。あの服ええなあ、おっしょはんにも着てほしいなあ、なんて邪な妄想に浸りながら、織田はご機嫌な彼女の後をのんびり追って、一番奥の窓際の丸テーブル席に落ち着いた。
司書はすぐにメニューを手に取ると、あるページを開いて見せて、これですよ、と織田に指で指し示して見せる。そこには"うさぎパフェ"なる文字が賑やかにぴょんぴょん跳ねていた。
「随分可愛らしいパフェーやねえ、咲ちゃん、これが食べてみたかったんや?」
「そうです、そうです……! えっと、わたし、この、フランボワーズのうさぎさんに、しますっ」
「ふらん……?」
「フランス語で、木苺のこと、らしいです。作ちゃんは、どうしますか? ここは、うさぎさんのシュークリームも人気で、あ、あとっ、コーヒーも結構、美味しいらしいです」
「ほほーう、それなら、わしはそのコーヒーと……わしもうさぎさんパフェ食べてみたいなあ、チョコ味のやつ」
早々にメニューが決まり店員への注文を終えて、ふぅ、とひと息。テーブルの上に灰皿が見当たらない事から、さすがにここは禁煙かと、少し落胆する織田へ「ふふっ」と弾んだ笑い声が耳に届いた。
「わたし、いま、すごくうれしいです」
「うん、見てわかるよー? さっきからずぅっとにこにこして、ほんま嬉しそうやわ」
「いつも、デートの時って、さくのすけさんに、任せてばっかり、だから。たまにはわたしも、あなたを、あなたの知らない、おいしいお店に、案内したいって、思っていました」
えへへ、なんて照れ臭そうにますます笑顔を満開にさせる司書を見て、もはやその笑顔が眩しすぎて、織田は自身の口元を片手で押さえると、目線を窓の向こうに移した。そうでもしなくては、うちの嫁はん可愛いが過ぎる、とでも大声で叫んでしまいそうであった。
そうこう戯れている内に、先程出迎えてくれた女給が飲み物と、例のうさぎパフェをふたつ運んできてくれた。
司書の元に木苺色の顔した兎と、織田にはショコラ色の顔した兎が、いっぴきずつ置かれる。兎たちはそれぞれグラスからひょっこり顔を出して、つぶらなチョコの目でこちらを見つめていて、何とも愛らしい。アイスに刺さる細長い葉型のホワイトチョコは、兎の耳を表現しているのだろう。頭の土台になっているシュー生地は、兎の首回りのふわふわした毛のように見える。このブルーベリーは尻尾かもしれない、なんて話し合ったりして、もう見た目を眺めるだけでも非常に楽しめる一品である。
「か、かわいい、ですねえ……」
「食べるの勿体無いわあ♡ と言いつつ、早速お顔を頂きます」
「あっ、わたしにも、後でショコラ味、ひとくちください」
「ええよ、ええよー。代わりにそっちもひとくち頂戴な?」
いただきます、とふたり揃って手を合わせて、まずは織田がショコラ顔のうさぎをひとくち。ぱりぱりのシュー生地の上で、程よく溶け出したチョコアイスが絶妙に美味い。実に濃厚なチョコ味だ。彼女と同じく甘い物が好きな織田は、甘味の幸福感で自然と自分の顔がだらしなく緩んでいくのを感じた。やはり甘い物は良い。特に外国産の甘さは中毒性があると彼は思う、どんな重い病に伏せようと食べたくなってしまうのも仕方がない。
司書の顔を見れば、彼女もスプーンを咥えて、ぎゅうっと目を閉じてこの甘い幸せに浸っている。やっぱりこの子の美味しい時の顔は特別可愛らしいなあ、とその姿にまた心を癒されつつ、約束通りに再びアイスをひとくちすくった。
「ほら、咲ちゃん、あーん」
「あ、あー……んっ……んんっ、おいしい、ショコラもおいしいです!」
自分の頬に両手を当てて、感激いっぱいの司書である。が、すぐにハッと我に返り、自分のパフェに向き直った。容赦無く兎の木苺フェイスを削る。
「はい、作ちゃんも、あーん」
こちらが差し出せば、向こうもお返しだと木苺色をスプーンに乗せて差し出してくれる、そんな美味しい分け合いが何だか嬉しくて仕方なかった。
──ああ、幸せやわ。
この甘酸っぱい春の終わりのひとときを、織田は心の底からそう思った。
ふたりはそこそこ大きめのグラスに盛られたパフェも何のその、可愛いうさぎをいっぴきずつ、ぺろりと平らげてしまった。
「ごちそうさまでした」
「ごっそさんでした。また来ますー」
さあ、おやつも堪能したところで、楽しいデートはまだまだこれからである。ふたりは喫茶店を出た後も、仲良く手を繋いで、また賑わう街を歩いて行くのだった。
2017.05.14公開
2018.04.10加筆修正